第三章 二段飛ばし
――神社の南の端には竜の神様が祀られている。
「これ、最後の一枚やし、竜の神様にあげるわ」
真琴はズボンのポケットからまたガムを一枚取り出して、賽銭箱の上にそっと置いた。そして、祠に手を合わせてからビー玉を拾った。
「よし、逆転やし、竜の神様パワー」
真琴が声を掛けて勢いよくビー玉を弾くと、ビー玉は縁石に当たって向きを変え、穴に向かって一直線に転がった。そして、見事に穴に入った。
「よっしゃー!」
「うわっ、またかいな! 真琴、やっぱり天才やん!」
「あたり前田のクラッカーやん」
弘がまた真琴を褒め称えると、真琴は得意げに右手の拳を突き上げた。
「ああっ、竜の神様が真琴に力を貸してる」
「ええっ? りさ、俺、竜の神様見えへんし」
真琴が首を左右に振って、竜の神様の姿を探す。
「竜の神様、反則よ」
りさは竜の神様の祠に向かって歩いて行くと、祠の前で手印を組んで呪文のような言葉を唱えた。
「りさ、何してんねん?」
真琴がりさの背後から話しかける。
「封印、あんたの後ろに山の神様と竜の神様がいる」
「はっ? 封印?」
「神様の御加護は無しよ、真剣勝負なんだから」
「えっ、厳しいな、りさ」
「あたり前田のクラッカーでしょう」
「それ、俺のセリフやん」
りさが手印を組みながら振り返ると、真琴は肩を落として顔をしかめた。
「おい、真琴、やんぞ!」
「おっしゃ、やんぞ、りさと弘に逆転じゃあ!」
真琴がビー玉を弾くと、弘のビー玉が弾け飛んだ。
「きぇ~! 悪魔や!」
今度は弘が奇声を上げてビー玉を追いかける。
「え~続きまして」
真琴が向きを変えてビー玉を弾くと、りさのビー玉も弾け飛んだ。
「きぇ~! 悪魔よ!」
りさも弘と同じ様に奇声を上げてビー玉を追いかけた。
「ははは、見たか必殺二段飛ばし! それじゃお先に」
真琴は軽快に笑うと、必殺技の二段飛ばしで二つ先の穴に進んだ。