必然の出会い
俺は、雨の日が嫌いじゃない。たしかにうっとしい気もするがバイクに乗り出してそうでもない。雨の日は、バイクにかかわらず、2輪車には危険だ。必然的に運転が慎重になり、緊張がうまれる。適度な緊張は心地よい。いまの職場の人からも年がら年中、バイクに乗っている俺にあきれている。
ほんと、バイクに乗らないのは、雪が積もった日くらいのものだ。
kasaki bariusという、20年も前に作られ物だ。街乗りの足を探して、バイクやを除くと、フロントフォークが錆て、タイヤもクラックありのバイクが雨ざらしになっていた。
「あの、外のバイク いくら?」
店員は
「ああ あれ たぶんもう乗れないよ 部品取りに引き取った」
「どこ直せばいいの」
俺はなんの気なしにきいた
「タンクの中はさびてるし、キャプのダメだろうね、フロントフォークは変えなきゃいけないし、結構かかるよ」
「わかった 部品注文してくれる」
店員は、
「今忙しいから、整備できないよ」
「自分でやるかいいよ,部品だけ注文してくれる」
「わかったよ 一週間くらいで届くから」
と店員はいった。
一週間後に、バイクと部品を取りに行くと、なぜか別の店員、いや初老の親父がバイクを整備していた。
「お前か 物好きにこいつを直して乗ろうってのは」
「はあ」
「素人が整備して、死なれたら困るから俺が整備しといた」
俺は、たまげた。
このバイクは、すでに型落ちどころでは、製造中止の代物で物好きでなければ乗らない代物だ。
「お前このバイク知ってるのか」
「ええ 少しは」
「もう、でねよな こんなパイク 250CCで4気筒なんて、採算度外視だよな
水冷ときた 20000以上回るエンジンなんてな 大事にしろよ」
おやじは、俺の背中をパンとたたいた。
俺は、バイクを見た、年代的に錆があり タンクはへこんで、エンジンガードにも擦り傷に転倒のダメージもあるはずだ。しかし、見たところ基本的なところは整備されていた。
チェーンにスプロケット前後のブレーキパットも交換されていた。フロントフォークは研磨がかけられ、オイルシールも新品になっていた。
おやじは、しみじみと俺に問いかけた
「なんて゜このバイク選んだ」
「店の外で、ぽつんとしてたし、なんとなま俺に似てるし、何とかいじれると思ったんで」
「そうか、調子悪くなったら来いよ」
とおやじはいった。後で聞いた話だが、おやじはどっかのワークスチームエンジン担当で、kawasakiのバイクが大変好きだそうだ。
おやじいわく、kawasakiのバイクは最後まで部品を供給するそうだ。だから俺のバイクも部品ありで修理ができたというわけだ。なんでも、部品の注文を受けた店員の話を聞いた、オーナーのおやじが、乗り気で修理をしていたとのこと。
確かに、今時代ネイキッドの250ccの半端なバイクに乗る奴なんていない。ビッグスクターまたは、大排気量バイクだ。
俺は、そんなことはどうでもよかった。このパイクが独りさみしそうにしていたからだ、走行距離も2000足らずだ。長年乗っていなかったことは明白だ。おもちゃに飽きられたように、シートをかけられていたんだと思う。
bariusは、時々くずるが、おやじの手でいまでも20000回転以上で、規制前の45psをたたき出している。
夜勤明けの朝、土砂降りだった。4月の雨はさほど冷たくなく俺は、レインスーツ兼用のバイクウエアーに着替えて、バイクのエンジンをかけた。
フルフェースのチンガードを閉めて、バイザーを少しあけて、雨中を走り出した。雨足は、収まるでもなく、さらに激しく降り出した。
大通りを抜けて、横道に入ったとき、道路の端に一台のスクーターが止まってあり、持ち主だろうか、しゃがみこんでバイクの後ろのエンジンを見ていた。
俺は、そばにバイクを止めてバイザーを上げた
「どうしたの」
「エンジンがかからなくて」
バイクのエンジンのほうを見ながら、白い半透明なポンチョを着た女の子が答えた
「ちょっと見せてくれる」
といって、俺はスクターのインジケーターを見た。keyを捻るとインジケータは点灯した。電気系統じやないと判断し、セルを回すとセルも回る。となると燃料系だと思った。だいだいこんな時は・・・・
俺は、バイクを左右前後にゆすった。
そして、セルを回した。
2ストのエンジンが、息を吹き返した、ブレーキレバーを抑えたままで、スロットを捻った。
「ガス欠だよ」
といって、女の子を見た。俺はエッととなった。女の子はまだ気づいていない。
あの女の子だった、昔の職業柄顔を覚えるのに長けていた。そうでもないと、後々困る職場だったこともある。
「ありがとうございます」
「仕事急ぐんだろう」
「ええ はい」
「ちょっと待ってて」
目の前のアパートの空きスペースに、バイクを止めて1Fの102号の自分のアバ―トの玄関から、バイク用携行ガソリンタンクを持ち出した。
エアーを抜いてから、雨の中に傘を持ち出して、スクターのおいてある場所に戻った。
「タンクに水が入るとやばいから、傘さしてて」
といって、女の子に傘を持たせて、シートを開けて給油口をあけて携行タンクにノズルをつけて、ガソリンを注ぎ込んだ。
「これで、40kmくらいは走れるよ、遅れると大変だろ これ」
俺は、スクターのかごにある交通誘導旗を指した。
ここで、女の子は、俺に気づいた。
「この前の!!」
「縁があるみたいだね、大丈夫早くバイト行きなよ」
「はい 後でガソリン代お返します、えっと」
「目の前のアパートの102号室 名前は岡崎」
「夕方はいますよね」
「6時までならね」
「6時ですね 私 崎村 幸です」
といって、女の子は、スクターにまたがってセルスイッチを押した。
エアを噛んでいなかったのか、一発でエンジンは始動した
照れながら、俺に手を振って走り出した。
俺は、この時の出会いを今でも呪っている。
俺に出会わなければ、幸はまだ生きていたのかもしれない。
たらればの話をすれば、ファンタジーのお花畑の人には、「平行世界だの」
「別の次元」だのという話になるが、そんなものでもいいから、幸が生きている世界があってほしいと思っている。