4.死神との出会い
父母が亡くなり町にとどまる理由もなくなったことに気づいたのは、一人で暮らすようになって、一年が過ぎたころだった。なぜ、気づかなかったのだろう、と私は苦笑した。
いつまでも年をとらない自分は、同じ場所にいると不審に思われてしまう。
「そろそろ、次の町に行きましょうか」
私はフードを脱ぎ、引っ越しの準備を始めた。
いつしか、私は五年以上同じ町にとどまることは無くなった。
***
町はずれの古びた教会で、暮らしていた時だった。
よく教会に来ていた女性に「夫の病気が治るように祈ってほしい」と懇願された。
私は、病気をこの身に引き受けるつもりで言った。
「あなたのご主人のために、直接祈りをささげたほうが良いでしょう」
「お願いします!」
女性は涙にぬれた目を私に向けた。
私達は女性の家に向かった。
病を引き受けるには、助けたい相手に少しでも体力が残っていなくてはいけない。なぜなら、私は『病や怪我を引き受ける』ことはできても、生きる力を与えることはできないからだ。
男が横たわっていたのは、ありふれた小さな家の寝室だった。
残念ながら、女性のご主人には、もうわずかな体力も残されていないようだった。
「……力が及ばず、申し訳ありません」
私は目を伏せた。
「そんな……。あなた、目を覚まして!」
「パパ!」
家にいた小さな子供がベッドに寝ている父親の手を取る。
病気を引き受けようともう一度手を伸ばしてみたが、男には、もうほとんど反応がなかった。
「お気の毒です……」
私が静かに言うと、女性は絞り出すような声を上げた。
「そんな……」
泣き崩れる女性に、かける言葉も見つからず、私はぼんやりと、ほとんど息絶えた男を眺めていた。
「おお! 間に合ったな」
場違いな、明るい声が部屋に響いた。
何事か、と顔を上げ辺りを見回すと、壁から黒いフード付きのマントをかぶった青年が現れた。フードをかぶっているので目と前髪しか見えないが、切れ長の黒い目には、艶やかな光が宿っている。
「何見てんだよ?」
黒いマントの男が口をとがらせて、ジロリと私を見た。
「失礼。どちら様ですか?」
私が黒いマントの男に話しかけると、泣いていた女性が目を丸くした。
「え? 神父様?」
女性はきょろきょろとあたりを見渡してから、私に言った。
「こんなときに……ふざけてるんですか!? 壁に向かって話しかけるなんて!」
悲痛な女性の叫びをうけ、私は戸惑った。
黒いマントの男が私に近寄ってくる。
「お前、俺が見えるのか? それに声も聞こえてんのか?」
黒いマントの男は楽しそうに笑う。
「どちら様ですか?」
私はささやくような小さな声で、青年に問い掛けた。
「死者のもとに現れるのは死神ってきまってるだろ?」
黒いマントの男は得意げに胸を張って言った。
「はあ、死神ですか」
黒いマントの男にだけ聞こえるくらいの小さな声で、私は間の抜けた返事をした。
「そ。とどめを刺しに来たんだよ」
そう言って、黒いマントの男は手のひらに収まるくらいの黒い宝石をベッドの男にかざした。
黒い宝石が鈍く光る。
ベッドの中の男性から淡いもやのようなものが浮き出て、すうっと黒い宝石に吸い込まれた。
ベッドの男の手が、だらりと下がった。
「あなた!」
「それじゃ、お邪魔しました」
黒いマントの男は、ひょこひょこと歩いて壁の中に消えて行った。




