要の重み
「なるほど・・・クロウがまた、ね」
「はい。まだ詳しいことはわかっていませんが、引き続き調査をしております」
「そう、わかったわ。指揮は頼んだわよ、ウィオール」
「お任せください、ラウティリア様」
目の前に悠然と立つ女性に深々と例をし、金髪の青年は踵を返した。
天空塔180階。姫君、ラウティリア・エル・スレオミスの私室。この天空塔の最高指揮官。その扉の前で、金髪の青年は大きくため息をついた。
「どうしたの?そんなくらい顔して」
「・・・らしくないよ、ウィオール?」
「エルリオ様、サフィナ様・・・」
ウィオールが振り返ると、そこには優しく微笑む女性と、その背に隠れた小さな少女がいた。エルリオ・エレリア、サフィナ・アルマンティート。この天空塔の残りの2人の姫君だ。
「ため息なんて珍しいね?悩み事?」
「はぁ、まぁ・・・」
ウィオールは曖昧な表情を浮かべた。
「・・・クロウの、こと?」
「はい。最近、頻度を増してこちらの世界に侵入してこようとしているのですが・・・正直に、もう少し人手もいるな、と思いまして・・・」
「・・・・・・思い出したのかい?」
「・・・はい。ですが、わかっています」
ウィオールは苦い顔をした。そう、今は人手が足りない。最も今までとそこそこ変わらない人数。だが、この2年で決定的に変わってしまったことがあるのだ。それこそ、そこまで人手不足だと感じさせないほどに、とても強く、凛々しく戦っていた人が、いなくなったから。
「・・・ユフィの、こと?」
「・・・・・・悔やんでも仕方ないんです。俺だって、わかってるはずなんだ・・・だから衛兵ががんばってくれてるのも知っている」
「でも、ユフィも・・・ユイルも、ウィオールの幼馴染、なんだよね?」
控えめに聞いてくるサフィナだが、それでもウィオールに突き刺さる痛みは強かった。もう、忘れなければならないはずなのに。片方の幼馴染には、最後の希望を求めているが、未だにそれには答えられていない――――。
「・・・ウィオール、悲しいのはわかる。でも・・・」
「わかっています。大丈夫ですよ、エルリオ様」
ウィオールは無理に笑顔を作った。
「俺だって、自分が今何をしなければいけないのかわかっています。俺が、オルメスの1人であることも、忘れてはいません」
「そう、それならいいの・・・。けれど、決して無理をしないでね?わかっているね?あなたに何かあれば、この天空塔はかなりの危険にさらされると思って。あなたがオルメス最後の要なんだからね?」
エルリオは真剣に言った。かつて5人の英雄のそろっていた2年前。オルメスの中でも最も優秀とされていた3人。ウィオールを入れた、幼馴染3人組。その3人がそろうことは、もう無いのか・・・。だからこそ、オルメス最後の要が、ウィオールなのだ。本当はこの約は、ウィオールが受けるはずではなかったけれど。
「・・・肝に銘じております」
「ウィオール、気を、落とさないでね?私たちもがんばるから」
「ありがとうございます、サフィナ様。・・・すいません、これからいくところがあるので、失礼します」
「えぇ、がんばって頂戴ね、ウィオール」
ウィオールはその場で一礼し、その場を去って行った。が、エルリオに言われた言葉が頭から離れない。
――あなたがオルメス最後の要なのよ?
「わかっている・・・っ」
わからないわけが無い。でも・・・2年。たったの2年なのだ。
「もう、俺たちは一緒にはなれないのか?・・・ユフィ、ユイル・・・」
こんなことになるだなん手思いもしなかった。こんな形で、自分たち幼馴染が引き裂かれるだなんて、思ってもいなかった。それだからこそ、ショックは大きい。それに、もう・・・。
「くそっ!何でこんなときに・・・っ」
ウィオールは奥歯をかみ締めた。今は至って重要な時期。こんなに迷っていることは許されない。自分がオルメスという立場である以上、迷うことは許されえない。立ち止まることは、許されない。進まなければ、この世界を守るために――――。