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許された心


島の夏は、熱い。しかし、夕方は海洋性気候ため涼しい風が吹く。俺は何もせずに、ぶらぶらと過ごしていた。両親は、何も言わなかった。おそらく、俺が結婚していたことも、何もかも知っていたのだろうが、何も教えてはくれなかった。

 だだ、俺が車の事故で、脳に損傷を受けて記憶障害があることだけは教えられていた。

 十数年ぶりに帰った、故郷は活気を失っていた。

 町の商店街は、さびれて空き店舗が増えていた。代わりに郊外に大型店舗が出来て、街の中心は完全にそこに移っていた。

 かつては、離島振興法により土木が、主要産業になっていた島の成れの果てだ。政権が変われば、そんなものはあっという間に無くなってしまう。観光なんて、ハードは十分なのに、ソフトで負けている。沖縄のほうが、福岡から五島に来るよりも安いなんて、馬鹿げた話だ。フェリーの車両運搬料金なんかは、運航キロ数で割れば世界一高いのかもしれない。ガソリンなんぞは。200円を超えている。

人口は、毎年千人単位で減り続けている。限界集落なんそ゜あちこちだ。

 かつては、漁業で栄え、養殖では名をはせた島だったのに。サンゴが取れだしてからは、信じられないほどの人が、島に来ていた。

かつての栄光と成功体験から抜け出せない、大人たちが未だに昔はよかったの話をしている。養蚕もたばこもとっくにダメになっているのに、まだわかってはいない。

 俺の時間は、15歳の時のままだ。憎んでいた。この島を心から。


室生犀星の詩ではないが


      ふるさとは遠きにありて思ふもの

        そして悲しくうたふもの

         よしや

          うらぶれて異土の乞食となるとても

            帰るところにあるまじや


 という気分だった。例え乞食になっても帰るところではないとフレーズは俺の心を代返していると思っていた。


 時々、病院に行って、街をブラブラして防波堤でボーとしながらたばこをふかしていた。

 時々知った顔にあったが、あえて話しかけなかった。随分と時間が流れていたし、親しい人もいなかった。


 「岡崎だろう」


 俺は、いつものように病院帰り。ボーとして防波堤でたばこをふかしていた。


 「中村?」


 「ああ、何年ぶりだ」


 「10年以上はあると思う」


 「お前、自衛隊にいったよな」


 「ああ、除隊した」


 「帰ってきたのか」


 「ちょっと事故にあって、療養中」


 「そっか」


 といって、中村と呼ばれた男は、俺の横に座ってたばこに火をつけた。


 「小林から、岡崎が帰ってきているときいたから、気になってな」


 小林とは、俺のかつての友人だ。


 「お前 残ったんだここに」


 と俺、中村にいった。


 「高校でてから、ここに残った」


 「何してんの今」


 「市役所に努めている」


 「お前頭よかったしな」


 不思議と、優等生の中村とぼんぼんだった小林とは中学のころ仲が良くつるんでいた。俺が真樹のことがあってからは、俺からの連絡を絶っていた。


 「帰ってきたんなら、こんどゆっくり飯でもくおや、連絡先教えてくれる」


 「ああ、いいよ」


 俺は、中村の携帯にBluetoothで番号を送った。


 中村は、連絡をするといって帰っていった。

 俺は、日が暮れて星が見えるまで防波堤に居た。街灯やビルなんぞないためこの島では、星がよく見える。

本当に、手が届きそうなくらい星が近い。


 帰郷してから、2カ月が過ぎても俺の病状は悪化もしなければ快方もしなかった。、ただし、俺のもう一つの病状は進行していた。

 白血球値が、2万を超えてきていた。この時、俺はATLの発症していることを知らされていなかった。

 ただ、超えるのは時々で、よくなったりしていたので気には留めていなかった。両親は知っていたので、俺の体調は気を配ってくれていた。


 中村とあって、数日してから電話があり、会うことになった。


 公園の横の炉端焼き屋で待ち合わせた。そこには小林もきていた。


 「岡崎、元気してたのか」


 小林が大声で俺に声をかけてきた。


 「ああ」


 「さすが、自衛隊だな体しってんな」


 「そんなことないさ、今は事故にあってリハビリ中だしな」


 「そっか、大変だったな」


 中村が、ビールを注文して、俺たち3人で飲み始めた。互いにいままでのことを話し、中学時代の馬鹿話に花が咲いた。

2件目のショットバーでも話は尽きなかった。もっぱら小林が喋り、中村つっこんでいた。俺は、何年かぶりほっとした時間を過ごしていた。

 自分に確実な記憶がないことに不安を抱いていた。

しかし、中村や小林たちの記憶は確かにあった。自分が各自に存在し同じ時間を共有していたことを確認した。

 3件目に行こうとしたときに,小林が明日仕事ということで、別れることになった。


 「あいつ、電気工会社に努めてるんで朝が早いしな」


 と中村が言った。


 「あいつ、長崎にいっのか」


 俺は、驚いた。ここでは地元の高校にほとんどが行き、長崎に進学するのは相当頭がよくないといけないし、家が裕福でないと島の外にでることはできない・


 「ああ、長崎工業の電気科出て、戻ってきたよ」


 「なんで、わざわざ戻ってくるんだ」


 「ここが、好きなのさ」


 「俺は、ここが嫌いだ」


 俺は吐き捨てるように言った。


 「すこし、酔いざましをしないか」


 中村は、自動販売機の前で缶コーヒーを買って俺に投げてよこした。


 そのまま、港のほうに歩いて行った。


 港は、煌々とナトリウム灯の黄色い光に照らされていた。

昔は、なかったフェリーの桟橋があった。


 中村は、船止めに腰かけてたばこに火をつけた。


 「岡崎のあの時の行動は、ただしいよ、真樹ちゃんは本当にお前のことを好きだった」


 「その話はよせ」


 と俺は、中村の言葉を遮った。


 「いや、あの時はあれ達はガキだったんだよ、なにもできやしない、お前は悪くない。でも、お前はこの島を出でいった。」


 「・・・・」

 

 俺は、なにも言わなかった。俺もたばこに火をつけた。


 「なあ、中村 俺事故にあってさ、ここ2~3年の記憶がないだ、無理に思い出すと脳に悪いらしく、何も思い出せない。でも、真樹の記憶だけはあるんだ。あいつは俺と出会わなければ゛あんなことにならずにすんだ。」


 「岡崎、その真樹ちゃんないま小林の嫁さんだ」


 「えっ」


 「小林な。真樹ちゃんのこと好きだっただよ、でも真樹ちゃんはお前のことが好きだった。そして、あの事件があって、真樹ちゃんはああなってしまった。それでも、小林はあきらめなかった。お前が出ていったあと、真樹ちゃんを支えたのは奴だ、奴はすぐに結婚できるように勉強してさ、工業にいって就職したんだ。そして、真樹ちゃんと結婚した。なんど、断られてもめげなかったぞ、奴は、お前に感謝してんだ、あの事件で、半殺しに奴ら、本当はやつがしたかったけれども、お前はやってのけたしな。それにな、お前が帰ってきたことを教えてくれたのは、真樹ちゃんだ。」


 「真樹が」


 「真樹ちゃんは、看護科出てから、五島病院で働いている」


 五島病院、俺が通っている病院だ。地域医療のかなめで最新の設備がそろっているここでは、この島では一番大きい病院だ。


 「真樹ちゃんは、お前のことで苦しんでいた、小林はさ少しづづでも,癒したんだな、今は、3人の子持ちだよ」


 俺はも泣いていた。真樹が幸せだということが、許されたのかもしれないと思った。


 「岡崎、お前泣いているのか」


 俺は、返事はしなかったが、あとからあとから涙がこぼれてきて、中村にばればれだった。


 「岡崎、もう一軒いくぞ、今日は朝までだ」


 「ああ」


 といって、中村と肩を組んで、再び飲み屋街への道筋を歩き出した。


 この島を憎んでいたのに、実際は、俺は逃げ出したに過ぎない。見たくないもまから目をそらし、聞きたくないことに耳を閉じていたにすきない。

そんな自分が情けなかった。この十数年の間に、小林は俺にはできかったことをなし、真樹を幸せにしていた。


 「なあ、中村 なんでお前はここに残っただ」


 「ここの自然や人がすきなんだ,だから俺ができることやるために役場に入った。確かに、産業もないもない島だれども、人も減っていくかもしれないれども、それはさ、自然に戻るってことだろ。この島には2万年以上も前から人が住み、それが今も続いている。人が生きていくことってさ理屈じやないからさ」


 中村、熱く語っていた。


 「でも、さびれていくことは止められない」


 と俺は言った。実際、俺たちが子供だったころの賑わいはない。子供数も俺たちがいたころの3分の1以下に減っている。65歳以上の高齢者は3割以上だ。


 「それでもさ、ここがいいんだよ。なせなら、俺たちが生まれて育った地ころだからさ。生まれ育ったところが一番だろ。そこを無くしてしまったら、どこに俺たちは立てばいい。立脚点を失えば生きる意味すら失うぞ」


 中村は、真剣に答えた。

昔から、頭がいいやつだった。絶対に大学行って偉くなると思っていた。でも大人だと思った。


 「偉そうなこと言ったけれども、外に出ていく勇気がなかったのも事実だし、それを恥じてはいない。それにな、来月結婚すんだ」


 「誰と」


 「職場で、出会った子とさ、俺とおんなじようにこの島を良くしようと思ってくれてるんだ。でも、この島出身じゃない。親父さんが出身だという理由でこの島にきて、役場に入った、九大出の超エリート」


 「よかったな」


 と俺は心からお祝いをいった。


 「だからさ,もういいんじゃない。お前がどんな時間を過ごしてきたかはわからないけど、あの事件あと俺たちと関係たったろ。あの時は悔しかったんだぞ。今はさ、あの時と違う俺も小林も力になれるよ」


 俺のこの十数年は,この時のためにあったのかもしれない。


 「ありがとう、俺の止まっていた時間が動き出したよ、真樹のことは俺の中では傷だったけれども、もう治っていたんだな。でも自分でかさぶたを剥がして傷を広げていたにすぎないだな。」


 中村は、笑った。おれもつられて笑った。

みんなが,それぞれの時間をすごして、幸せになった。いや、幸せにしたいという気持ちと幸せになりたいという気持ちが出会ってそうなった。

 俺には、この島を呪う気持ちはもうなかった。

 俺の探していたことこたえは、ここにあった。


 


人は、過去の過ちを許されたと感じたとき。どれほどほっとするのか。


時間とは、偉大な薬だと思います。


人を許せるから、過ちを置かない人間なんていない。だから、許さなければ生きていくことすら、困難になる。だから、許すと言ったらとことん許さなければならないと思います。

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