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おじさん

作者: 優歌

出版社に勤める、ある若い男性は、

毎朝、駅前にあるコンビニの 

雑誌スペースで新聞を選んでから 

会社に行っていた。


ここ一週間、いつも気になるのが、 

雑誌を立ち読みしてる 

グレーのロングコートと帽子をかぶった 

50歳前後のおじさん。 


同じページばかりをずっと眺めて、

ただ立ち読みしてるおじさん。

帽子のせいで、顔の表情はわからない。 


コンビニのお客さんが少ないせいか、 

そのおじさんがやたら目立つ。 




二週間前、 

おじさんの落とした定期入れを 

拾って届けてあげたら、 

「どうもありがとう」って 

何度も深々と頭を下げられた。 

涙を浮かべて微笑む顔が 

印象に残ってる。

 

でもその日以来、話はしていないし、 

その一週間後からは 

ずっと立ち読みばかりしている。 






ある日そのコンビニで同期と会って、 

他愛もない話をしていただけなのに、 


「うるさいぞお前ら!!!!」 


って怒鳴られた。 

同期は「そんなに騒いでないのに」 

ってむくれていたけれど、 

若い男性はコンビニを出るときに 

「すみませんでした」

とおじさんに声をかけた。 


おじさんの表情はわからなかった。 






その次の日、コンビニに行くと 

またあのおじさんがいた。 

「昨日はすみませんでした。」 

って声をかけても反応なし。 


まだ怒ってるのかなと思って、 

それ以上はなにも言わないで 

コンビニを出ようとしたら、 


「昨日は怒鳴って悪かった。」 


って声が聞こえた。 


「ちょっとイライラしていてね、 

元気に生きている君が 

うらやましかったんだよ」 


と おじさんが言った。 

こっちを見て話してくれているけれど 

帽子で顔の表情がわからない。 


でも、なんとなく 

優しい雰囲気がした。 



「怒ることができるってことは 

元気に生きているって 

ことだと思いますよ」 


今までそんなことを

言われたことがなかったので、

そんな言葉しかかけることができなかった。 


すると、おじさんは 

男性の横をすっと通って 

コンビニを出ていった。 


すれ違いざまに、 

おじさんが最初に会った日と 

同じ顔で微笑んでいたのは 

気のせいだったのだろうか。 



それ以来、 

そのおじさんを見かけなくなった。 








それから一週間後、 

有名な小説家の葬式があった。 

元々会社員だった人で、

顔出しを全くしないことで 

有名な小説家だったそうだ。 


ご焼香のときに、 

どんな顔だったんだろうと思って 

遺影を見たら、 


いつもコンビニで会うおじさんだった。 





葬式の後片付けのとき 

男手が足りなさそうだったので 

手伝っていたら、 

奥さんがこんな話をしてくれた。 




普段あまり外出しないおじさんが 

たまたま電車を利用した日、 

大切な写真を入れた定期入れを 

落としてしまった。 


定期券を買うほど電車には乗らないが、

会社勤めをしていた頃から

その定期入れには大切な写真を入れていて、

毎日それを持ち歩いていたそうだ。



駅を出たところで

定期入れを失くしたことに気づき、

来た道を戻って探しに行こうとしていた時、

若い男性がその定期入れを拾って、

わざわざ走って追いかけて

届けてくれたのだ。 


その定期入れに入れていた写真とは、 

亡くなった息子さんとの写真。 


もし生きていたら、 

定期入れを拾ってくれた男性と 

同じくらいの年齢になっていて、 

その拾ってくれた男性はどこか

息子さんの面影があったそうだ。 


おじさんはその日の夜、 

脳卒中で倒れ、入院し、 

意識不明の状態が続き、 

入院してから二週間後に亡くなった。 



男性がコンビニでおじさんを見た 

最後の日と同じ日のことだった。 





葬式の帰りに 

いつもおじさんがいたコンビニに 

寄ってみた。 

おじさんはいつも 

何の記事を読んでいたんだろう。 


おじさんがいつも読んでいた雑誌を 

手にとってページをめくってみると 

「有名小説家、脳卒中により危篤」 

という記事があった。 



そのページが目に入ったとき、

おじさんに最後に会った日の

あの一言がふっと蘇った。


「ちょっとイライラしていてね、 

元気に生きている君が 

うらやましかったんだよ」 


おじさんは…

どんな気持ちで、

このページを見ていたのだろうか…

初投稿です(・・;)


なんとなく心に残ってくれたら

嬉しく思います。

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