第一章 きつねの神様
拝啓 千葉文琴です。
私は子供の頃、田舎の小さな神社で近所の友達と日が暮れるまで毎日遊んでいました。ビー玉、メンコ、コマ、かくれんぼ、鬼ごっこ等、とても懐かしい思い出がいっぱいあります。その中でもビー玉が大好きだったので、ビー玉遊びの小説を書いてみました。まあ、ヘタレな小説ですが何とか完結出来ましたので読んでみてやって下さい。よろしくお願い致します。
敬具
縦書き表示での読書をお勧め致します。
――とある田舎の小さな神社。
「きつねの神様、今日はガムあげるし、後で返してな」
真琴は神社の奧に祀られたきつねの神様に挨拶をすると、ズボンのポケットからガムを一枚取り出して賽銭箱の上にそっと置いた。
「弘、ビー玉遊びやろか」
「うん、やろうやろう」
真琴と弘がしゃがんで地面に小さな穴を掘り始める。
二人は三つの穴を掘り終えると、互いに右手の拳を握った。
「じゃんけんほい! あいこでしょ!」
二人が同時に声を上げる。
「あちゃ、負けた。弘が先や!」
「よっしゃ、真琴、今日は負けへんからな! 昨日の敵討ちじゃ!」
「あほ、弘、返り討ちにしたるわい!」
弘が右手の拳を突き上げると、真琴も負けじと弘の顔の前に右手の拳を突き出した。
二人のビー玉遊びはいつも真剣勝負。弘は手堅く地道な戦法で、真琴は一攫千金を狙う戦法だ。勝率は弘の方がちょい上だが、真琴が調子に乗った時の爆発力は凄かった。
二人は掘った穴から遠ざかると、足で地面に線を引いてその線上に並んだ。
「よし、行くぞ! それっ!」
まず、弘が奥の穴をめがけてビー玉を放り投げると、ビー玉は穴の淵でくるりと回って、神社の木の根元に止まった。
「あちゃ、外したか! ほな、次は真琴やし」
「よし、見とけよ、弘、一発で穴に入れるしな! おりゃ!」
「あれっ? 真琴、何処に投げてんねん?」
真琴がビー玉を放り投げると、ビー玉は参道の敷石の上を飛び跳ねて灯篭に当たり、向きを変えて穴の方へ一直線に転がった。そして穴の淵に直撃して大きく跳ね上がると、弘のビー玉の少し奧に止まった。
「わちゃ! やばい! 弘の餌食やん、最悪やし!」
真琴が顔をしかめて両手で頭を抱える。
「よっしゃ! チャーンス! 頂きやしな、真琴、宇宙の端まで飛んで行け!」
弘がビー玉を弾くと、真琴のビー玉は神社の北の端まで吹っ飛んだ。
「わちゃ!」
真琴が両手を上げてビー玉を追いかけると、弘は「お先に失礼!」と声を掛け、次の穴をめがけてビー玉を弾いた。
――神社の北の端には山の神様が祀られている。
「はい、山の神様もガムあげるしな、後で返してや!」
真琴はズボンのポケットからまたガムを一枚取り出して、賽銭箱の上にそっと置いた。そして祠に手を合わせてからビー玉を拾った。
「山の神様パワー!」
真琴が勢いよくビー玉を弾くと、ビー玉は縁石に当たり、向きを変えて穴の方へ一直線に転がった。
「よっしゃー!」
ビー玉が見事に穴に入って、真琴が右手の拳を握りしめる。
「うわっ、ようそんな所から入れるな、真琴、天才やん!」
「あったり前やん」
弘が真琴を褒め称えると、真琴は得意げに右手の拳を高く突き上げた。
「ガム食べよっと」
真琴が神社の境内を横切ってきつねの神様の祠に向かうと、見かけない女の子が賽銭箱の上に座っていた。女の子は口をもぐもぐしながら真琴の顔を見ている。賽銭箱の上を見ると、さっき置いたガムが無くなっていた。
「わちゃ、きつねの神様のガム食べたん? おまえ、誰?」
「りさ」
「りさ、それ俺のやしな、返してや」
「無理」
りさが愛想なく真琴に答える。
「真琴、誰や、その子?」
弘も祠の前にやって来た。
「りさや」
「おまえの友達か?」
「違う、知らん子や」
二人は顔を見合わせると、同時に振り向いてりさの顔を見つめた。