試し撃ち
「どっかに手頃な的転がってへんかなぁ?」
アキト達は試し撃ちの為に山の中を散策していたのだが、雷を落とすことになるであろう事は確実なので、山火事にならないように開けた場所を探しつつ、何か的になる頑丈そうな物を探していた。
「そんなに慎重にならなくても大丈夫だろ?もうその辺でぶっ放そうぜ。」
「アホか!仮にも五天龍最強の力をぶっ放すんやで⁉︎山火事どころか、うっかり山が消し飛んだらどうするんや‼︎」
「そんなに危険な力なのか?そんなの試し撃ちできる的なんてあんのかよ……。」
「せやなぁ、山が消し飛ぶは冗談にしても、海とか超巨大な浮遊石でもあればええんやけどなぁ…。」
浮遊石とは空中魔法都市フリューゲルの地盤となっている空中に浮かぶ力を持った石である。
「山の中に海があるわけねぇだろ…。そんなにデカい浮遊石も都合よく飛んでるわけねぇし……。これじゃ修行になんねぇぞ…。」
アキトがぼやきながら歩いているとクロムが急に立ち止まった。
「うお!急に止まんなよ。なんかあったのか?」
「水の音や!近くに川があるみたいやな。」
猫耳をピコピコさせながら、クロムが木々を掻き分けて進むと確かに川があった。
「よっしゃ!これを下って行けば海はなくても湖ぐらいならあるやろ!」
「まぁなんの宛てもなく歩き続けるよりはマシか……。」
そんなこんなで湖を目指して歩き続けること1時間。2人は遂に湖に到着した。
「おぉ!やっと着いたわ!この広さの湖なら多分大丈夫やろ。丁度真ん中に浮島っぽいのもあるみたいやし、アレを的にしよか。」
2人が見つけた湖は対岸が辛うじて見えるかどうかというぐらいの大きさがあり、中心の辺りに直径200mぐらいの浮島らしきものがあった。
「やっと着いたか…。1発の試し撃ちの為に、なんでこんなに苦労してるんだ……。」
「まぁそう言わんと。さっそくぶっ放してみいひんか?先ずは的を狙う練習がてら軽くやで?」
「はいよ…。そんじゃ、軽くぶっ放してみるか。」
そして、中心の浮島に狙いを定めてアキトは雷が落ちる光景をイメージしながら魔力を放出してみた。しかし、これが大惨事の引き金だったとは夢にも思っていなかった……。
空が暗くなったと思ったら、目の前の浮島どころか、湖全体に及ぶ勢いで、轟音を轟かせながら雷の雨が降りまくってきたのだ!
「のわぁああぁあ!軽くって言うたやろ!なんちゅうもん撃っとんのや‼︎」
「知るか!俺は軽く撃つつもりだったのに、1発で魔力全部持ってかれたんだよ‼︎」
「んなアホな⁉︎いや、今はとりあえず避難するんや!こんなん巻き込まれたら命がいくつあっても足りんわ!」
2人は全速力で湖から離れ、落雷の雨が止むのを待ち続けるのだった……。
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「どうやら終わったみたいやな……。」
「まったく…。酷い目に遭ったぜ……。」
「お前の魔法のせいやろが⁉︎まったくとんでもない威力やな……。」
2人でぼやきながら湖の様子を見に戻ると、目の前の光景に唖然とした。
「んなアホな……。ここ、さっきまで湖だった筈なんやけど……。」
2人の目の前に広がる光景は、先程まで湖があったとはとても思えない凄惨な光景だった。
「とりあえず目標だった浮島は軽く消し飛んだみてぇだな。」
「アホか!よく見てみい⁉︎浮島どころか湖の水が干上がって跡形も無くなっとるやないか‼︎」
クロムの言う通り、雷の電熱によって湖の水が蒸発して跡形も無くなってしまっていた!
「魚でもとって帰ろうと思ったんだが、この様子じゃあ無理そうだな…。」
「当たり前や⁉︎魚なんか1匹残らず消し炭になっとるわ!っていうかそれどころやないやろ!」
なんでそんなに冷静なんだ!とクロムがツッコミを入れてくるのをさっくり無視して、アキトは自分の魔力の考察を始めた。
「魔力は全部持ってかれたけど特に身体に変わったところはないんだが…。俺の力の代償は何なんだ?」
「マイペースすぎるやろ……もうええわ…。……おそらくお前の魔法は威力がぶっ飛んでる代わりに回数制限があるんやろ。1日1発限定っちゅうわけやな…。」
「なるほどな…。でもいくら威力があっても1日1発しか使えないとなるとこのままじゃ使い勝手が悪すぎるな。打つたびに毎回地形を変えるわけにもいかないし、他の使い方を考える必要があるな…。」
「こんな規格外魔法は俺の手に負えんわ…。魔力の効率化はお前の魔法には関係あらへんから、あとはイメージと自分なりの使い方を考えながら自分で調整するんやな…。明日からは体術の鍛練と体力強化だけ面倒みたるわ…。まぁ、何か魔法のことで聞きたいことがあれば俺のわかる範囲で教えたるわ…。」
「それよりここは中々いい修行場になりそうだな!広さもあるし周りに燃える物もないし、新技開発にはもってこいだな!今度からはここで修行しよう!」
「……とりあえず今日はもう帰りたいんやけど……。本格的な修行は明日からでええやろ…。」
「そうだな。身体に異常はねぇけど、気怠いのは確かだしな。」
「普通は魔力が切れたら気絶ぐらいはするんやけどな…。ほな、今日は体力強化がてら道場まで走って帰ろか。」
2人は道場を目指して、木々を躱し、進路上にいた野生動物たちを蹴散らしながら山の中を疾走するのだった…。
「魚は駄目だったけど、肉は手に入ったな。」
運悪く2人に遭遇してしまった動物たちは2人の食糧となるのだった……。