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諦めと後悔、そして今から

病院から、もどってくると、幸は俺のアパートのドアの前で、立ち止まった。


 「すこし、強引だったか?」


 幸は首を横に振った。


 「さっ入りなよ、今日からここが幸の家だ」


幸は、目を潤ませながら俺を見ていた。

俺は、幸の背中を押した。

  

 二部屋続きの、古いアパートだが、それなりに広かった。

 6帖2間と、3帖のキッチン、風呂とトイレは別だ。洗濯機も室内に置けるだけのスペースはあった。


 奥の部屋のソファーに、幸を座らせると、痛む胸をさすりながら・・・・

 

 実際、さっきの乱闘で、あばら2本にヒビと、顔面には殴打のあとで、全治2週間の診断書をもらってきた。

何か、あれば診断書(こいつ)を使うことになる。

傷害の時効は確か10年だから、10年は引っ張れる。


 幸は、俺の痛々しい姿を見かねたのか、自分から台所に立って、コーヒーを入れたくれた。


 「こんなことして、よかったんですか、私は岡崎さんに大変迷惑をかけました。」


 「ごめんな、こんな荒っぽいやり方で、びっくりしたろ。俺 見境がないんで、幸がとめてなかったら、やってたかもな」


 「あんな人のために、人生を台無しにしないでください。」


 幸は、俺の右手を両手で握りしめた。


 「さっ これから色々と買い物しなくちゃね」


 幸は、まっすくにを俺を見て


 「いくら、渡したんですか、あの人に、そうでなけりゃすんなりと話が通るわけがありません。」


 幸は、怒ったように言った。


 俺は、すこしばつが悪かった。確かに、金で解決してきた。あの手の人間は金で動く。しかし、それをすれば、幸が傷つくことも分かっていた。


 「結納金だよ」


 「えっ」


 「だから、幸を嫁さんにもらう結納金」


 「結婚てっ、まさか私と」


 「うん、そう」


 「だって、知り合ってそんなに時間たってないですよ」


 「俺が、幸としたいから、まだ言ってなかったけれども、返事は後でいいから、考えてくんないかな」


 「はあー」


 と幸は溜息をついた。"何言ってんのこの人"みたいな表情で俺を見ていた。


 我ながら、馬鹿なことを言っているという認識はあった。でも、そう悠長にはしている時間がなかった。

その理由は、今は幸に話せなかった。


 「幸は、未成年だから親の承諾は、とりあえず貰ってきた」


 と先ほど、幸の両親に書かせた書類を見せた。

 幸は複雑そうな顔で、書類を見て、黙ってしまった。


 考える時間が、必要だなと思い。


 「外で、たばこをすってくる」


 といって、アパートを出た。

 タバコに火をつけると、深く吸い込んだ。


 俺は、3年前の除隊の時のことを思い返していた。


 入隊して10年を過ぎた、定期の健康診断の時に、医官から、白血球値が異常に高いといわれ、再検査を受けた。


 「岡崎さん 出身は、長崎県でしたよね」


 「はい、そうです」


 「親類の方で、亡くなった方の病名を知っていますか」


 「はあ、祖父が喘息か何かで亡くなったとか言っていました、戦時中に満州でこじらせたか言っていました。後は、母方の祖母は肝硬変で亡くなったとか言っていました」


 「他には、どなたかいらっしゃいますか」

 

 俺は、少し考えて


 「父方の弟と妹が、血液のがんだとかいっていましたが、存命しています。」


 といった。医官はすこし、間をおいて


 「岡崎さんは、ヒトTリンパ好性ウイルス通称、HITL-1型のウイルスのキャリアです。」


 「何ですか、それは」


 「白血病はご存じですね、それを引き起こすウイルスに感染しているということです」


 「はあ、何ですか それ、私は特に病気ではありません」


 医官は、医学書をだして俺の前に広げた。


 「最近になって、詳しく解明されたものです。このウイルスは母子感染、輸血等による感染、性行等による感染がありますが、岡崎さんの場合は、出身が長崎県、させに五島列島ですよね」


 「はい、五島市です。」


 医官は、医学書の一節から

 ~沖縄、鹿児島、宮崎、長崎各県のキャリア率は約5%で、世界的にみても最もHTLV‐1地域集積性が強い。これらの人口は日本全国の約4.6%であるが、国内キャリアの1/3 を占める。人口比約1%(約150 万人)の長崎県では、全国平均の10 倍、年間約70 例の発症と死亡が確認され、他のすべての白血病とリンパ腫の合計に匹敵する。大都市ではキャリアの多くは高浸淫地出身者の子孫で、そこでの率は低いが絶対数は全国の約半数である。

 ここで長崎県を対象とし、21 世紀のATL について考えてみよう。妊婦のキャリア率は、1945 年出生者の約8%から、1975年出生者の約2%に、対数上直線的に減少した(表1)。1987年出生者のキャリア率は1.0%まで低下したと推定される。スクリーニング参加率、人工栄養・短期/長期母乳哺育の選択率を1987 年以降に当てはめると、2010, 2020 年には、キャリアとして検出される母親数は約100 および60 例と推定され、ATL 発症に至る感染は年間1 例以下となり、21 世紀後半には長崎県からATLは駆逐されることも予想される。(鳥取大学医学部ウイルス学教室 日野茂男)


 「五島列島などの離島はでは、さらに感染率が高くなっていると聞きます。

このウイルスは,潜伏期が40~60年で発症率は1%~6%と言われていますので、岡崎さんが今すぐ,どうのこうのではないのですが、白血球の多さが気になります。一度、専門の病院で診察を受けること勧めます。」


 医官は、すまなさそうに言った。確かに、体がだるいことはあったが、それほどでもなかった。


 それから、しばらくして精密検査を受けに専門の病院へ行った。


 結果は、同じだった。やはりキャリア(感染者)たった。ネットや図書館で調べると、おおよその病気の内容か分かった。医官より説明受けた通りの内容だ。このウイルスは、縄文人に関連する遺伝子として、ATLのレトロウイルス(HTVL-I)であり、周囲から隔絶され交通の不便だった小集落でキャリアは高率に温存されているとある。また.これらの地域特有の血の濃さ、(近親交配)によるものだともされていた。


 俺は、やはり恨んだ。あの場所を自分がうまれた場所を。


しばらくして,自衛隊を依願退職をした。発症はしていないが、いずれ発症すると部隊に迷惑がかかる、健康診断の結果でやんわりと退職を迫られるのは目に見えていた。班長にだけ事情を話した。


 「お前 当てはあるのか」


 班長は、心配そうに俺に聞いた。


 「いますぐ、どうってことはないんで」


 「そうか、いや お前 よかったらここ行け」


 といって、一枚の名刺を渡してくれた。


 「職業あっせんですか、ガードマン?」


 「いや、お前資格結構持ってるしな、曹までいったしな」


 「はあ、任期を延長したかったし結構勉強しましたからね」


 「ここなら、工場で機械相手だから、人嫌いのお前でもできるだろ」



 名刺をもらって、見た 九州の修羅の国だった。まっいいかと思い、その職場で働いてみることにした。

 その地域の病院へいき、俺の病気についての治療方針を聞いた、俺の病状は、くすぶり型で、経過観測だ。ただし、病状が急変することもあるので、注意はしている。腫瘍マーカーとなるLDH値、カルシウム値などの検査が主だ。

 今のところ、異常は見られない。

 たぶん、母子感染だろう。母親へは、それとなしに検査を受けるように言っておいた。結果は、クロだ。母親も驚いてはいたが、親父も感染しており、平行感染の疑いがあった。

ただ、両親とも発病しておらず、その点はほっとしていた。


 "この病気には、根本的な治療法がない"


 骨髄移植なとでの、効果はあまり期待されないそうだ。

何万年も、生きているウイルスだ。そう簡単に、駆除はできないだろう。

急性化すると、持って一年、高カルシウム症で意識がなくなったりとかするらしい。馬鹿みたいだ、もうどうでもよくなった。

 とりあえず、体が動くまで生きてみようと思った。


 幸のことで、強く思った。


短くもないけれども、長くもないかもしれない。俺の人生ならば、誰かを助けてもいいんじゃないかと思った。

真樹を助けられなかった俺が、幸を助けるいや、幸を助けることで自己満足をしているのかもしれない。

 それでも、自分が生きてきたことに意味を持ちたかった。


 "人は、一人の人しか幸せにできない。"


 人生の原則だ。


 俺は、長い回想を終えて、新たな気持ちでアパートに戻った。


 幸は、玄関で俺を迎えてくれた。


 「話があります、聞いてもらえますか」


 内容は察しがついていた。


 「まずは、食事に行こう、いや何か作ろうか、買い物が先かな、それからゆっくり聞くよ」


 と俺は言って、幸を外に連れ出した。


 

 


連休中、ちょつと休んでしまいましたが、また書き始めます。

なお、文中の病名等は実際にあるものです。

果たして、主人公がどうなるのか、どう書きたいのか、まだ未知数です。「みみらくの島」でのことは、もうしばらくすると始まります。今しばらくお付き合いください。


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