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第4話

「それではトーキ様、よろしければまず、トーキ様とトーキ様の種族について、お教えいただけますでしょうか?いや、もちろんお話しできる範囲で結構ですので」


 ギムセックは切実な目で俺の前に座る。

 そういえば、召喚されてこの家に来てから、俺自身についてまだ話していないな。


 むしろ、話すのが遅くなったくらいだ。こんな、何者ともわからない人間を、よくギムセックはもてなしてくれたものだ。


「こちらこそ、お話しするのが遅くなってしまい、すいません。俺は元の世界では『人間』と呼ばれた種族、まあ、こちらの感覚では種族ですね。元の世界では『人間』は1種類だけで、他に種類はなかったので、種族っていう呼び方はしませんでしたが」


「ほう。『人間』ですか。他に種族はいないとは…!」

「それで、えーと、寿命は100歳くらいで、成人が20歳、いや18歳ですね」

「ええ!?寿命が、わずかに100歳!?」


 ギムセックにも驚かれた。わずかって言われたよ…。すいませんね、短命な種族で…。リテもそうだったが、やっぱりエルフからみたら人間の寿命って短いんだな…。


「俺は、34歳でして。まあ、普通に働いていたんですが、昨日の夜、目が覚めたらこの世界にいました。どうやってこの世界に来たのかは、そのパルキストスさんに聞いてみないと分からないと思います」


「なんと…、34歳?ですか…。それは、ああ、成人はされてるんですよね。トーキ様の種族では。しかし、わずか34とは…」

 すっごい微妙な顔してる。

 あ、そうか、俺の見た目だとエルフ的には800歳以上は確実だと思ってたのが、エルフ的に子供の34歳だもんな。


 そういえば、ギムセックもトレスタンも、俺に対してやたらと丁寧な態度だったのは、俺が年上だと思っていたからか。


 800歳をすぎないと老化が始まらないエルフの感覚だと、ちょっとでも老化してたら800歳以上ってことだ。俺なんて、もしかして900歳くらいには見えてたのかな。


 そう思うと、リテの立場ってさらに難しい。ただ単に成長が早いっていうことじゃない。エルフの社会じゃあ800歳超えてるって見えるわけだから。


「見たところ、エルフの皆さんは俺よりも背が高くて、尖った耳をお持ちですが、リテさんはそうでもないですよね。それも『人間』の特徴と同じです。まあ、俺は『人間』の中でもそれほど背が高い方ではないですけど。リテさんの体格は、『人間』なら普通ですね」


「そうですか。やはりリテは『人間』の特徴に近いのですね。しかし、そうだとすると…」


 難しい顔をするギムセックを見て、俺は気づく。

 そうか、もしリテの寿命も人間並みだとすると、これはかなり厳しいことになる。

 何しろ、エルフにとっては寿命がおよそ10分の1になるってことだ。


 娘の寿命が10分の1になってしまうとしたら、親としては耐え難いことだろう。

 もちろん、まだそうなるとは分からない。そもそもこの世界には人間はいなかったのだし、ただ単に成長が早い病気で、寿命は変わらないのかもしれない。


「リテさんの病気、これまでに同じ病気になった人はいないのですか?」

「私の直接知る範囲ではおりません。旅の商人が、遥か北方の地域で同じような者がいたというだけです。その者も、実際にどうなったかまではわからず…」

「そうですか…」


 沈鬱な空気が流れた時、リテがキッチンから出てきた。

「お父さん、片付け終わったよ。ねえ、トーキ様と違う世界のお話してるの?私もトーキ様の世界のお話聞きたいな。トーキ様、機械が光ったり、熱くなったりするってどういうことなんですか?」

 打って変わってリテは明るい声だ。実はまだ子供、という年齢らしく、父親に対しては砕けた口調で話す。


「リテ、父さんたちは真面目な話をしているんだ。機械が光ったり、熱くなったりする訳がないだろう」


「いや、ギムセックさん。それは俺がさっきリテさんに言ったことで。俺の世界では魔法が存在しない代わりに、機械が発達していて、明かりを点けたり、料理をしたり、部屋を暖めたり、いろんな機械があるんです」


「ええ?どういう言事ですか?トーキ様。機械なんて、布を織ったりするくらいにしか使いませんし、それも魔法がなければ速くは動きませんよ」

 ああ、この世界の「機械」って、布の織機ぐらいしかないんだ。逆に言うと、それ以外は全部魔法で動いてるってことか。


「ねえトーキ様。魔法の無い世界って、やっぱりとっても不思議。詳しく教えてください」

 リテも俺の前に座り、興味津々で話をせがんでくる。

 こういうところは、やっぱり子供なんだな、と思わせる。


「そうですね、例えば明かりを点けるのにも、電気っていうエネルギーがあって、それが電灯っていうランプに流れると明るくなるんです。うーん、伝わるかな?」


「それって、魔石に似てますね!魔石も魔力が込められていて、魔法を唱えることで発動するだって学校で習いました。そうだよね、お父さん」

「ああ、そうだよ。リテはよく勉強してるね」

「魔石?魔力?どういうことですか?」

「トーキ様は魔法は知らないんですよね。リテ、魔法について説明できるかい?」


「もちろん!トーキ様、例えばこのランプ。中にある白い宝石が魔石。魔石には魔力っていうエネルギーが込められていて、魔法をイメージして唱えると発動するの。昨日やった『リヒトルヒ』とかね」


 俺は、ランプの中で白く光る宝石を見つめる。

「なるほど。この宝石、魔石が魔法の元になってるんですね」


「そうなの。それで魔石にはいろんな種類があって、その種類によって発動できる魔法が違うの。この白い魔石は光魔法だし、トーキ様の首にかかっている青い魔石は精神魔法。他にも赤い魔石は熱魔法だし、黄色い魔石は力魔法なんだよ」

 へえ、異世界転生(転移)もののアニメやラノベはいくつか見たけど、これはあまりないパターンかもな。

 いろんな色の魔石と、使える魔法が対応してるのか。


「さっきリテさんは、生活に必要な魔法は誰でも使えるって言ってましたけど、皆さん魔石を持っているってことですか?」


「そうですね。基本的な魔石は誰でも持っています。特に熱魔法の赤、力魔法の黄、光魔法の白の三種は、日常生活に必須なので必ず持っていますね」

 これにはギムセックが答えた。


 誰でも持ってるのなら、それほど貴重品ではないのだろうか。

「魔法っていうのが、そんなに生活に密着してるんですね。その、魔石は高価なわけではないのですか?」

「ああ、希少な色の魔石はもちろん高価ですよ。でも普段使うものはそうでもありませんし、そもそも魔石は不滅ですから。今の村人の数なら余裕があります」


「魔石は不滅?その、込められている魔力を使い切ることはない、ということですか?」

「ええ、そうです。普通はなくなりません。大変強力な魔法を使い続けて、長い年月をかければなくなることもあるらしいですが、日常で使っている分にはそんなことはありません」


 魔力が尽きることがなくて、誰でも魔法が使える世界。

 うん、この世界はめちゃくちゃ便利そうだな。


「トーキ様にも後ほど魔石をお分けいたしましょう。赤、黄、白の三種は当家に予備がありますので。魔石がないとなにかと不便ですから」


「それは、ありがとうございます!」

「リテ、基本魔法の使い方をトーキ様にお教えできるかい?」

「うん。基本魔法なら教えられるよ!」

「それじゃあ。お願いしていいかいリテ」

「わかった!トーキ様。よろしくお願いします!」

 リテは元気よく頭を下げた。

 こうして父親と喋っている時のリテは、エルフとしてはまだ子供なのだということが解る。しかし見た目は完全に成人女性なので、俺は何とも複雑な気持ちで彼女を見つめた。



 さて、見た目は大人、中身は子供?のリテによる魔法講座が始まった。


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