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あの青春をもう一度 ー二度目の再会ー

作者: 菊子

初めて星座という存在を知ったとき、なぜ、実際の夜空には点と点が繋がっていないのだろうかと思った。形が見えない形なんて、そんなものただの星のかたまりでしかないではないかと思った。



町の中で見る夜空の星を見ても、どの星が一番明るいのかなんで分からず、さらには季節や時間、方角によって見れるものが違うといった知識をもたず興味もなかったあの頃は、いっそのこと自分で星座を作ってやろうかと考えたくらいである。



しかし、その考えは中学校入学直後に山奥で行われた宿泊研修で改めることとなった。

それまで山奥にいったこともなく、また早寝遅起きが習慣であった自分にとって、街の明かりが届かない場所で夜空を見る経験はなかった。


夜の研修を終えた後、就寝時間までの間同じ部屋のクラスメイトと話している最中、喉が渇き廊下に出た。水分を求めに自動販売機に向かっていると、ベランダに数人の男子学生が出ているところが見えた。その内の多くは集団で遊んでいたが、一人だけ離れている人がいた。


(確か・・・、同じクラスの)


ほとんど会話したことがなかったが、顔を知った人間が何をしているのか気になったのと、あの頃の私は中学に入学して間もなく、友達100人作ることを本気で目指していたため、いい機会だと思い話しかけることにした。



「何してるの?」



春とはいえ山奥の夜の風は冷たく、寒さに身を震わせながら彼の少し後ろから声をかけると、彼はゆっくり振り向いた。少し驚いた表情だったのは気のせいだったのかもしれない。


「・・・星をみてた」



ぼそりと返答してくれた彼の言葉を聞き、私も顔をあげると驚いた。



「うわ・・・、きれい・・・」


夜空にはたくさんの星が輝いていた。それは今まで見たこともないものであり、その輝きに圧倒され、その感動を誰かと共有したくて声をあげた。


「私、こんなに星がきらきらしているの初めて見た!星とか全然わかんないけど」



正直に言おう。あの時の自分は私は馬鹿だったと。勉強のできない馬鹿でもあり、また、一人楽しんでいる彼に対し、楽しんでいるものをわかんないと口に出すほど馬鹿だったのだ。今の私であれば、一言こういうだろう。


興味ないなら、帰れ。と。




「あれが、北極星。一年中北の空にあってほとんど動かないんだ」


あの時の彼はそんなことを口に出した私に対し、夜空を指差しそう教えてくれた。しかし、教えてくれたのにも関わらず、あの時の私の食いつき所は違っていた。


「え、星って動くの?じゃあ、この空も毎日同じってわけじゃないんだ!」


言葉を発した後で、馬鹿な自分でも我ながら馬鹿な質問をしたと思った。そういえば、小学生の理科の授業で習ったような気がする・・・と一瞬頭をよぎったが、あの時の私は全く理解できていなかったため口にだしてしまったのだ。


「地球は回っているでしょ?それを自転っていうんだけど、自転によって時間を追うごとに星の位置も動いているようにみえるんだ。朝が来て、夜がくるのと同じ。昼間に太陽の位置が変わるのと同じだよ。あと、地球は自分が回っているだけじゃなくて、太陽の周りを回っているんだから、地球が動くことによって、そこから見える星空も季節によって違うんだよ」


彼はそんな私を馬鹿にせず丁寧にわかりやすく教えてくれた。他にも春の星座は北斗七星を探すと見つけやすいこと、北斗七星だけでなく、北の空の星座は一年中みえているものが多いこと、春の大三角形があること。先生が来るまで星をみながら、いろんなことを教えてくれた。彼の言葉を聞きながら、私はいろんなことを質問するが、その都度優しく教えてくれた。そういえば、あの頃の彼はまだ表情変化もあり、はにかみながら話してくれていた。



優しく、時折はにかんだ笑顔を見せてくれる彼。それが彼に惹かれたきっかけだったのかもしれない。






さて、なぜこんな思い出話をしているのかというと、こんな素敵な夜空の下で最低最悪な二度目の再会を果たしているからだ。




「やぁ、昨日ぶり。松木さん」



「なんでここにいるの、佐竹君・・・」



左の頬が真っ赤に染まり、腫れあがっている大嫌いな彼がいた。

ちなみに私は仕事帰りで、ここは私の住むアパートの最寄り駅である。



「昨日松木さんが一緒にいた女の人たちに聞いたんだ。あの場で家の最寄り駅について話してたんだって?だめだよ。誰かに待ち伏せされちゃ危ないよ」


二度としませんよ。今実感したからな。てめぇがいることで。


友人も含め、彼女たちは会社の同僚であった。とはいうものの、友人以外は親しくもないが、彼女たちが彼に様々な情報を与えていることは想像できた。この調子では、勤務先の会社まで知っていそうだ。

友人はこんな私の友人でいてくれるのであるから、とても良い子ではあり昨日の私の様子から彼に情報を与えないようにしてくれたはずだ。

しかし、親しくない同僚は彼の気を引くために少ない情報を最大限に提供しているであろう。



「ずっと、ここにいたの・・・?」


「今日はたまたま休みでね。そこの喫茶店で待ってたんだ。まぁ、仕事があってもこんなに頬が腫れていたら行きにくかったけどね」


いつ通り過ぎるかもわからないのに、もしかしたら、駅を使わない可能性だってあったのに、よくも知らぬ土地でこうして過ごすことができたものだと感心したと同時に、ここまでの行動力にゾッとした。



「気持ち悪い。ストーカーで訴えるよ」


「大丈夫、警察は痴話喧嘩に介入しないよ。それに警察がきたらこの頬の理由まで話さないといけなくなるしね」


にこりと爽やかな笑顔を向けつつ、そういい放つ目の前の男に苛立ちを感じた。

こいつ、私を脅す気か。



「・・・なにしにきたの」


「松木さんと話すために」


「私は話すことはない」


「僕にはある」



ふと、何故彼は私にここまでのことをするのだろうと思った。

十数年ぶりに会ったほとんど会話したことのない元同級生に、休日を潰してまで会いにくるほどに。


しかし、それ以上に彼の思考について考えるほど暇ではないし、それに同情して付き合うほど私は優しくできるほど、心は広くはない。

もう、彼と彼の周りに関わりたくはないのだ。



「・・・私は話したくないほど、嫌いなのに?」


そう、そして私は彼が世界で一番彼が嫌いなのだ。あの日、あの時、あの瞬間から、嫌いになったのだ。



「知ってたよ。ずっと見てたし、僕たちを見ていたのも知ってた。よく、僕だけに鋭い視線を向けてくれたよね」


「・・・そこまで知ってるのに、なんで」


「だから、まずは友達になろう」


意味がわからない。


「嫌です」


「松木さんに了承が得られるまで、僕は何度だって会いにくるよ。勢い余って、会社に行くこともあるかもしれない」


こいつ、私を脅す気か。いや、先程から脅しているとしか思えない。

会社にこいつが来るのであれば、それこそ注目の的であり、特に女性から要らぬ嫉妬や恨みまで買いそうだ。こいつが何を言い出すのか、想像するだけで恐ろしい。



「・・・気が向いたらね」


とりあえず、今は返事をしてやり過ごすしかない。


「ありがとう!じゃあ、さっそく次に会う予定を立てようか!」


しかし、結局は相手の方が一枚上手であったのだ。

そして、そのまま喫茶店に連れて行かれ、次回の予定を立てさせられることとなる。



「よろしくね、郁ちゃん!」


・・・どうしてこうなった。






***





山奥の星空のもと、彼と話していると、ふと私と話をしながらも時折視線が星空からも私からも外れていることに気がついた。

目で追ってみると、そこには数人で遊んでいる男子生徒の姿が見えた。


(一緒に遊びたかったのかな・・・?)


そう思っていると、一人の男子生徒が転んでしまった。

と、同時に、会話途中であったにも関わらず彼はすぐにその男子生徒のもとへ走って行った。


あっけにとられていると、彼は男子生徒の傍に近づいていた。彼が心配そうな表情で声をかけると、男子生徒は大丈夫かというように手を広げて彼に笑ってみせた。


すると彼は、頬を赤く染めながら、ほどまで私に見せていた表情とは比べ物にならないほどの笑顔を見せていた。




私は、その場面を遠くから見ているしかなかった。




その後、彼が私のもとに戻ってくることはなかった。

消灯時間間近であったために巡回に来ていた先生に捕まってしまい、部屋に連れ戻されることで彼との初めての邂逅は終了してしまった。






それが私の青春の幕開けである。


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