守りたいもの
女の子を寝かしつけると、すくに会社に電話をいれて休暇によるシフト変更をお願いした。幾分、嫌味をいわれたがなんとか3日間の休暇をもらった。
外は、激しい雨と雷がなっていた。
俺は、眠れずにいたずらたばこをふかした。
あの痛みだ。10年以上も前と同じ痛みだ。また、おれは同じ間違いを犯してしまうのか、だれも助けられずに。こんな時は、ウイスキーのショットを飲むのだか、万が一の場合に備えて、飲みたくなるのをぐっとこらえた。
15歳の時の何もできないガキのころを思い出した。あの時も、あの子になにもできなかった。大人たちが、勝手になんでも決めていった。俺の声は届かなかった。
あの子の
「どうして、こうなっちゃたんだろう。ただ一緒に居たかっただけなのに」
という言葉が、思い出された。
「君という人間と一緒にいると娘がだめになる、かかわらないでくれ」
あの子の父親から言われた言葉がいまだに忘れることができない。
俺は、思い直して女の子が寝ている隣の部屋のふすまを開けた。
薄明りの中で、女の子の寝顔が見えた。
随分と疲れていたのだろう、アルコールの助けを借りたのか寝入っていた。
俺は、どうしたいのだろうか? 無責任に助けていいのだろう。ふいに現れた猫を助けるのとはわけが違う。
だが、俺には助けなけばならないというはっきりとした意思があった、過去の自分とは違う。今度はできると思った。
あの時のように逃げ出したくはなかった。
いつしか、ベッドのそばで、女の子の頭をなぜていた。
朝日がカーテンから漏れていた。俺は目を開けた。
右手に温かさを感じた。
女の子が、俺の右手を握っていた。
目があった。
「ごめんなさい」
と女の子は謝った。
返事の代わりに、俺は左手で頭をなぜた。
女の子の瞳から涙があふれだした。
「そのままで、いいから」
といって、俺は部屋を出でキッチンに立った。
冷蔵庫から、野菜ジュースのハックを取り出しコップに次いで、奥の部屋に持って行った
「食べたくないかもしれないけど 飲んで」
とコップを差し出した。
女の子は、少しだけ飲んでベッドの横のサイドテーブルにコップを置いた。
何か話したそうにしていたが、それをさえぎるように
「何があったかは、聞かない。俺は俺にできることをする。決して君を悲しませることはしないと思う。いやことはあるかもしれないが、君が抱えている問題について、適切に処理する」
と俺は宣言した。
「どうして、そんなにしてくれるんですか」
「これは、俺にとっても乗り越えなければならない過去との対峙なんだと思う。神様なんてもんがいるのであれば、俺に与えてくれたやり直しのチャンスだと思うから」
まだよく事情が呑み込めてていないようだが、俺の意思は伝わったようだ。
携帯を手渡して、
「今日のバイト休めよ、しばらくバイト行かなくていい」
「そんなの困ります、首になります」
「なっていいから、とにかく今日は休んで」
俺の強い口調に、女の子はあきらめて電話を何か所にかけて事情を説明していた。
「いまから、病院にいくから着替えて」
「えつ 大丈夫ですから」
「そういう意味じゃないからついてきて」
女の子は、素直にうなづいた。
とりあえず、女の子には俺のジャージの上下を着せた。
知ってはいたが、女の子は結構背が高い。
172cmの俺より低いが160cm以上はあると思う。
玄関を出るときに、俺ははたと気づいた。
女の子の靴がなかった。夕べ裸足でここまで来たということだ。
とりあえず、俺のクロックスを履かせた。
大通りに出て、タクシーを拾って、運転手にここいらで一番大きい総合病院の名前を告げた。
タクシーの中で、女の子は下をずっと向いていた。
運転手が、興味ぶかそうにチラチラとバックミラーでこちらを見ていた。
そりゃそうだ、女の子のほほに青あざができていた。
病院につくと、真っ先に婦人科にいった。
女の子の足が震えて、真っ青になっていた。
「ここは、いやです。お願いします、帰ります」
「いいから、ここに座って待っていて」
俺は受付にいって、事務員に「モーニングアフタピル」の処方が可能か聞いた。いぶかしげな俺を見て誰が使うのかと聞かれた
俺は女の子のほうに視線を向けた。
事務員は悟ったのか
「事件性があるのなら、性暴力被害者支援センターに連絡するか警察へ行ってください。」
「ことをあんまり大きくしたくないし、診察と処置をお願いしたいんです、それと診断書を書いてくれますか」
「すこし、お待ちください 医師に相談します」
しばらく待たされて
「わかりました診断するとのことです、カルテを作成しますのでこれに必要事項を書いてください」
とって記入用紙を渡された。 俺はお礼をいって女の子にそばに座った。
俺は記入用紙を渡して
「診察してもらうから、自分に都合の悪いことは話さなくていい」
といった。観念したのか、女の子は青ざめた顔でこくりとうなづいた。
1時間以上待たされて、女の子の名前が呼ばれた。俺は立会人として呼ばれた
医師は、女性だった。
個室診察室の外で、俺ま待っていた。1時間以上も検査と診察が続いていた。
診察室から出てきた、女の子は幾分落ち着いたように見えた。
検査結果が出るまで、再びロビーで待っていた。
再び女の子の名前が呼ばれ、一人で話を聞いていた。
その後に、俺が呼ばれた。
診察室に入ると、やや不機嫌な女性の医師が俺に向かって口を開いた
「彼女とは、どのような関係ですか」
「友人です」
「ただの友人ですか、失礼ですが彼女とSEXをするような関係ではないのですか」
「いいえ そのような関係ではありません」
「彼女はレイプではないといっていますが、体にできた傷からレイプされたように推察されます。あなたは彼女からどのような状況なのか聞いていますか」
「彼女が話したがらないので聞いていませんが、私も状況からレイプだと思います。それで、病院に連れてきました」
はあとあきれたように、俺を見て女性医師は
「なぜ 支援センターまたは警察へ行かなかったのですか」
「彼女はパニックになっていました。それで得策ではないと思いました。」
「検査キットによる採集は、入浴をしていたため不可能でした、これから警察に行くことお勧めします。」
「彼女の意思です。彼女が行くといえば付き添います」
「失礼ですがあなたは彼女の、恋人ではないのですか」
「いいえ、先生もご存じとは思いますが彼女は未成年です、私は時々話をするだけの友人です」
本当のことだけを話した。
「わかりました、診断書は書きますので、忠告ですが警察に行くことを勧めます。それと、もう一つ確認です。彼女は妊娠しています。」
俺は えっとなった。何を言っているのか理解できなかった。
「何を言ってるんですか、そんなはずないでしょう。まだ16才ですよ」
「詳しい妊娠週はわかりませんが、尿に反応が出でいるので5週目以上になっているのは間違いないと思います。」
「彼女は、それを知っているのですか」
「いえ 情緒が不安定になるので知らせていません。再度来院するように伝えています。」
「わかりました。」
女性医師は、苛立った口調で
「男のあなたには、わからないかもしれないけれども、望むと望まざるとにかかわらず、女性は妊娠するんです。そのことは、よく覚えておきなさい。」
と言った。
診察室を出ると、女の子が心細そうに俺を待っていた。
そこで、さらに1時間以上待たされて、診断書と馬鹿高い請求書をもらった
「警察に届けたらこの費用は全部、公費負担になるんだけども」と申し訳なさそうに請求書を渡された。
病院を後にして、タクシーで俺のアパートまで帰ってきた。
俺は、ドアを開けて先に入ったが、女の子はどあの前で立ち止まっていた。
「ごめんなさい。迷惑ばかりかけて」
と言って、深く頭を下げた。
「いいんだ、もうお昼すぎたし何か食べよう」
と言って、俺は女の子の背を押してアパートに入れた。