りんどうの花
家に戻ると、話があると両親から呼ばれた。
「思い出したのか?」
親父は、心配そうに俺に訊ねた。
「ああ、大体は思い出せた。親父、母ちゃん大変迷惑をかけた」
といって、俺は土下座をした。
「俺は、また親父たちに迷惑をかけてしまった。すまない」
俺は、土下座をしながら、そういった。
「敏樹、もういい。頭をあげろ、親が子供のためにするのは、当たり前だ。それに、お前とお前の嫁のことだ。俺たちが何もしない理由はない。それより、お前のほうが辛いのだろう」
俺は、親父の優しい言葉に涙した。昔は、嫌っていたのに親ってのは最後の最後まで、子供のことだけを考えるものだとしみじみと思った。
「後始末は、全部つけておいた。」
会社で庶務部長をしている親父だから。おそらく、幸の葬儀からなんから後始末はすべて完璧しているのだろう。
「お前の嫁の、幸さんはうちの墓に入れておいた」
「そこまで、すまない。親父、幸については、後であいさつに行くつもりだった。」
「可愛そうなことをした、俺もお母さんもあってみたかったよ、お前の嫁さんに」
「すごく、すごくいい子だったんだ。俺は守れなかった。」
俺は、俯いていたが、とめどなく涙があふれて、ひざのあたりを濡らしていた。母親は俺の肩を抱いて
「仕方がないよ、お前が悪いわけじゃない」
それが、余計につらくてあとからあとから涙が流れた。葬式には出てやれなくて、最後の言葉もかけてやれなくて、守るといったのに守れなくて。情けなかった。
「明日でも、墓参りに行こう」
と親父が言った。
「うん、それから、幸の家に行って母親に謝りたい。」
「ああ、行ってきたらいい。記憶の混乱を防ぐために、お前に関わる一切のもを、お前のアパートに残したままにしてきた、まだ借りたままにしている」
「そうなのか、いろいろとありがとう。明日でも、飛行機で行ってくるよ」
「お前ひとりで、大丈夫か、ついていこうか」
「大丈夫だよ、すこし記憶があいまいなところもあるんで、もう少し思い出す時間が欲しい、少し疲れたら、もう寝るな。」
と言って、俺は部屋に入った。
部屋に入ると、中村から手渡されたノートを読んだ。新聞記事があり、幸の事が書かれていた。どこでどう聞きつけたのか。幸が母子手帳を貰うために役場に行く途中で事故にあったことや、俺が事故の後遺症で入院したことまで書かれていた。さすがに、週刊誌のネタにはならなかったようだ。読みながら、俺は悔しかった、きれいさっぱり忘れて、過ごしてきた時間を恨むとともに、その時間を作ってくれていた両親に感謝した。あの時に俺に現実を突き付けられたら間違いなく、おれは壊れていたと思う。病気は時間をかければ受け入れることができた、ましてやすぐにどうのこうのなるものでもなかったことで、安心していた。しかし、幸と子供を同時に理不尽な方法で、無くしたことは到底受け入れられるものではなかった。幸を撥ねたやつは、違法ハーフ゜を吸引した後に、車両を運転して、あの惨劇を起こしたのだ。事故後24時間以内に幸が死亡したため、危険運転致死傷罪として起訴されていた。
その後に、俺は脳内なできた血腫の影響で、緊急入院となり、一時は開頭手術の危機もあり、余談をゆるさなかったらしい。そんな、俺に代わってすべての手続きを代行してくれたのは、両親だった。葬儀から、自賠責の賠償手続き、俺の仕事場への連絡などこまごまとしたものが、几帳面な親父の字で記されていた。幸の家にも挨拶に行き、俺の事情を話して理解してもらったことも記されていた。
それから、俺がATLであることも確認していた。俺の通院記録から判断したのだろう。
親とは、こんなにありがたいものだとあらためて感謝した。
この親がいなければ、おれは何もできずにいたのでろう。
やはり、急激にいろいろと思い出しことが、つかれたのか俺はベッドに倒れ込むとそのまま、眠ってしまった。
夜中にのどが乾いて、キッチンに行くと親父が、ひとりで酒を飲んでいた。
「飲むか」
親父は、俺に酒のピンを持ち上げて見せた。
「ああ、すこし付き合うよ」
といって、食器棚からコップを出してきて、瓶から酒を注いだ
「落ち着いたか」
「まだ、信じられないといったほうがいいと思う、でも親父がくれたノートでだいたいのことは分かった。、親父、幸が妊娠していたこと知ってたんだな」
親父は、うなづいた。俺は、幸のためにも事の真相は話さいと思った。
「辛いか、自分の子供と嫁を殺されて」
返事に詰まった。怒りがないというば、嘘になる。ほんとは、犯人をぶっ殺したいと思う。
「ほんとは、相手をぶっ殺したいと思うよ、でも、幸はそんなこと望んじゃいないと思う。いまは、幸のことが分かるんだ。短い間しか夫婦でなかったけれども、本当に好きだった。」
「あの後、警察が来てな、お前相手ぶん殴っただろ、あれ結構重症だったらしいぞ、過剰防衛だとも言われたが、ふざけんなと言っておいた。自分の家族が殺されて黙っている奴がいるかってな。それとな、俺も母さんも、お前の嫁には、感謝しているんだ。」
親父は,コップの酒をぐっと飲みほした。
「あの事故の時、幸さんはお前を助けたんだよ」
「どうゆう意味だ」
「事故時の役場の防犯カメラに、幸さんが跳ねられる寸前にお前を庇おうとしてお前を突き飛ばしているんだ、だからお前は、幸さんを跳ねた後の減速した車の側面で激突されていたんだ。その結果大怪我をしていなかった。」
「まさか、そんなことが」
「事実だ、警察の公式の記録にもあるし、目撃証言もある。俺たちとっちゃ、お前の命の恩人だ,だから俺と母さんが、お前の嫁のことをするのは当たり前だ。俺は、お前が記憶を無くしたのでさえ,幸さんがそうしたんじゃないかと思っている。逢って見たかったな、お前の嫁にきっといい子だったんだろうな」
と親父は、涙ぐんでいた。
俺は、まだ事故当時の記憶があいまいだった。でもきっとそうなのだと思う。幸の性格を考えれはきっとそうしてくれただろう
「親父たちにも合わせたかったよ、俺には、俺には・・・・」
言葉にならなかった。俺はつらくなってコップの酒をあおった。
そのまま、酒瓶がなくなるまで黙って飲んだ。
親父も何も言わずに,飲んでいた。
親子だと思った、なにも言わなくても心は通じていた。
二人して、幸の通夜をしているのだ。
俺は、ここに幸がいたらこの両親に実の娘のようにかわいがられたろうと思う。
次の日の朝、両親と一緒に岡崎家の墓に参った。
墓碑の横の法名碑には、幸の名前と戒名 没年と年齢がきちんと彫られていた。
線香をあげて、3人でしばらく拝んでいた。
「しばらく,独りにしてくれないかな」
と俺は、両親にいった。察したのか俺一人を残して帰っていった。
墓の前で、どかと座り込むと墓石を見上げて
(遅くなったな、寂しかったか)
(ここが、ここが俺の生まれたところでさ、幸と生まれた子供でこようなと思っていたんだ)
(親父に,いわれたけれども,幸俺のことかばってくれたんだな)
(ばかだよ、お前はおれのことなんてかばわなくても、どうせ俺お前より先に逝くのに)
(また゜17歳だから、いい人見つけて幸せになればよかったのに)
(お前,しんでも優しいのな、俺にお前のこと思いださせないようにしてくれたんだろ)
(でも、忘れることなんてできるはずがないだろう)
(守るといったのに、守れなくてごめんな)
(まだ、全部思い出していないから、俺たちのアパートに行くよ、ほんとはさ、帰ったら、幸がお帰りってでできそうな気がするんだ)
(幸、俺は、生まれて初めてお帰りといってくれる家に帰れて、幸せだったなあ)
(シチューおいしかったな、バイクも直してやったことも、一緒の布団で眠ったことも、真樹のことでくるんでいた時に抱きしめてくれたことも、ぜーんぶ思い出したよ。もう何も、思いだせないのかな。もう思い出も作れないのかな。楽しいこといろいろとやろうと思ったのに、いろんなところに連れて行こうと思ったのに、バイクの後ろに乗せてやろうと思ったのに。あーやりたいこと山ほどあったのに、短すぎる思い出なんて、全部思い出してしまった。もう、何も思い出せない、くやしいな)
俺は、心の中で幸に語り掛けていた。そうすることで、幸との思い出を確定していた。
墓から帰ってくると、ホッとした両親に、アパートに行ってくることを告げた。
親父からは、3通の通帳と印鑑を渡された。
「幸さんの保険金が入っている,お前のもんだ、好きに使え,お前ならば何に使えばいいか分かるだろう」
といった。俺は、通帳を受け取ると、車で空港まで送ってもらい。
福岡空港まで、飛んでそのまま、直行バスに乗って、ターミナで降りて、JRに乗り換えてアパートの近くの駅で降りた。
駅から、しばらく歩くと見覚えのあるアパートがみえてきた。
アパートの駐輪場には、カバーのかかったバイクとスクーターがあった。
ドアの前に立つと、一瞬身構えた。
このドアを開けると、幸がいるかもしれないと思った。
ドアを開けると、現実を認識してしまいそうて゜怖かった。
でも、それでも、俺は鍵を差し込んでドアを開けた。
当然、"おかえりなさい"の声もなかったが,かすかな花の香りがした。
部屋に入ると、テーブルの上に、写真立てと花瓶に生けられた紫色のリンドウの花が置かれていた。
テーブル上の写真は、二人で撮った結婚式の写真だった。
その写真を見て、おれはパニックになった。頭の中で何か必死に戦ってるようだった。
思い出しては,いけないことだと拒みつづけている俺がいた。
気持ちを落ち着けるために、冷蔵庫を開けるとミネラルウオーターの新品のボトルがあったので、一気に飲み干した、
冷たい感覚が体中に響き、すこし落ち着いた。
もう一度、写真を見た。すこし緊張した俺と、笑っている幸がいた。
俺は、写真に向かって
「ただいま」
といった。
リンドウの花が、かすかに揺れたような気がした。
この話を書きながら、不覚にも泣いてしまいました。特にお墓の会話内容について、なんで泣くんだろうと思いました。まあ、類似の体験は,あるんですが、それにしてもリアルすぎました。
さて、終盤からの話です。主人公は追体験をここからしていきます。辛いですが、思い出さないとどうにもならないことと、人は前に進むしかないということを認識します。
そして、幸から思わぬ贈り物もあります。
※結構読んでくれている人がいるのには、毎回UPしてびっくりしています。本当にありがとうこざいます。なかなか、独りよがりで書いているので、本当はつまらない小説じゃないかと思うことがあります。感想なんかもらうと、助かります。




