第十一章 攻防戦
真琴は立ち上がって、りさのビー玉が入っている奥の穴を眺めた。
(ちょっと遠いし、奥の穴に入れるのは無理や、背水の陣作戦でりさに近づくか)
真琴がビー玉を弾くと、ビー玉は線上をギリギリに転がって、りさのビー玉から少し離れたところで止まった。
「次、りさの番やし」
「よし、私の番ね」
りさがビー玉を穴から取り出して、真琴のビー玉と反対方向の線上にビー玉を弾く。
「りさ、固いな」
「あたり前じゃん、真琴のビー玉を狙って外したら線を越えてアウトだからね」
二人は互いの線上にビー玉を転がして相手に近寄らなかった。
――じりじりと時間が過ぎていく。
「山の神様、こりゃ勝負がつきませんな」
「我慢くらべは、先に仕掛けた方がたぶん負けじゃ」
「そうですな、相手のビー玉を狙って外せば、確実に線を越えてアウトですからな」
「まあ、それでも一発で当てれば話は別じゃがな」
竜の神様と山の神様は、髭を撫でながら二人の攻防戦を見守った。
(まいったな……りさもこっちに近寄ってこうへんやん)
「よし、りさ、ほな、こっちから行くぞ」
真琴が最初の勝負に出る。
「あっ、真琴が勝負に出たし」
弘がそう言うと、山の神様と竜の神様は身を乗り出した。
真琴がビー玉をりさの方に弾くと、ビー玉はゆっくりと転がって、りさのビー玉からある程度の距離を保って止まった。ビー玉を当てるには微妙な距離だ。
「来たわね、行くわよ」
りさがビー玉を弾くと、ビー玉は真琴のビー玉の横をスレスレで通り抜けて行った。
「おっと、危ねぇ! 超危ねぇ!」
真琴が胸の前で拳を握る。
「真琴、セーフ!」
「セーフ! わしの三十円セーフ!」
弘が審判員の真似をして両手を広げると、山の神様も弘の真似をして両手を広げた。
――りさのビー玉も真琴のビー玉からある程度の距離を保って止まった。ビー玉を当てるには微妙な距離だ。
(行けるか?)
真琴はりさのビー玉を狙ってビー玉を弾きかけたが途中で止めた。そして、ビー玉を地面に置くと、足の歩数でビー玉の距離を測った。
(三歩半……ちょい足らへんな……)
真琴はビー玉が当たる距離を知っている。三歩なら九十九パーセント当てる自信があった。
(三歩半……三歩半……)
真琴が判断に迷う。
「よし! 勝負!」
真琴はビー玉を握り直して、リさのビー玉に狙いを定めると、深く息を吐いてからビー玉を弾いた。
「行け! よっしゃー! ラインに乗った!」
ビー玉は一直線に転がり、りさのビー玉にぐんぐんと近づいて、後一歩のところに迫ったが、突然、カサッと妙な音がして急に向きを変えた。
「あれっ? わちゃ!」
真琴が両手で頭を抱える。
さっき足の歩数で距離を測ったので、地面の砂が僅かに盛り上がっていた様だ。
ビー玉はりさのビー玉の近くで止まった。
「やった! 私の勝ちね!」
りさは両手の拳を握りしめて大喜びすると、ビー玉を拾って真琴のビー玉にカチッとぶつけた。
「よっしゃ! りさの勝利じゃあ!」
竜の神様が嬉しそうにパチパチと手を叩いて喜ぶ。
「あかん、わ、わしの三十円が……」
「アウト! 山の爺さんの三十円アウト!」
弘が審判員の真似をして右手を高く上げると、山の神様はガクッと肩を落とした。