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桜川妻のつぶやき

 プロポーズを了承したあと、彼は自分の仕事がSPであることを話してくれた。ちょっと驚いたけど、桜川って時代劇に出てくる殿様の護衛をする藩士とか、幼い跡取りの命を狙う追っ手から助ける剣の達人が似合うんだよね・・・SPって桜川にしっくりくるなあ。

「SPって、確か警察官のなかでも特別に優秀な人材から選抜されるってドラマで見たよ。桜川ってすごかったんだね」

「進藤。お前は俺をなんだと思っていたんだ」

「え。四角四面が服着て歩・・・はひふんおお(なにすんのよ)~」

「悪い。なんかむしょうに頬を引っ張りたくなった」

 真面目な顔して人の顔をむに~っとする桜川・・・こんなこと、大学時代にされたことなかったなあ・・・と思っていると目があった。

 なぜか慌てて私の顔から手を離す桜川がおかしくて、思わず笑ってしまった。

 そして半年後。私たちは入籍をし、桜川を謙斗と呼ぶようになった。


 結婚して3ヶ月がたとうとしている。

 朝食のあとに謙斗がダークカラーのスーツに袖をとおし、ネクタイを締めるしぐさが実は結構好きだ。そのあとにいつも優しい顔で私のほうを見るのも好き。

 今日から謙斗が出張で3日間いないから、私の好きなしぐさを見ることができないのは残念だ。

「戸締りはちゃんとするようにな」

「わかってるって」

「久しぶりの“一人暮らし”を楽しんだらいい」

「ふふ、そうだね。行ってらっしゃい」

「・・・・行ってきます」

「私の顔にご飯粒でもついてる?」

 なぜか謙斗が私の顔をじっとみるので、私も見返す。なんか・・・微妙な沈黙が流れる。これは「いってらっしゃいのキス」というものをするシチュエーションというやつだろうか。

「謙斗?」

「あ・・・いや、そ、そろそろ俺出るわ。じゃ、じゃあちゃんと戸締りしろよ」

 慌しく玄関を出て行く謙斗を見送った後、なんだかこっちも恥ずかしくなって顔が赤くなっていくのがわかった。

 いってらっしゃいのキス・・・・既婚の友人は「そんなもん最初だけ」と言い切っていたし、だいたい私たちはまだキスも寝たこともない。

 半年を恋人としてつきあってたときもそういう雰囲気にならなかった。そんな状態で、どうして結婚したかといえば「互いに感じる居心地のよさ」につきる。

 私たちが入籍と両家親族招待の食事会だけで、挙式をしなかったのは互いの仕事が忙しいのと、二人揃って結婚式と披露宴に興味がなかったのが理由だ。 

 うちの両親と姉(既婚・2人の子持ち)は、このまま独身かと心配していたマイペースな性格の次女(私)が、自分たちも知っている桜川と結婚することをただ喜んでいる。

 一方、謙斗の両親からは「うちのバカ息子の考えで入籍だけだなんて・・・本当に申し訳ない」と謝罪されてしまった。

 私も式や披露宴に興味ありませんからって正直に言ったのに「奈歩さん、そこまで謙斗にあわせなくていいのよ?」と逆に“けなげな嫁”認定されてしまった。

 謙斗からは「“けなげな嫁”って思われていたほうが今後得だと思う」と言われ、それもそうかと思ってしまう私に新婚の初々しい嫁っぷりは、これっぽっちもない。


「へ~、旦那さん出張なんだ。ということは一人暮らし状態だね。いいなあ」

 カウンターに座った董子さんが、カフェオレを飲みながら羨ましそうに口を開いた。

「董子さん、旦那さんとラブラブじゃないですか」

「いやラブラブじゃないから。普通だから、普通」

 董子さんは店が開店したころからの常連の一人。職場の上司の方と結婚している。

「董子ちゃん、素直じゃないわねえ。この間も手をつないで歩いているのを見かけたわよ」

 隣の席に座っていた菅原さんがふふふと笑う。ちなみに菅原さんは定年退職をしたご主人と二人暮らしで、子育ても終わった今は“羽を伸ばしている”のだという。店でなつかしの絵本を読むのがお好きな方だ。

「て、手をつないだのは、たまたまですからっ」

 董子さんが口を開いたときにカフェのドアが開き、男の人が顔をのぞかせて私にお辞儀をした。

「董子さん、旦那さん来ましたよ」

「う・・・もう来たのか・・・奈歩さん、じゃあまたね」

「はい。またいらしてください」

 董子さんは照れたように旦那さんのところに行くと、そのまま店を出て行った。

「董子ちゃんって、照れ屋さんよね。そう思わない?」

「はい、菅原さんの意見に賛成です」

 私たちは顔を見合わせて笑った。


 そして“一人暮らし”に戻って気づいたこと。

 謙斗がいないと、部屋が広い・・・・顔が見たいなあ。いないと寂しい。私は、いつのまにか2人でいることが当たり前の感覚になっていた。

董子は別作品の主役で、現在番外編を更新中です。

・・・この作品覚えている人がいるといいな(汗)。

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