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27歳のクリスマス  作者: 白石 玲
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27歳のクリスマス 23日の物語



27歳のクリスマス   ―――12月23日(火祝)―――



 クリスマスディナーの時に着ようと思っていたディープグリーンのワンピースは今日もまだ、クローゼットに仕舞い込まれたまま。今年はきっと、活躍する日がないんだろう。

「・・・大丈夫、大丈夫」

 背が低いのを気にしている彼に気を使ったローヒールの靴も、もう履くことがないと思って全部ゴミ袋に放り込んだ。今朝ゴミ捨て場においてきたから、きっと今頃は回収車の中だ。

 デートの時に気合を入れてしていたヘーゼルナッツカラーのカラコンも本当は馬鹿馬鹿しかったけど、少しでも見返してやりたくて、いつもよりもくっきりと施した化粧と、彼の前では絶対に履かなかった7センチヒールのブーツ。これが今の私の精いっぱいの抵抗だった。

「珍しいな。結衣のほうが早いなんて」

 待ち合わせ場所でちらりと時計を確認してにやりと笑う。最初はこのちょっと意地悪そうな笑い方さえも、好きで好きでたまらなかった。

「じゃあ、いくか」

 くいっとあごでしゃくるように示してさっさと先に歩き出す。よく考えたらこの4年、並んで歩いたことなんかあっただろうか。いつだって、私は彼の半歩後を歩いていた。最初はこの強気なことにさえ、惹かれていたのに。

「結衣、遅れるぞ」

 遅刻なんてありえない。待ち合わせにはいつも彼のほうが早く着く。予約時間に遅れるなんてとんでもない。デートの予定は十分刻み。寄り道なんて許されない。そんなきっちりしたところも、好きだってずっと勘違いしてた。


 でも、それは好きだったんじゃなくて、当て付けだったって、今気づいたよ。


「私、いかない」


 立ち止まって言った私の言葉で、はじめて彼が振り返った。

「なにいってんだよ?予約は7時なんだぞ」

 不機嫌にそういって、また時計に目を落とす。きっと7時まで、10分切ってる。でも大丈夫。もう店の前だから間に合うよ。あなたはね。


「彼女と行けば?」


 私の言葉に一瞬大きく瞳を見開いて、そしてすぐにふっと細めた。ずっと好きだって勘違いしてた不敵な笑みも、私にはもう、何の効果もないよ。

「お前、何言ってんだよ?」

「日曜日、交差点の信号待ちでキスしてた」

「っ・・・」

「クリスマスデートは明日?それとも明後日?」

「結衣・・・ちょっ・・・」

「はい、クリスマスプレゼント」

 今日1日をかけて部屋中から引っ張り出したアクセサリーと小物たち。4年間にもらったものは意外と少なくて、今朝捨てたローヒールが入っていた靴箱にすっぽりと収まった。


「ありがとう、さようなら」


 今多分、私の笑顔って最高にきれいだ。この4年間のいつ、どんな時よりも。


「おいっ!結衣っ!」

 私の名前は呼ぶけど、あなたは追いかけてこられない。だって、私を逃がしてしまうことよりも、予約時間に遅刻する男だと思われるほうが嫌なんだもの。だから、目の前の店に入ってキャンセルをするか、電話をかけてキャンセルしてからじゃないと私を追いかけられない。

 本当は13センチのヒールもあった。でも、あれだと走れないから、今日は7センチヒールのブーツにしたの。

 これなら駅まで、立ち止まらずに走れるから。



 私は今日、きっとこの7年間で初めて正しい決断をした。



 明日に続く・・・






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