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俺の弟子が俺の彼女を寝取った挙句、俺の尊厳破壊してくるんですが……?復讐するけど大丈夫?〜黒蝕を纏いし英雄は復讐の果てに何を見る〜  作者: アルファベータ
第二章

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第12話 お転婆娘の護衛兼指導任務


 王都の一角、広大な敷地を誇る貴族街。その中でも一際異彩を放つ豪奢な邸宅――グランヴェル公爵邸。


「――ですからレオン様! ルイザミーネ様と対面される際は、どうか身の回りの貴重品……特に小銭入れや細工物には細心の注意を払ってください!」


 屋敷の豪華な廊下を歩きながら、シルフィアが青ざめた顔で何度もレオンに注意を促していた。


「何をそんなに怯えているのよ。相手はただの世間知らずな子供でしょう?」


 レオンの隣をフワフワと浮遊しながら、シェラが退屈そうに欠伸を噛み殺す。


「世間知らず……だけなら、どれほど良かったことか」


 シルフィアは胃を押さえながら声を低くした。


「ルイザミーネ様は幼少期より『裏街の義賊』に強い影響を受け、独自の素早さと隠密術を極めてしまわれたのです! 公爵家も家庭教師を何人もつけましたが、気付けば全員、財布や時計をスられて音を上げて逃げ出しました……!」


「……なるほどな」


 レオンは短く答えた。


 他人の功績や地位を盗むシディスのような不快な盗人とは違うが、手に負えないお転婆娘であることには変わりなさそうだ。 


 重厚な意匠が施された応接室の扉の前に到着すると、老執事が静かに頭を下げ、扉を開き放った。


「ルイザミーネ様。シルフィア副団長と、ご依頼の冒険者様方がお見えになりました」


 応接室の中央、高級な革張りソファにドカリと行儀悪く座っていたのは、眩いばかりの栗色の髪をショートボブに切りそろえた少女だった。


 快活な碧眼に、動きやすさを重視した冒険者風の革鎧。公爵令嬢としての品格など微塵も感じさせない、まるで野山を駆け巡る少年のようなはつらつとした美少女――それが、ルイザミーネ・フォン・グランヴェルだった。


「やあ、シルフィア! 今日も一段と堅苦しい鎧を着てるわね!」


 ルイザミーネはニカッと八重歯を見せて笑うと、ソファから跳ね起き、じろじろとレオンとシェラを品定めで見るように見つめた。


「ふーん……? お父様が『最高の護衛兼家庭教師』を雇ったって言うから期待してたけど……なんか暗い黒ローブの男と、銀髪のちびっ子じゃない。ホントに強いの?」


「ルイザミーネ様! 無礼です!」


 シルフィアが慌てて制そうとする。しかし、ルイザミーネは気にした風もなく、親しげな笑みを浮かべながらレオンへと歩み寄ってきた。


「まあいいや! あたしはルイザミーネ! ねえ、お兄さん、冒険者ってどんな感じなの? やっぱりドラゴンとかバッサバッサ切ったりするわけ!?」


 ルイザミーネはペラペラと喋りながら、レオンの肩をポンポンと叩き、すれ違いざまに身体を軽く滑らせた。


 その動作は、実に見事だった。


 会話で意識を上に向けさせつつ、視界の死角から滑らかな指先をレオンの腰元の革袋へと忍ばせる。まさに神速、一流の刺客すら顔負けの鮮やかなスリの手技。


(もらった……! この黒ローブのお兄さんの革袋、結構ずっしり重いじゃない! 中身はレアな魔導具かな――)


 ルイザミーネが心の中で勝利を確信し、ニヤリと笑った次の瞬間。 


 バシッ!


「っ……!?」


鋭い痛みが、ルイザミーネの手首に走った。


「な……っ!?」


 ルイザミーネが驚愕して手元を見ると、自分の手首は、レオンの漆黒の魔力を纏った指先によって完璧に固定されていた。


 寸分違わぬ精度。まるでルイザミーネがそこに手を伸ばすことを、最初から知っていたかのような完璧な迎撃。


「……人の腰元に勝手に手を伸さないことだ、お嬢様」


 レオンの冷ややかな眼光が、ルイザミーネを射抜いた。


「な、なによ……! たまたま手が滑って当たっただけじゃない! 手を離しなさいよ!」


 ルイザミーネは顔を赤くして手首を抜こうと暴れた。だが、レオンの手はまるで鋼鉄の万力のように微動だにしない。


「手が滑った、のか。……なら、俺も」


 レオンが左手を差し出す。


 そこにあったのは――いつの間にかルイザミーネのポケットから抜き取られていた、彼女の愛用の『銀の懐中時計』だった。


「えっ……!? あ、あたしの時計……!? いつの間に!?」


 ルイザミーネが慌てて自分のポケットを探ると、確かにあったはずの時計が消えていた。スリを仕掛けた一瞬の隙に、逆に自分の持ち物を完璧にスり返されていたのだ。


「まだ甘いな」


 レオンは冷たく言い放ち、時計をルイザミーネの手に押し返した。


「意識を上に引きつけ、体当たりに見せかけて懐を狙う。裏街の三流スリが使う古典的な手口だ。……命を狙う殺し屋なら、今の一瞬でお前の首は飛んでいる」


「くっ……! 三流って言ったわね……!?」


 ルイザミーネは悔しさにキリキリと歯噛みした。今まで騎士団の護衛たちも、公爵邸の家庭教師たちも、自分のスリの手口に誰一人として気づかなかった。


 それを、この黒ローブの男は完璧に見破り、逆に分からせられたのだ。


「ふふ、残念ね。お転婆娘」


 上空からシェラがクスクスと不機嫌そうに嘲笑う。


「レオンの『気配察知』と魔力感知を舐めないことよ。君みたいな浅はかなスリの手口なんて、止まっている止まり木と同じよ」


「なによそのちびっ! あたしはルイザミーネ・フォン・グランヴェルよ! そこらのスリと一緒にしないでよ!」


「ふ~ん、公爵令嬢の癖にスリに誇りを持ってるんだ。変わったおバカさんね」


「今、おバカって言ったわねぇーっ!?」


 バチバチと火花を散らすルイザミーネとシェラ。


「ま、まあまあ二人とも落ち着いてください……!」


 シルフィアが冷や汗を流しながら仲裁に入る。レオンは二人のやり取りを無視し、部屋の奥で静観していた老執事に視線を向けた。


(ご指名の仕事内容は『ルイザミーネお嬢様の安全の確保』と『無茶な冒険者ごっこの阻止』だったな)


(はい、特別冒険者レオン様)


 本人に聞かれないようにこっそりと耳打ちをする。老執事は感心したように深くお辞儀をした。


「ルイザミーネ様の悪癖をここまで完璧にあしらわれた方は初めてでございます。公爵様も『レオン殿であれば、報酬の古代魔導古文書をお渡しするに相応しい』と仰っておりました」


「よし。なら話は早いな」


 レオンはルイザミーネに向き直った。


「ルイザミーネ。今日から俺がお前の護衛兼指導役だ。……だが、俺は甘くない。お前が無茶な真似をしようとすれば、力尽くで拘束する」


「ふ、ふんだ! たまたま一回成功したくらいで気取らないでよね!」


 ルイザミーネはぷいっと横を向いたが、その碧眼には隠しきれない「興奮と悔しさ」が宿っていた。


(この人……本物だわ! 今まであたしを甘やかしたり、へいこらしてた大人たちとは全然違う……! あたしのスリを破るなんて……やるじゃない)


 実は、ルイザミーネが冒険者に憧れ、手癖を悪くしていた根底には、「公爵家の娘として特別扱いされることへの強い反発」があった。


 誰も自分を本気で叱ってくれない、誰も自分と対等に向き合ってくれない。その退屈な日常を打ち破るために、彼女は暴走していたのだ。


 だからこそ――自分を「お嬢様」として扱わず、一瞬で圧倒してみせたレオンの強さに、ルイザミーネの心は強く惹きつけられつつあった。


「いいわよ! あたしを満足させられるっていうなら、ついて行ってあげるわ!」


ルイザミーネは腰に手を当て、ドヤ顔で言い放った。


「ただーし! あたしが満足しなかったら、その黒いローブ、ズタズタに切り裂いてやるんだからね?」


「元より期待などしていない」


 レオンの冷淡な返しに、ルイザミーネは再び「ぬぬぬ……!」と悔しそうに顔を赤くした。 


 こうして、手癖の悪さに定評のある公爵令嬢ルイザミーネの、新たな護衛任務が始まった。


 しかし――レオンたちの与知らぬところで、王国の外縁部ではヴァルフレイドの指示を受けた配下たちが、不気味な暗躍を本格化させつつあった。



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