魔力講座
今回はタイトル通り、説明回です。
アキトが目を覚ますと、そこは見慣れた木造の古い道場の中だった。
「おっ?ようやく目ぇ覚めたか?気分はどうや、我が弟子よ?」
クロムがにやにやしながら声をかけると、アキトは顔をしかめながら、最後に意識を失う直前のことを思い出した。
「たしかクロムだったか…?あの後どうなったんだ?たしか雷をイメージしながらぶん殴ろうとしたんだが…。ピンピンしてるってことは失敗したのか?」
割と自信満々にラスト一撃を宣言しておきながら失敗したのかと、少し前の自分を思い出して軽く自己嫌悪に陥りながら頭を抱えていると、クロムが嬉しそうに先程の戦いの顛末を教えてくれた。
「いやぁ〜。最後の一撃はかなり良かったで!ほんまに一瞬見失ったと思ったら、目の前まで距離を詰められとったからな。まぁ体が耐え切れてへんかったから不発で終わっとっ
たけどな。あのまま喰ろうてたら多少はヤバかったかも知れへんな。あと弟子についても触れてくれへんか?」
と最後は若干寂しそうに付け加えるクロムに対して、こんなのに敗けたのかとうんざりしながら答えた。
「誰がいつお前の弟子になったって?俺はそんな約束はしてねぇぞ。」
「ちょっ!お前なぁ、俺が勝ったら大人しく鍛えられろって言うたやろ!」
話しが違うぞと絶叫するクロムにアキトは舌打ちした。
「ちっ!仕方ねぇな…。約束は守ってやる。大人しくお前に鍛えられてやるよ。絶対に弟子にはならねぇけどな。」
「ほんまに捻くれてんなぁ。まぁ大人しく鍛えられてくれるんなら何でもええわ。」
やれやれと軽く肩をすくめるクロム。
「まぁ、どっちにしろ今の俺は天涯孤独みたいなもんだからな。頼れる相手もいないし、これから1人で生きていくにはどっちにしろ鍛え直そうと思ってたんだ。爺ちゃんの遺言を無視するのも悪いしな…。俺が強くなる為に容赦無くこき使ってやるぜ。」
(1人で生きてく為…か。まぁ、信じとった相手にいきなり裏切られたら、自分以外信じられへんのも無理ないやろな…。)
「ほな俺は、約束通り魔力の扱い方と体術の基本を教えたるわ。自分の戦い方は自分で考えるんやで?向き不向きがあるからな。」
「わかってる。なんとなく方向性は決まってるからな。自分でやるさ。」
「ほな、方針も決まったことやし、とりあえず飯にしいひん?この辺は滅多に人が居らんから山の幸が取り放題やったわ!」
どうやらクロムはアキトを道場まで運んだ後に、山で食料の確保をしていたらしい。アキトの分もあるようなので、ありがたくいただくことにした。
「飯は素直に食うんやな…。」
アキトの判断基準がよくわからないと苦笑いしていると、「『食べ物を無駄にすることは許されない。それは命を無駄にするのと同じことだ。』……そうやって爺ちゃんに育てられたからな。」ということらしい。
「まぁ何にせよとりあえず飯や!腹が減っとったら何もできひんからな!」
そう言って食卓に向かい、席に着いたクロムに、アキトは待ったをかけた!
「ちょっと待て。それは何だ?」
アキトの問いにキョトンとしながら「何って、どっからどう見ても焼き鳥やろ?」と何もおかしな点は無いと言わんばかりに、そのまま丸焼きにされただけの山鳥が食卓に鎮座していた!
せめて羽ぐらい毟れよ!っとツッコミを入れそうになりながら、「お前は今までどんな生活を送っていたんだ…。」っとアキトが呆れながら聞くと衝撃の事実が判明した!
「せやなぁ…。実は俺たち獣人族はほんまは魔力を使えへんのや。そんな中で、俺は何故か生れつき魔力が強かったらしくてな?周りから忌み子やとか災いの元やとか言われて村を追い出されたんや。んで、1人で途方に暮れとったらお前の爺さんに拾われて、何処ぞの廃坑の奥に連れてかれたんやけど、そこに鉱石で身体を覆われた龍がおってな。そいつの所に置いてかれたんやけど……。あの時はほんまに生きた心地がしいひんかったわ……。その龍は鉱石をそのまま食っとったから、俺もまともな料理なんかしなかったんや。せやから飯なんか食えりゃなんでもええやろ!ちゅう生活を6年くらい送ってきたんや。んで、そいつに色々と仕込まれて今に至るっちゅうわけや!ちなみにこの龍なんやけどな?五天龍っちゅう5つの属性の頂点を司る化けもんの1匹らしいで!」
と、いきなりとんでもない話しが飛び出してきた!
「ちなみにこの喋り方はその白虎とかいうトラの喋り方がうつってもうたんや。まぁあんまり気にせんといてや。」
「とりあえずお前がまともな食生活を送っていなかったことはよくわかった…。何で爺ちゃんがそんな化け物と知り合いなのかとか色々疑問はあるが……。とりあえず次から料理は俺がやるからお前は食材の確保だけしてくれ…。」
「なるほど、役割り分担っちゅうやつやな?ほな、これからはそれでいこか!」
クロムはホクホク顔で、アキトはげんなりしながら食事を済ませるのだった……。
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「ほな、先ずは最初に魔力について教えとこか。」
「そうだな。正直、魔力なんて今まで存在すら知らなかったからな…。」
「ほんまかいな…。ほな、先ずはこの世界における魔力について説明しよか。」
そう前置きしてから説明が始まった。
「先ず、この世界の生き物は全て魔力を身体の中に持っとるんや。獣人族も極僅かやけど持っとるんやで?俺はその保有量が桁違いなだけや。ちなみにこの魔力の保有量は生れつき持っとるもんで、あとから増やすことは基本的にはできひんのや。んで、この魔力を呪文の詠唱やら何らかの媒体を使って大気中のマナに作用させるのが一般的な魔法っちゅうやつやな。あとはこの世界には精霊っちゅうやつらがおるんやけど、そいつらから力を借りたり契約したりすると精霊魔法っちゅうのが使える様になるんやけど、これを使えるやつは殆どおらんらしいで。」
「なるほどな。ちなみにマナってのは何だ?」
「マナっちゅうのはいわば魔法を使う為の燃料やな。ちなみに魔力は種火みたいなもんや。マナが多い場所なら少ない魔力で魔法が使えたり、同じ魔力でより強力な魔法が使えるっちゅう訳や!その逆も然りやな!ちなみにマナにも属性があるからその属性にも左右されるらしいで?」
「なるほどな。で、何でらしい何だ?」
アキトが疑問に思い聞いてみると、クロムがあっけらかんと答えた。
「そら勿論、俺たち五天龍の力を持っとるもんは普通の魔法が使えへんからや。」
「使えねぇのかよ!」
「おお!ええツッコミやな!せや。俺たちは世間一般の地水火風と光闇の6属性とは別の属性の力を持っとるから普通の魔法は使えへんのや。まぁ火と水の五天龍はおるらしいけどな!」
「何だかややこしくなってきたな…。とりあえず普通の魔法が使えねぇのはわかった。俺たちってことは俺にもその五天龍の力があるってことだな?」
「話しが早うて助かるわ!せや。お前には五天龍の中心というか、龍の主みたいなやつの力が使えるらしいで?本来お前の中には土の属性を司る龍と雷を従える幻獣の2つの力が眠っとるはずなんやけど……。お前らは双子として産まれたから、力が2つに別れとるんや。今のお前はこの雷を従える幻獣の力が使えるはずや!つまり土属性の竜の力はお前の兄貴の中にある訳やな。」
「なるほどな…。で?何でお前は俺やリクの中に眠っているはずの力の存在を知ってるんだ?」
「そら勿論、ライゼンの爺さんからの手紙に書いてあったからに決まっとるやろ。昨日が初対面なんやで?まぁ雷の力については昨日お前が使うとったやろ。」
「薄々気付いていたが、昨日の襲撃が来ることを爺ちゃんは知っていたってことか…。どうやら昨日の襲撃には裏がありそうだな…。」
「せやな。爺さんの手紙曰く、お前の兄貴が真相を全部知っとるらしいで?真相を知りたければ、兄貴を超える強さになって聞き出せ〜的な感じで書いてあったわ。」
「リクは全ての理由を知った上であの襲撃をしたってことか…。道理でここまでお膳立てが整ってる訳だ。どうせ爺ちゃんのことだ。俺がリクを超えられなければ、自分や一族は無駄死にだ。…ぐらいに書いてあるんだろ?」
「ようわかったな?そんな感じで書いあったわ。」
「なんにせよ、俺には力が必要なんだ。理由が増えただけで、やる事は変わらねぇ。リクの野郎をとっちめて、真相を聞き出してやる。」
「おっかない顔やなぁ……。まるで獲物を狙う獣やで……。」
アキトがニヤリと獰猛な笑みを浮かべているのを眺めながら「こいつを本当に強くしてしまっていいのか?」っと疑問に思ったが、放って置いても勝手に強くなりそうなので、深く考えるのはやめて魔力講座を再開することにした。
「ほな、次は俺たち五天龍の力を説明すんで。……まぁ、俺が知っとる内容だけやけどな。」
そう前置きしてから魔力講座が再開した。
「先ず、五天龍の力は、各龍の能力の傾向と属性に依存する力のことや。属性は木火土金水の5つで、傾向ちゅうんは、各龍の役割や固有魔法に関する力が使える…ぐらいの感覚で考えとけばええで。ほんで、俺の力は金属性や。簡単に説明すると、金属やら鉱石なんかの鉱物に特殊な効果やら魔法なんかを付与したり、それを錬成して加工する能力や。まぁ、便利な道具や特殊な武器を作る能力やな。他にも色々な使い方があるんやけど、まぁそれはおいおいっちゅうことで。」
「便利そうな能力だな。材料さえあれば何でも作れるってことか?」
「さすがに何でもは作れへんよ。付与できる効果やら魔法の数も材料の質や俺の技術やら集中力次第やし、何より具体的なイメージが無いとあかんから、よう知らん物は作れへんしな。」
「なるほどな。どの属性でもイメージは大事なわけか…。五天龍の力がとんでもねぇのはわかったんだが、これだけの力だと何か反動とか代償みたいなのは無いのか?」
「ええ質問やな。御察しの通り、五天龍の力には必ず何らかの代償か制限があるんや。俺の場合は力を使いすぎると猛烈に腹が減るんや……。」
「………。それだけか?」
呆れた顔でジト目を向けてくるアキトにクロムは反発した!
「お前は空腹の辛さを知らんからそんな反応ができるんや!あまりの飢餓感に幻覚を見たり、軽く精神崩壊して発狂しかけたりするんやで?この代償のせいで何度餓死しかけたことか……。」
クロムが虚ろな目で虚空を見つめ始めたのを見て、どうやらトラウマのスイッチを押してしまったらしいと、アキトは若干引きながらも一応謝ることにした。
「わかった…。悪かったよ。お前にとっては大問題だったんだな……。軽く見て悪かった…。」
「わかってくれればええんや……。ちなみにお前の力の代償や制限がどうなるかはわからへんから力を使う時は気ぃ付けてな?」
「何をどう気を付ければいいのかわからんが、まぁ、とりあえず使ってみるのが一番手っ取り早いだろ。」
「せやな。ほな、さっそく使ってみよか?」
そんな軽い感じで試し撃ちに向かった2人が、この後とんでもない事件になるとは、この時はまだ知る由もなかった……。