第四章 神様の転勤
――弘は神社の端でビー玉を拾うと、シャツの裾でビー玉を拭いて地面に置き直した。りさのビー玉は弘のビー玉の近くに転がっている。
「次、りさの番やし」
弘がりさに声を掛ける。
(あっちの穴は遠いから弘のビー玉に当てた方が早く進めるかしら? でも、失敗して弘のビー玉に当たらなかったら……)
りさはビー玉の前でしゃがむと、穴を狙うべきか、弘のビー玉を狙うべきか、迷って考え込んだ。
「おまえ、尻尾あらへんな」
「えっ?」
りさが振り向いて後ろを見ると、弘がりさのスカートをめくっていた。
「きゃー! 何してるのよ、弘!」
「尻尾生えてへんやん」
「ちょっと! もう、バカ!」
りさがバシッと弘の頭を叩く。
「痛っ! 何すんねん!」
「『何すんねん』じゃないわよ! 祟るわよ!」
「へっ、そんなん出来るん?」
「『そんなん』出来るわよ、夢の中に化けて出てやるから!」
「へっ、そんなんも出来るん?」
「そうよ、『そんなんも』出来るのよ、きつねの神様の娘を怒らせると怖いんだから!」
「なんで尻尾無いんやろう?」
「ちょっと、あんた、私の話を聞いてないでしょう!」
「うーん、不思議やな?」
弘が腕を組んで首を傾げる。弘はりさの話を全然聞いていない。
「だめだわ、こりゃ!」
りさは弘に呆れると、天を仰いで両手を上げた。
「りさ、何してんねん? 早よせいや!」
「だって、弘が私のスカートめくるんだもん」
「えっ、弘、りさのスカートめくったん?」
「うん、めくった」
「尻尾あったけ?」
「あらへんし、真琴」
「もう馬鹿ね、尻尾なんて今時無いわよ、学校じゃ超ミニスカートなんだから」
「はっ? 学校? どこの学校なん?」
「きつね神学校よ」
「ええっ?」
真琴が両手を上げて一瞬固まる。
「りさ、お前、言葉がなまってんな?」
「あんた達の言葉がなまっているのよ」
「えっ? 俺ら綺麗な関西弁やんな、弘」
「うん、めちゃめちゃ綺麗な関西弁やし」
「バカ、その『関西弁』が、なまってんじゃん!」
「『じゃん』やって、ははは、関東弁やん」
「うちは東京の神様だからね」
「そうなん、ほな、なんでここにおるん?」
「お父さんが転勤したからよ」
「きつねの神様って、転勤するん?」
「そうよ、四年に一回、転勤するの」
「ほな、ここに居るきつねの神様は東京の神様け?」
「ううん、違う」
「なんで?」
「お父さんは別の神社に単身赴任中で、今は私とお母さんでやっているの」
「へぇー、きつねの神様の世界ってサラリーマンみたいやな、ほんで、お前も偉いな、めっちゃ偉いやん」
「そんなに褒めてもらったら照れるじゃん」
真琴がりさを褒め称えると、りさは照れて頭を掻いた。




