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27歳のクリスマス  作者: 白石 玲
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27歳のクリスマス 25日の物語


27歳のクリスマス   ―――12月25日(木)―――



「どうでした、昨日のデート?」

 いつもよりも先輩と目線が近い。それはきっと今日のヒールが13センチだから。

「まあ、別にって感じだな。喜んでたからいっか、みたいな」

 やっぱり、男の人はクリスマスにはあんまり興味ないのかな。先輩のデートの感想を聞きながらぼんやりとそんなことを考えた。

「山口、今日は終わるまで付き合うぞ」

 昨日終わらなかった資料作り。期限は明日までだけど、今日残業したら、明日はゆっくり見直してから提出できる。でもね、先輩。

「今日は定時であがります。デートなんで」

 相手に会えるかどうかもわからない未定のデート。それでも今日は、定時にあがって会いに行く。

「なんだよ、昨日はデートの予定無い言ってたのに」

「できるかどうかわかんないデートですけどね」

「んだそりゃ?」

 とりあえず、今日できるところまで。


「では、お先に失礼します!」

 5時半きっかりにオフィスを出る。久しぶりの13センチヒールだから転ばないように気を付けて乗ったことのない地下鉄の駅に向かう。そして、降りたことのない駅で降りて、入ったことのないホテルのロビーに入る。

会えるかどうかわからない。そもそも、今もここで働いているかどうかもわからない。会いたいならば簡単だ。ただ、昔と変わっていないだろうあの番号に電話をすればいい。でも、私はその番号に電話を掛ける勇気はなかった。

「きゃっ・・・」

 気を付けていたのに、ロビーに入った瞬間、フロントに気を取られてほとんど何もないところでつまずくなんて・・・。

「お怪我はございませんか?」

 私が転ぶ前に抱き留めたその腕は、その声は、今夜私が最も会いたいと思っていた人だった。

「相変わらず何にもないところで転ぶんだね」

「・・・彰」

「そんな素敵な格好して、誰かとクリスマスデート?」

 いつもと変わらないきれいな笑顔でそっと私の腕を離した。

「・・・彰と、・・・」

「え?」

「・・・彰と、デートなの」


 それから3時間。私はフロントで働く彰を眺めながらホテルのラウンジで待った。

「ごめん、お待たせ」

 ほとんどさっきと変わらない格好のまま、片手に黒のロングコートを持って彰が私を迎えに来た。

「これで2回目」

「え?」

「クリスマスに3時間待たされるの」

「ごめん」

 今日は私が勝手に来たんだから。謝ることなんてないのに、謝っちゃうのが彰なんだ。

「何か飲む?」

「いや、お腹空かない?」

「空いた!」

「よし、じゃあ、食事に行こう」

「あ、でも、ちょっと・・・」

 私はラウンジの制服が似合うかわいいウエイトレスの女の子がサービスしてくれたお代わりの紅茶がまだ半分残っているのを思い出した。

「?」

「サービスでお代わり注いでくれたの」

 急いで飲み干そうとした私に、彰は笑って向かいの席に腰かけた。

「ゆっくりでいいよ」

 その言葉に、私は思わず笑った。

「え?なに?」

「やっぱり彰だなって思って」

「どういう意味?」

 彰は首を傾げたけど、私は黙って笑って紅茶を飲みほした。

「OK、行こう」

「ゆっくりでいいって言ったのに」

 そう言いながら彰が差し出してくれた手をためらわずに取って、私は転ばないように気を付けながら立ち上がった。


「あのふたり、恋人同士?」

「え?」

 外はきりりと冷たくて、とりあえずどこかレストランを探そうと彰がiPhoneをひらく。

「さっきの、ラウンジの」

 紅茶のお代わりをサービスしてくれた女の子とカウンターでグラスを磨いていた男の子は楽しそうに微笑みあっていて、とてもお似合いの可愛いカップルだった。

「ああ・・・どうかな?」

「とても仲良さそうだったから」

「そういえば、いつも一緒にきて一緒に帰るから、そうかもね。手を繋いだりっていうのは見たことないけど」

 地下鉄の駅が近づいて、彰は私が転ばないようにまた手を差し出して、私はその腕につかまってゆっくりと階段を降りる。

「手を繋ぐのが恥ずかしい初々しさ・・・とか?」

 そんなことを言いながら、初めて彰と手を繋いだ時のことを思い出した。

「ふたりともまだ大学生と高校生だから、そうかもしれないね」

「いいな~、そんなドキドキする可愛い恋なんて、とっくの昔にできなくなっちゃったしな」

「結衣ちゃん・・・結構悲しいこと言うね」

 そういって彰はまたきれいに笑った。


「もっと早く俺を予約してくれたら、もうちょっと頑張れたのに」

 クリスマスだから、おしゃれなレストランはどこも予約でいっぱいで、結局彰と向かい合って座っているのは大学生の時と変わらないファミレスのソファー。

「いいの。今日はこれで」

 あの頃と何の変りもないファミレスのパスタを食べて、彰がどうしてもっていうからケーキも食べて、明日も仕事なのに、時計の針は十一時をまわってて、そろそろ出ようかって、彰が伝票を左手に持って、右手を私に差し出した。

「ありがと」

 その手を借りて立ち上がる。レジでお会計をしている彰の後姿を眺める。

「家まで、って言いたいとこだけど、そしたら俺が終電に間に合わなくなるから、今日はここまでで・・・駅からは、タクシーに乗って?」

 駅での別れ際、彰が私の手に千円札を握らせる。でも、私だって、さっきの食事代を渡そうと思って千円札を二枚、手元に用意してた。

「「いいよ」」

 お互いが同時に断わった。

「いいから、今日は受け取って」

 彰の大きな手が私の手に千円札を握らせる。

「でも・・・」

「待たせたし、クリスマスなんだから、俺に花を持たせてよ」

 そういってニコッと微笑む顔はやっぱり昔とあまり変わってなくて、私は今も、彰のことが好きなんだなって、そんなことをぼんやり思った。そして、それと同時に、彰の寒そうな首が目に入った。

「彰、これ!クリスマスプレゼント!」

 クリスマスカラーのキラキラした紙袋。きれいにラッピングされたそれは、昨日ショーウインドウに飾ってあった紺色のマフラー。

「え?」

 驚く彰の大きな手に紙袋を押し付ける。

「結衣ちゃん、俺、なにも・・・」

「彰からのプレゼントはもうもらったから」

「え?」

「このマフラーすごくあったかいから」

 本当はこのディープグリーンのワンピースに合わせたかった大好きな赤いマフラーは、きっとしばらくクローゼットでお留守番。

「それはよかった」

「じゃあ、またね」

「うん」

 彰の大きな手の甲に一度だけ触れて、私はゆっくりと彼から離れた。

「結衣ちゃん!」

「ん?」

「また誘ってもいい?・・・次からは、待たせないから」

「期待してる」

 私の返事に、キュッと口角を上げてうれしそうに笑った彰の笑顔が、私はやっぱり、世界一好きだ。


 帰りの小田急線の中で思い出した。あのドラマも確か、男に浮気される始まりだけど、最後は別の恋人ができて、ハッピーエンド。



 もう一度、13センチのヒールであなたの隣に立ってもいい?




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