戦場の華
「押さえろ!ここには一般市民がいる!ウィオール様が来るまで持ちこたえるんだ!」
隊の隊長の言葉に、護衛隊の全員が声を張り上げる。が、最初よりも覇気がなくなってきている。かなり体力を消耗している。このままではまずい。
「くそ!指揮してくれる人がいないからな・・・」
ウィオールは先ほどどこかに行ってしまっている。もしかしたら一般市民の誘導でもしているかもしれないと思うと、この場を離れるわけにはいかなかった。
「押せ!押すんだ!」
できるかぎりの声を張り上げた。みんなに届くように、少しでも活気付いてくれるように。
「どこに行かれたのだ、ウィオール様!」
「すまない!待たせた!」
隊長が振り返ると、駆けてくるウィオールが見えた。その背後に、誰かがいるのも。
(あれ、は・・・っ!?)
最初は疑問に思った。一般市民のようなのに、なぜそのような人がウィオールの側を走ってこちらに来るのか。その真相は、簡単だった。2年前と変わらない、その容姿があるから。
「あなたは・・・ユフィ様!?」
「確か・・・そう!オリエーヌ隊長!隊長だ!」
「ユフィ様!戻ってきてくださったのですね!?」
「とりあえずは、ね。どう?現状は」
ユフィが帰ってきてくれたことで、胸がいっぱいだった。が、ここは戦前。そんなに悠長にしている暇は無い。
「少し、こちら側が押されています。ユフィ様・・・」
「・・・いいの?私が指揮しても」
「頼みます。ここにいる全員が、あなたの帰りを待っていた!今ここの指揮ができるのは、あなたかウィオール様だけだ」
隊長の言葉に、ユフィはウィオールと顔を見合わせた。ウィオールは微笑んだまま何も言わない。やれということだ。ユフィはすぅっと息を吸った。
「全衛兵に告げる!私の声が聞こえるか!!」
声を張り上げたその一瞬、音が静まった。何人かの衛兵の視線がこちらへむいた途端、徐々に完成が上がりだす。
「あれは、ユフィ様!?」
「ユフィ様だ・・・」
「ユフィ様が帰ってきた!!」
歓声の中で、ユフィが声を張り上げる。
「ひるまないで!数はこちらの方が多い!臆することはないわ!全員で蹴散らすわよっ!」
再び大きな歓声が上がる。ユフィはそれを確認すると、ウィオールと共に駆け出した。
(久々なの・・・暴れちゃうから!)
ウィオールから託された剣。目の前にいるクロウに立ちに向けて、思いっきり振りかぶり、剣を叩き落した。地面が揺れ、大いに風が吹き付ける。それだけで多くのクロウが消えていく。
(すごい・・・全然体は覚えてる!)
体が軽い。ただ動きたいと思うがままに動き続ける。剣を振るう感覚が懐かしい。あのころに戻れたみたいで、とても軽やかになれる。前と今とは違うけれど、それでも体が叫んでいた。戦いたいと―――。
次々となぎ払われるクロウの群れを見つめ、隊長はうなった。
「力の差がありすぎる・・・これが・・・」
オルメスが誇った最大の力の持ち主。オルメス第一賢者の力。華奢な体から出ているとは思えないほどのパワーだ。表情がとても誇らしげで、とても楽しそうで―――。
「ユフィ様に続け!」
見ているだけではいられない。こちらだって戦わなければ。歓声をあげ、意気を取り戻した衛兵たちが再びクロウへ向かう。かなり時間がかかるとされていたのだが・・・。
(この分には、問題ない)
隊長は誰にもなれないようにそっと微笑んだ。
その読みは見事的中。それからしばらくたって、クロウの群れはすべて消し去られた。