第二章 ビー玉の殺し屋
「おまえ、何処から来たん?」
「ここ」
真琴が首を傾げてりさに尋ねると、りさは振り向いてきつねの神様の祠を指差した。
「ええっ? うそやん、それ、きつねの神様の家やし。おまえ、きつねの神様なん?」
「違う」
「じゃあ、なんやねん!」
「きつねの神様の娘」
りさがそう答えると、真琴と弘は、また顔を見合わせた。
「祟じゃ~! きつねの神様の祟じゃ~!」
二人は両手を上げて走りまわり、境内を一周してからりさの前に戻って来た。
「あほっ! そんなわけあるか!」
真琴がズボンのポケットからビー玉を一個取り出してりさにひょいと投げると、りさはビー玉を両手で受け取って不思議そうに眺めた。
「何これ?」
「ビー玉やん」
「ビー玉?」
「知らんのかいな」
「知らない」
「ほな、教えたるわ、りさ、それ使ってええしな」
「りさ、俺も一個貸したるわ」
弘もズボンのポケットからビー玉を一個取り出してりさに渡した。
「りさ、こっちやしな」
「こっち、こっち」
二人が手招きをしてりさを呼ぶ。
「私、ほんとに、きつねの神様の娘なんだけど……まあいいか、どうせ暇だし」
りさは二人にもらったビー玉を見つめて呟くと、両手をぎゅっと握りしめて賽銭箱から飛び降りた。
「この線からな、ビー玉を投げるねん」
「何処に?」
「そこに、穴が三つあるやろ」
「うん」
「まず、あの奥の穴にビー玉を入れるねん」
「ふーん、そうなの」
りさが穴をめがけてひょいとビー玉を放り投げると、ビー玉は一発で奥の穴に入った。
「えっ?」
真琴と弘がまた顔を見合わせる。
「祟じゃ~! きつねの神様の祟じゃ~!」
「きゃ~! 祟よ~! きつねの神様の祟よ~!」
二人が両手を上げてまた境内を走り始めると、りさも両手を上げて二人を追いかけた。
「なんでお前が一緒に走るねん!」
「さあ?」
真琴が振り返ると、りさは首を傾げて立ち止まった。
「おまえビー玉上手やな、一発で穴に入ったやん、きつねの魔力か?」
「そんな力は持ってないわよ」
「なんや、偶然かいな、しょうもな」
真琴と弘が元の位置に戻ってビー玉を放り投げる。
「あちゃ、あかん、入らんわ」
「俺もや」
「ほな、りさが一番やしな」
「次は、どうするの?」
「次はな、こうやってビー玉を弾いて、二番目の穴に入れるねん」
「うんうん」
「俺か弘のビー玉に当ててもええしな」
「そうしたら?」
「二番目の穴に進めるんや」
「ふーん」
「ほんでな、最後に奥の穴に戻って来たら殺し屋になれるねん」
「殺し屋って?」
「殺し屋に当てられたビー玉は死ぬねん。ほんでな、殺し屋はそのビー玉をもらえるねん」
「へえー、面白そうね」
「最後に生き残ったビー玉の持主が勝つんや、真剣勝負やしな」
「分かったわ、こうね」
りさはルールを理解すると、いきなりビー玉を弾いて、真琴のビー玉にぶつけた。すると、真琴のビー玉は神社の南の端まで吹っ飛んだ。
「きぇ~!」
真琴が奇声を上げて自分のビー玉を追いかけると、りさは「お先に失礼!」と声を掛け、次の穴をめがけてビー玉を弾いた。
「お主、なかなかやるのう」
弘がりさの腕前を褒める。
「次、あんたの番よ」
「よっしゃ、りさ、負けへんぞ」
りさが弘を指差すと、弘は最初の穴にビー玉を入れて、りさの後を追いかけた。