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不死身の私と死神  作者: 茜カナコ


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3/10

3.行き場のない思い

 結論から言うと、父さんの話は冗談ではなかった。


 年老いて小さくなっていく両親のそばで、いつまでも若いままの私は、他人の目を避けて生きるようになった。他人に会う可能性があるときは、いつもフード付きのマントを見にまとい、顔を隠すようにした。

 言うまでもなく、他人と深くかかわることは避けるように心がけていた。


***


街はずれの教会で、いつも私は神に祈りをささげていた。


ある日、若い女性を連れた信者の中年女性が、教会に入るなり私に駆け寄ってきた。

「神父様、私の娘をお助け下さい!」

「……私にできることであれば、全力を尽くします」


 私には不思議な能力がある。

相手の病気や怪我を自分の身に移すことで、他人を癒すことができるのだ。


 時々、訪れる信者の病をこの身に移し、相手を癒すことで食べ物やお金を手に入れることもあった。しかし、「神父様のおかげで良くなった」と言い、お礼だと言って食事に誘われても、用事があると必ず断るようにしていた。誰かとともに何かを食べるという行為は、私にとって相手と親密になりすぎてしまうものだからだ。


……話がそれてしまった。話を戻し、私の特別な力について考える。


苦しみをこの身に移し、人を癒す力があることに気づいたのは、母さんが元気になって家事をするようになった頃だった。きっかけは、些細な出来事だった。


***


「痛っ」

「大丈夫? 母さん」

 まだ小さい私は、台所に駆け付けた。

「大丈夫。ちょっと指にナイフをひっかけちゃっただけ」

 母さんは笑って首をすくめた。

「見せて?」

 私が母さんの指をそっとなでると、母さんの指から傷が消えた。

「え!? 私、確かに怪我をしたと思ったのだけれど……?」

 不思議そうに指先をながめる母さん。


 突然、私の指先に痛みが走った。小さな傷ができて、血がにじんでいる。

「どうしたの?」

 母さんが私のほうに顔を向けた。

「何でもないよ、母さん。私、用事を思い出しました」

 私は傷ついた指を隠して、母さんのいる台所から逃げ出した。


「……どういうこと?」

 自分の部屋に入り、ドアのかぎをかけてから指の傷を見る。

「母さんの怪我が治って、私が怪我をした……? なんで?」

 痛む指先を見つめ、私は一人で首をひねった。


***

 私が若い女性のために祈ると、胸が苦しくなった。引き換えに、若い女性の顔色に赤みが差し、大きく上下していた肩はその動きが収まった。


「母さん、楽になったの! もう苦しくない!」

 中年女性は目を見開いて、口元を押さえた。泣いているようだ。

「奇跡です! ありがとうございました!」

「……いえ」

 嬉しそうに帰って行く家族を見送ると、私はその場に膝をついた。


 引き受けた病は、息をするだけで死ぬほど苦しい。でも、私が死ぬことは無い。だから、痛みも苦しみも、たいしたことではない、と自分に言い聞かせる。

「体が重いですね……。これではまともに歩けません……」


 這うようにしてたどり着いたベッドにもぐりこみ、ぼんやりと天井を見る。

「喉が渇きました……。でも、今は起き上がれません……」

 諦めて目を瞑る。


 水を飲まなくても、食事をしなくても、死ぬことは無い。ただ、ひたすらだるく、喉が焼けるように痛み、苦しくなるだけだ。もう、いいかげんなれている。

私はあきらめの中、小さくため息をついた。


 少し眠って、体の中の痛みが多少楽になった。

 よろよろと壁伝いに歩き、台所に行き水を飲む。

 乾ききった体が、少し癒された気がする。私は、ふう、と深く息をついた。


***


 数週間寝込んだが、だんだんと体調は回復してきた。

 私は無くなった食料を買うために、街に行くことにした。


 街で買い物をしていると、子どもの声が聞こえてきた。


「悪魔って、人の苦しみがご馳走なんだって。知ってた?」

 男の子が、声を潜めて女の子に言っている。

「え? 何それ?」

 女の子は不快そうに眉をひそめた。

「なんか、うちのじいちゃんが言ってた。悪魔は人の苦しみが大好きだから、苦しんでる人には悪魔が近づくんだって」

「やだあ、怖い」

 子どもたちの話にハッとして、聞き耳を立てた。

「人間の絶望は、悪魔にとって甘美なお菓子のようなもの……」


 古い記憶が少しだけよみがえった。


 そうだ。私は父によって、悪魔に売られていたのだ。


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