第八章 三人の殺し屋
真琴が神社の鳥居をくぐって階段を下りると、ビー玉は神社の参道に転がっていた。
「うわっ、あかん、遠過ぎて穴まで一回で戻れへんやん」
真琴が神社の鳥居を見上げて頭を掻く。
「よし、弘、続けて行くからね」
りさが続けてビー玉を弾くと、りさのビー玉は最後の穴に入った。
「やった! 弘! 私も殺し屋よ!」
りさが胸の前で右手の拳をぎゅっと握り締めて喜ぶ。
「よっしゃ、りさも殺し屋や!」
「いかん、りさも殺し屋か、こりゃ厳しい」
竜の神様がまた嬉しそうにパチパチと手を叩くと、山の神様はあご髭を撫でながら目を細めた。
「りさ、神様の殺し屋やん!」
「あはは! ほんとね!」
「神様やのに殺し屋って、なんか変やな?」
「まあいいじゃん、この世の人に命を授けるのも奪うのも神様の仕事なんだから」
「えっ、命を奪うのも仕事なん?」
「そうよ、そうでないと人だらけになるじゃん」
「人の命を奪うのは、坊さんと違うん?」
山の神様が弘の疑問に答える。
「あほ、弘、坊主は死んだ人をあの世へ送るのが仕事じゃ。それに、坊主は人間やし、人の寿命は決めんわい」
「あっ、そやな」
「人の寿命は生まれる前にもう決まっとるんじゃ」
「そうなん?」
「そうじゃ、本当は生まれる前に自分も知っておるのじゃ」
「えっ、ほんま? 何で今は分からへんの?」
「生まれた瞬間に忘れる様になっておるのじゃ」
「ふ~ん、不思議やな……山の神様、俺、何歳まで生きるん?」
「それは言えん、けど、弘、お前はめちゃめちゃ長生きじゃ」
「そうなんや、あー良かった!」
「あほは、みんな長生きなんじゃ」
「なんじゃそら! 俺、どんだけあほやねん!」
弘が白目を剥いて山の神様を睨む。
りさは穴に入ったビー玉を拾うと、ふっと息を吹いてビー玉に着いた土を落とした。
「まずい、いやな予感やし」
「行くわよ、弘!」
「やっぱり……」
「もちろん、殺し屋だもの、それっ!」
りさのビー玉が弘のビー玉の横をスレスレで通り抜けて行く。
「あっ! 惜しい!」
「危ねぇ! 危ねぇ! 危機一髪やん!」
弘は中腰でしゃがみ込んで、両手の拳を握り締めた。
「俺も、はよ殺し屋にならんと、りさの餌食や」
弘はビー玉を弾いて次の穴に入れると、最後の穴をめがけて、もう一度ビー玉を弾いた。すると、ビー玉は見事に最後の穴に入った。
「よっしゃー! 俺も殺し屋や!」
弘が両手の拳を握りしめて喜ぶ。
「ありゃ、弘も殺し屋か、みんな殺し屋になってしもたぞ」
「あはは、そうですな、こりゃもう誰が勝つか分かりませんな」
山の神様が弘を指差すと、竜の神様は鼻の下から生えた二本の細長い口髭を上に立てて愉快げに笑った。
「次、真琴やし!」
「了解!」
(よし、まずは鳥居を越えて、御神木近くにビー玉を戻すか……)
弘が真琴に右手を上げると、真琴は神社の御神木をめがけて思い切りビー玉を放り投げた。
ビー玉は鳥居の下の敷石に当たると、弾け飛んで神社の御神木に向かって転がっていった。