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最終章 きつねの神様ふたたび

 ――日は暮れて。

 真琴の父はきつねの神様の賽銭箱に腰を掛けて十円玉を見つめた。

「真琴、この神社の伝説を知ってるか」

「伝説?」

「この神社は四年に一回お祭りがあるんや」

「うん、知ってるし、きつね明神祭やろ」

「そうや、田舎の小さな、お祭りやけどな」

「うん、ほんで、ほんで?」 

「きつね明神祭は三十六年に一回だけ特別なお祭りがあるんや」

「えっ? お父ちゃん、そのお祭り、俺、まだ知らへんし」

「今年がそのお祭りの年や」

「へぇー、俺、知らんかったわ、弘、知ってたけ?」

「俺は婆ちゃんに聞いたさかい知ってるで、きつね大明神祭や」

「そうなん、きつね大明神祭なん」

「お父さん、私も、きつね大明神祭は、まだ見たことないわ」

「きつね大明神祭は三十六年に一回やさかい、まあ、運が良ければ人生で二回以上見られるわ」

「俺、六歳やし、もう一回見られるな、お父ちゃん」

「そやな、真琴と弘君は四二歳の時にもう一回見られるかな」

「真琴のお姉ちゃんは、四十六歳や」

「弘君、頭ええやん」

 真琴の姉が弘の頭を撫でて微笑む。

「伝説ではきつね大明神祭が行われる日の三十六日前に、きつねの神様の童が祠の外に出て来て遊ぶそうや」

「きつねの神様の童?」

「真琴と弘君はきつねの神様の童と遊んだんや」

「あっ、そうか!」

「そうや、真琴! りさやん! りさはきつねの神様の童や!」

 真琴と弘が嬉しそうに両手を上げて境内を走り回る。

 真琴の父は微笑んで二人の姿を見つめた。

「お父さん、きつねの神様の童って本当にいたんやね」

「ああ、お前も運が良かったな、二人のお陰できつねの神様の童が見られたしな」

「祠から女の子が出て来た時、私もほんまにびっくりしたわ」

 嬉しそうにはしゃぐ二人の姿を見て真琴の姉も微笑んだ。

「きつねの神様の童を見た者には子孫の繁栄が約束される。たとえ貧乏でもな、子宝には恵まれるそうや」

「へぇーそうなの」

「実は俺もな、子供の頃、真琴みたいに童と遊んだんや」

「えっ、お父さんも?」

「そうや、今は大人になったさかい、もう見えへんけどな」

「そうなんや、じゃあ、お父さん、私、晩婚で子供を産むわ!」

「何でや?」

「きつね大明神祭の時、子供をここに連れて来るし!」

「お前はまだ小学生やのに、四十六歳になった時のことを考えているんか」

「四十六歳になったら真琴みたいに自分の子供をきつねの神様の童と遊ばせるしな」

「あはは、そうか、それはええこっちゃ、運が良かったら会えるやろ」

 真琴の父は真剣に話す長女の顔を見て楽しそうに笑った。

「ほな、みんな、竜の神様と山の神様に、お祈りして帰ろか」

 竜の神様と山の神様の祠にお祈りを済ませると、みんなは神社の鳥居をくぐった。

 真琴が気になって、もう一度、きつねの神様の祠を見る。

「あっ、りさや! ほら、弘!」

 みんなが真琴の声を聞いて振り返る。

「真琴! りさのお母ちゃんもおるやん! 竜の神様と山の神様もおるし!」

 祠の前で神様達が手を振って見送っている姿が真琴と弘には見えた。

「りさ! バイバイ! また会おうな!」

 二人がきつねの神様の祠に向かって大きく手を振ると、神様達は祠の中にすーっと消えて行った。


 ――三十六年後。

 神社の木立の間から春の柔らかな日差しが漏れ、神依木の上から百舌鳥のさえずりが聞こえる。

「りさ、久し振りやな、元気か?」

 真琴はきつねの神様の賽銭箱に千円札一枚と十円玉三枚を投げ入れると、祠の前で両手を合わせてきつねの神様を拝んだ。

 真琴の後ろには真琴の息子達と親戚の子供達がいて、みんな無邪気にはしゃいで神社の境内を走り回っている。

「ひろ、これあげるわ」

「何これ?」

「ビー玉やん」

「ビー玉?」

「知らんのかいな」

「知らない」

「ほな、教えたるわ、ひろ、それ使ってええしな」

 真琴が振り返ると、息子達が境内の向こう側で遊んでいる姿が見えた。

「おーい、みんな、お参りしーや」

 真琴が右手を上げてみんなを呼ぶ。

「お父ちゃん、ちょっと待ってや、今、遊んでるしな」

「誰と遊んでるんや?」

「ひろちゃんや!」

「ひろちゃん? 何処の子や?」

「知らん」

 しばらくすると、真琴の息子が息を切らしてこちらに走って来た。

「お父ちゃん! ほらっ! ひろちゃんにお金もらったで!」

 真琴の息子が右手を出して嬉しそうに十円玉を見せると、真琴は「その十円玉な、何銀行って書いてある?」と息子に尋ねた。

「えっ?」

 真琴の息子が掌に顔を近づけて十円玉に刻んである文字を読む。

「あっ! お父ちゃん! これ、きつね銀行って書いてあるわ!」

「あはは、そうか、そうか、やっぱり、きつね銀行か」

 真琴は息子の顔を見つめて楽しそうに笑った。

 ああ、やっと書けました。

 童話か喜劇か怪しいところですが、神様が出てくるのでこの小説は童話にしておきましょう。このお話に出てくるビー玉遊びは自分が子供の頃に夢中になってやった遊びです。実際に神社でやっていました。そしてビー玉の遊び場所にはきつねの神様の祠がほんとうにありました。テレビゲームで育った今の子供達はこんな遊びはしないのかもしれませんね。

 それではまたいつかお会いしましょう。

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