第二話 魔術同好会会議
「で、薫会長」
「なんだ、蜜柑?」
「魔術同好会って一体何をするんですか? 私はまだこの同好会に入って短いからよく分からないんですけど……」
そういえば彼女が入ってからやったことといえば、今のこの教室を掃除することくらいしかしていない。つまり、活動に関しては彼女は何も知らないということだ。それはまずい。
俺達の活動は世界の平和のためで、目下の目標は学園の平和――そのために生徒会を倒すことだ。
それに彼女には魔術と言うものが良く分かっていないかもしれない。魔術についての説明もするべきだろう。
「ふぅ……そうだな。今日の会議は魔術についての簡単なおさらいでもしておくか」
「そ、そうだね……。蜜柑ちゃんもいるわけだし、そのほうが良いかもしれないね……」
「いいですわよ」
「…………そう……」
「ふぇ!? あ、ありがとうございまふ……」
皆が同意してくれた所で、今年度最初の魔術会議が始まる。
「まず、魔術を使用するには簡単に言って三つの要素がある。魔力、技術、それと一言だ」
「一言ってなんですか……?」
「うん、一言っていうのはね、ゲームとかでいえば詠唱っていうのに良く似ているものだよ」
「へぇ~そうなんですか……。じゃあ、魔力と技術と言うのは……?」
「私が説明して差し上げますわ」
「……魔力とはその者が持つ魔法的な力を数値化したもの。…………技術とはその者が扱える魔術レベルのこと……」
「ちょ、恵理菜!? 私が説明して差し上げると言ったのに何故貴方が説明するんですの!?」
「……似非風紀委員は黙っていればいい…………」
「ムキィー!! 私は風紀委員ではありませんわ!! 大体、魔術を超能力と同一視する事が―――」
気がつけば何故か弓と恵理菜が言い争っている。いや、的確に言えば飄々と返す恵理菜に弓が食って掛かっている構図だが。
俺は小さくため息を吐きながら説明を再開した。
「まぁ、つまりは魔術を操る際の体力の様な物《魔力》、魔術を操る特別な技術力《技術》、魔術を発動するための言葉《一言》の三つが必要になるって事だ。分かったな?」
「え、えぇ、なんとなくは分かったんですけど……。ところで、魔術と魔法って単語があると思うんですけど、一緒なんですか?」
「少しだけ違う…………って、お前ら!! いい加減言い争うのはやめてこっちに戻って来い!!」
「はっ!! ちょっとだけイラついて暴言を吐きまくってましたわ」
確かにお嬢様っぽくない言葉を言いまくっていたが。
「……カッとなってやった。……反省はしていない……」
「何でそんなにふてぶてしいんだよ!!」
恵理菜も少しは反省してもらいたい。
「はぁ……まぁ、いい。弓、彼女に魔術と魔法の話しをしてやれ」
「分かりましたわ……。良いですこと? 魔法と言うのはいわば魔術の中のひとつです。魔術の中の自然物に作用するもの全てを私達は魔法と呼んでいますわ。逆に魔術とは、魔法や呪術、仙術などの総称と思ってくださって結構ですわ」
「え、じゃあ魔法とか呪術とか仙術って殆ど同じようなもの……ってことなんですか?」
「そうなるな」
広義とは少しだけ違うが、俺達にとっての魔術とはそんな感じだ。
「特に魔術の中で何が得意なのかで意見の相違などが生まれる場合もある。ちなみに俺は魔法が得意だ」
「僕は仙術だね」
「私も魔法ですわ」
「……呪術が得意……」
「ふぇ~、じゃ、じゃあ、私は一体何が得意なんでしょうか……?」
「それは俺にもわからないな……。その辺はその内分かるだろう。今回は簡単に魔法の説明もしておくか」
「じゃあ、僕と恵理菜さんの出番は殆ど無いってことね」
「そういうことになるかも知れんな。すまん」
「い、いいよ、気にしないで」
「…………本読んでる…………」
恵理菜は先ほど呼んでいた本を読み始めてしまった。裕也のほうはこちらをジッと見ているような位置で観察しているようだ。
俺は弓と2人で蜜柑に魔法と言うものの説明を始める。
「まず魔法にはそれぞれ得意な物が存在する。コレが形状と属性だ」
「あの、薫? その説明では普通に考えて分からないと思うのですが……?」
確かに蜜柑は頭に大きなハテナマークを浮かべていた。
「言葉を端折りすぎたか? では少しだけ言いなおそう。まず魔法と言うのは形状と属性でさまざまな種類があり、その数は万を超えるとも言われている。しかし、俺達が使えるのはそんな万を超える種類の中の数種類程度なんだ。ソレが得意形状と属性だ」
「例えば私は形状が"壁"で属性が"風"ですわ。この壁と言う形状は攻撃よりも防御に向いた形状で、風と言う属性は形状を相手に視認されにくいという特徴を持っているのですわ」
「弓が"壁"で"風"なのに対し、俺は形状が"剣"で属性が"雷"だ。まぁ、大体の意味は分かったろう?」
「な、なんとなくかな……」
「この万とある形状、属性の組み合わせの中で一番得意な物をその人間の形状、属性としている。まぁ、そこから派生して少しだけなら別の形状や属性の魔法を扱うことも出来るが、やはり得意な形状と属性の魔法が一番楽だ」
「へぇ~~そうなんですか……」
「…………あまり気の無い返事だな……」
「いえ、だってそんなファンタジーチックな事いわれても、魔法があるだなんて信じられませんよ」
そりゃそうだ。
「つまり、見てみないことには魔法のすばらしさが分からないと……いいだろう、弓、協力してくれ」
「分かりましたわ」
「今から俺が弓に向かって攻撃的魔法を放つから、それを良く見ておくように」
「わ、分かりました!!」
俺は弓から少し距離をとって構えを取る。右手を相手に向け、左手で右腕を掴む……魔法を知らないものから見れば「なにこの中二病」と言いたくなるようなポーズだが、仕方ない。
ゆっくりと息を吐いて、弓が小さく頷くのを確認して一言を呟く。
「雷の剣よ、破砕せよ!」
「壁よ、阻め」
同時に弓も一言を紡いで魔法を発動させた。
「ッ―――!!」
俺の一言によって発動した雷の剣は鋭い光のような一閃となり、弓の体を貫くように真っ直ぐと飛んでゆく。
バチィリ!!と大きな音を立て、弓に当たったかのように見えた雷の剣は次の瞬間には強い光を放って霧散。やはり簡単には破れないか……。
「え? えぇぇぇ!? な、なんですか今の!? 何か手からバビューン!!ってで、バチィリ!!って、えぇぇぇぇぇ!?」
「……さすが弓だな……俺の剣を簡単に塞ぎやがって……」
「壁は元々守るのに適した形状ですもの。そう簡単に貫かれては困りますわ」
「だが、俺の剣の形状だって斬る事や貫く事には適している。それをそんな簡単に……少し落ち込むぞ……」
「い、いや、皆さんなんでそんなに落ち着いて……えぇぇ!? こんな現代に魔法だなんて……!!!」
「蜜柑、お前は今更何を驚いているんだ? 魔術同好会なんだから、魔法のひとつやふたつあってもおかしくは無いだろ?」
「実際はもっと多いですけどね」
「だ、だって、魔術同好会って聞いたから、もっと毒々しい感じなのかなぁと……悪魔崇拝をしたり……」
「あぁ、サバトは去年やった。生徒会が邪魔しなければ完璧だったはずだ」
「…………あのサバトは元から不完全…………」
「なに、恵理菜。それは本当か?」
「…………印が少しズレてたし、生贄が少なかった……」
「生贄って、えぇぇぇ!!!??」
「今日の蜜柑はよほど驚くことが好きなんだな。一か月分くらい驚いたんじゃないのか?」
「そ、そうかもしれません……」
コレが一般人と魔術を使う魔術師の相違と言った所か。難しい話だ。
「じゃあ、これで魔法の使い方とか、魔法の存在とかいろいろ分かったな?」
「いえ、何かもう逆に訳が分からないです」
「そうか……今日はこれ以上教えるのは無理かも知れんな……では、勉強はこのぐらいにして、あとは遊びの時間としよう」
「遊び……?」
「薫君、遊ぶの? だったら、僕と―――」
「裕也、やらないか?」
「えっ? ちょ、か、薫君!? 顔近い――!!」
「あわわわわっ!! 薫会長と双葉先輩って、そ、そ、そういう関係だったんだ……なんか、BLゲーみたいです……。やっぱり薫会長が攻めで、双葉先輩が受けなんでしょうか……いえ、あえて逆と言うのも……」
「ちょっと、蜜柑!? あなた何を考えているのかしら?」
「…………桃色なコトだと思われる…………」
「そ、そんな事考えてません!! ほ、本当ですよ!?」
「ちょ、いい加減にしてよ!! 薫君!!」
「なんだい? そんなに俺に抱かれるのは嫌か……?」
「だ、だって、皆が見てるし…………」
「なら保健室に行こう。あそこならベッドがあるし、この時間は誰も来ないはずだから、保険医さえ追い払えば……」
「う、うわぁぁああ!! ちょ、弓さん、恵理菜さん、蜜柑ちゃん!! 誰でも良いから助けてよ!!」
この至福の時間を誰にも邪魔はさせない。男ならまだしも、女に邪魔などさせるものか!!
俺は他のメンバー達に睨みを利かせながらゆっくりと裕也に近づく。
「あわぁああ!! り、リアルでBLが見れるなんて、す、すごいです……!!」
「はぁぁぁ。ちょっと薫!! あまり男ばかりに目を向けていると、大人になった時にお嫁さんがいなくなるのではなくて?」
「ふふん。ならば裕也が女装して性別を女にしてくれれば問題あるまい。そうすれば俺達は晴れて結婚できるぞ……? なぁ、裕也?」
フゥゥっと裕也の耳に息を吹きかける。
「ぁう、ちょ、か、薫君――そ、それ以上やると……」
「…………それ以上やると規制がかかる…………」
「ぐはっ!?」
コレからが本番だというのに、そんな俺と裕也の絡みを強制終了させる女が一人。
……ハリセンって思いっきり叩かれると意外と痛いんだな……。
「くっ、え、恵理菜……貴様、俺と裕也の至福の時間を邪魔するというのか……!!」
「ぼ、僕にとっては全然至福じゃないんだけど……」
「…………そういうサービスシーンは……別の機会にすれば良い…………」
「別の機会だと……? ふん、いつまでもチャンスが来るとは限らんだろう? だから、出来る時にヤるのが基本だ」
「だから今はその出来る時じゃなかったと僕は思うよ」
うるさい、裕也の意見なんて俺は聞いちゃいない。
「…………今はまだ物語の序盤……あまりやるといろんな人に引かれる…………」
「またそういうメタ発言をしやがって。そういうのはもうちょっとネタ的な部分でやれ。禁書○録だとか、シ○ナだとか、とら○ラ!とか」
「なんで全部電撃……」
「俺の魔法属性が雷だからだ」
「絶対に関係ないと思うよ」
まぁ、俺も絶対に関係ないとは思うが。
それよりも、さっきから俺達のほうを見て「あわあわ」言ってた蜜柑が大人しいんだが……。
「ちょっと蜜柑!? 大丈夫ですの!?」
「あはは~~~ぜ、全然だいじょうぶれふよ~~?」
「鼻血を出して、嬉しそうな顔して倒れている人間の言葉とは思えないセリフですわね!!」
「べ、別にあの程度のBLで興奮だなんて……げふっ」
「ちょっ!? え、衛生兵、衛生兵!!!」
「…………免疫が無かったみたい…………」
「あはは……とりあえず薫君、蜜柑ちゃんが慣れるまでは僕に構う事はしない方が――」
「絶対に嫌だ」
「ですよねー」
去年は俺と裕也と弓と恵理菜の四人でこの同好会を行っていた。
それはあまりにも少ない人数ではあるものの、それでもココが安らぎの場所だと思っていた四人だった。
でも、そんな同好会にも新たな仲間が入る。それが、五街道 蜜柑。
正直言えば何でこんな普通の子がこの同好会に入ったのか最初は分からなかった。しかし…………
「うぅぅぅ……な、なんか鼻に詰め物って女の子がやってると全然可愛さも何も無いですよね……」
「…………男がやっても最悪…………」
「"も"って事は今の私は最悪ってことですか!?」
「「「「………………」」」」
「何で誰も否定してくれないんですか!?」
はぐれ者な俺達にこんなにも接してくれる彼女は、もう完全に、俺達の一員といえる。
この五人が今年の魔術同好会。
これからがすごく楽しみだ……。
「ん? 薫君? なんかすごい悪者っぽい笑みを浮かべてるけど……?」
「いや、これから裕也をどう攻略しようか悩んでてな……」
「それを本人に言うって言うのは、多分攻略難易度を急上昇させてしまうと思うよ?」
ごもっとも。