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27歳のクリスマス  作者: 白石 玲
4/5

27歳のクリスマス 24日の物語


   27歳のクリスマス   ―――12月24日(水)―――



「おはようございます」

「おはよう。なんだ、機嫌よさそうだな?」

 一昨日の私を気にしていただろう先輩に一番に声をかけた。

「今日はクリスマスイブですから!」

 本当は、クリスマスが大好き。クリスマスムービーも、クリスマスソングも、クリスマスの買い物も、今年はまだ何もクリスマスらしいことなんてできてないけど、それでも、やっぱりクリスマスが大好きなことには変わりなくて、それに、嫌なことは昨日で全部終わったから、だから今日と明日は、大好きなクリスマスをきっと、楽しめるはず・・・ひとりだとしても。

「昨日もデートで今日もデートか?」

「へ?」

 意味ありげに微笑まれて私の声はひっくり返った。

「それ、男物だろ?」

 言われて手にしていたマフラーを見る。今朝があまりにも寒かったから、一昨日コートと一緒にかけっぱなしにしていた彰のグレーのマフラーをしてきた。だって、自分の赤いマフラーは会社に置きっぱなしだったから。

「先輩、今日と明日は残業してでもあの資料、仕上げますから」

「?」

「デートの予定無いんで」

 やることは多いほうがいい。そのこと以外何も考えられないほど、忙しいほうがいい。


「山口、いい加減にあがれよ」

 声をかけられたのは、午後7時半を回った時だった。さすがにクリスマスイブだけあって、もう、ほとんど誰も残っていない・・・いつもだったら半分くらいいるのに。

「でも、私・・・」

「お前が上がんなきゃ俺も帰れねーだろ。遅刻したらどうしてくれんだ?」

 珍しく時計を気にする先輩は、きっと今日がクリスマスデートなんだ。

「今片付けます」

「おう、早くしろ」


 せっかく何も考えずに仕事に集中できていたのに、無情にも先輩のクリスマスデートのおかげで私はイルミネーションとカップルで煌めく街に放り出されることになった。

 贈る相手もいないけど、クリスマスの買い物がしたくて覗いたショーウインドウには紺色の暖かそうなマフラー。

「・・・自分のほうが寒がりな癖に・・・」

 バックの中には彰のマフラー。時間ができたら・・・っていったけど、彰のことだから、多分、持ってるマフラーはこれ一本だけで、私に貸したからって新しいのを買おうなんて思いつきもしなくて、大きな背中を丸めて寒そうに歩いてたりするんだろう。


 彰と付き合い始めたのは大学一年の終わりころだった。何をどう勘違いしたのか、バレンタインデーの日、彰のロッカーにバレンタインチョコレートを入れたのが私だと思った彰は、ホワイトデーに・・・。

『俺も君のことが好きです!付き合ってください!』

 と、告白の返事のつもりで言ってきた。そんな彰に、私は驚いて絶句した。

『・・・私、あなたのことが好きだなんて、言いましたっけ?』

 その日、呼び止められるまで、私は彰の名前すら知らなかった。彰のほうが二つ年上で学年も違ったし、講義もゼミも一緒になったことはたぶんなかった。そんな私のことを、彰はどうして知っていたのか・・・そういえば、聞いたことがなかったな。

勘違いの告白だったけど、それでも、私たちは付き合い始めた。私が勘違いした彰の告白にOKを出したのはものすごくいい加減な理由。

『彰の笑顔、大好きだから』

『ほんと?』

『っていうのはあとからの理由で、本当は・・・』


名前が“彰”だったから。


『大好きなの”スラムダンク”の”仙道彰“』

 何日かしてから告白を受けた理由を訊いてきた彰に、少しためらったけど正直に答えた。怒るかな、と思ったけど、彰は豪快に笑った。

『この名前つけてくれた親父に感謝しないとな』

 それくらい彰はおおらかで、寛大で、優しくて、自由で、究極にマイペースな男だった・・・多分、今も。

 でも、だから別れたんだ。

 せっかちで短気な私はその彰のおおらかさというか、あの頃はそんな長所だなんて思ってもなくて、時間にルーズで寝起きの悪いところとか、デートのたびに遅刻するところとか、そんなことにいちいちイライラして、付き合いだしてから9か月の初めてのクリスマスデートで3時間待たされたことで、私の怒りはついに爆発した。

『彰と一緒に一とイライラするの』

『遅刻の言い訳ももうたくさん!』

『もう、待ってるのに疲れたの』

 そんなひどい言葉を次々と投げつけて、それまでに見たことのないほど悲壮で絶望的な顔をした彰に、私は一方的に別れを突きつけて、それからあの日まで、一度も会わなかった。

 そしてその数年後、私はびっくりするほど強気で時間に厳しい彼と付き合い始めた。彰よりも彼のほうが、私に合っていると思ったから。でも、結局はそれは間違いだったらしい。


 私はあんなにひどく一方的に彰を傷つけたのに、彰はどうしてあの交差点であんなに穏やかに私に声をかけてくれたのだろう。あの頃の私は子供で、彰はあの頃から大人だった。



 今年もやっぱり、クリスマスの買い物をしよう。



 明日に続く・・・





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