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第2話

 リテと共に部屋を出たギムセックは、客間へ案内しながら俺のことを彼女に説明してくれている。


 魔獣に襲われていたところをトレスタンが助けたこと。

 召喚魔法で別の世界から来た事。その世界は魔法のない世界だということ。


 彼女は驚いた表情でこちらを振り返る。

 再び目が合って、なんとも照れ臭くなり、俺は曖昧に笑って会釈をする。


 うーん、何をしゃべって良いか、全くわからん。

 彼女の方も、何と言っていいか分からない、という表情で、微妙な沈黙が流れた。


「すいません。こちらです」

 すかさず、ギムセックが言って客間へと通される。


「こちらでおくつろぎください」

 キングサイズと言っていい大きなベッドのある、十畳ほどの部屋。

 外は既に日が昇って明るいが、厚いカーテンが掛けられたその部屋は薄暗かった。


「何かあれば、ご遠慮なく声をおかけください。リテ、ランプをお持ちして」

 そう言ってギムセックは部屋を出る。リテもランプを取りに行ったようだ。

 俺は、一人になった部屋のベッドに腰かけて、ようやく一息ついた。


 夜中に森の中で目を覚ましたから、あまり寝ていない。確かに疲れてはいるので、少し眠りたい気持ちもあるが、とても眠れそうにはない。


 異世界、異世界だ!俺は異世界に来ている。


 やたらでかいベッドに寝転がり、この現実を噛みしめる。

 まだ、この世界については分からないことだらけだが、魔法があり、普通の人間とは違う種族たちがいることは確かだ。最初に出会ったトレスタンやギムセックが、かなり親切だということはとても助かる。

 そしてリテ。まだ出会ったばかりだが、目を閉じると彼女の顔をはっきりと思い出せる。


 そうして、数分たったころ、部屋の扉がノックされた。

「トーキ様。ランプをお持ちしました」

 リテの声だ。


 俺はすぐにベッドから起きて扉を開く。

「ありがとうございます」

 LEDライトのように白く強い光を放つランプを持って、リテは部屋に入る。

 光に照らされた顔は、やや緊張しているように見える。


「光魔法のランプですが、使い方はお分かりになりますか?」

「このランプも魔法ですか!?へえ、すごい明るさ。いや使い方は分かりません」

 ランプの中には白い宝石が輝いている。

「ランプを持って、点けるときは『リヒトルヒ』、消すときは『ネストリヒ』と唱えてください」

 そう言ってリテはランプを持ち、「ネストリヒ」とつぶやく。

 たちまち光は消えた。


 そしてすぐ「リヒトルヒ」とつぶやくと、再びランプは光る。

 その光るランプを、リテは俺の前に差し出す。

「どうぞ」


 俺は、少しドキドキしながらランプを受けとる。

 魔法って、そんな簡単に誰でもが使えるのか。その呪文?みたいなのを唱えるだけでいいんだったら、案外お手軽だな。よし!


「ネストリヒ」

 しかし、ランプは何の反応も無く、光り続けたままだ。

「あれ?」

 なんでだ?光が消えない。


「あ、すいません、トーキ様。ちょっと説明が足りていませんでした。唱えるときに光が消えることをはっきりと頭の中でイメージしてください」

「イメージ?」

「はい。魔法はイメージが重要なのです」

 魔法はイメージ。どこかで聞いたことがあるような。

 フリーレンの言っていたことは現実の異世界でも有効なのか。


 俺は再びランプ持ち、光が消えることをイメージしてつぶやく。

「ネストリヒ」

 ランプは消えた。

 そして、今度は光が灯ることをイメージしてつぶやく。

「リヒトルヒ」

 光は点いた。


 うん。分かってきた。これは面白い。自分の頭で考えたことが、実現するというのは、何とも快感だ。


「これが魔法!すごいですね!」

「すごい?…ですか?光を灯す魔法は、誰でも物心つく前から使えますので、そんな風に思ったことは無いのですが」

「いや、すごいですよ!魔法はここに住む皆さん、誰でも使えるんですか?」

「生活に必要な魔法は誰でも使えますよ。光を灯したり、熱を操ったり、重いものを軽くしたりとか」

 リテは、当たり前のことだという感じで答える。


「トーキ様は魔法の無い世界からいらしたと伺いましたが、魔法無しでどうやって暮らしていらしたのでしょうか?明かりを灯したり、料理をするにはどうしたのですか?」

「それは、電気とかガスを使ってですね…」

「デンキ?ガス?」

「あー電気っていうのは、えーと、何て説明したらいいのか…」


 電気の概念がない人に、電気ってどう伝えたらいいんだ。そもそも電気って?あ、ダメだ分からん…。

「あー、魔法じゃないんですけど、魔法みたいに光ったり、熱くしたりできる機械があってですね…」

「機械?機械が光ったり、熱くなったりするんですか?それは不思議です」


 いや、魔法の方がよっぽど不思議でしょうが、という言葉を俺は飲み込んだ。

 魔法が当たり前の世界だと、そうなるのか。リテは本当に不思議そうな顔をしていた。



 ……………………………………………



「あ、すいません。トーキ様はお疲れなのに、話し込んでしまって」

「いや、いいんです。どうせ眠れそうにはなかったので。それよりも、この世界について、もっと教えてもらってもいいですか」

「この世界について、ですか。ええと、何をお話すればいいのでしょう。私にお教えできるようなことは、あまりないと思うのですが」


 確かに。いきなりこの世界について教えて、とか言われても範囲が広すぎだよな。

「それに、私はまだまだ子供なので、ちゃんとしたことはお教えできないと思います」

「え、子供?」


 リテの見た目は二十代後半くらいに見える。どう見ても成人しているだろうと思ったが、どういうことだろうか。やっぱりエルフは、人間とは年の取り方が違うってことか?


「私、こんな見た目ですが、まだ32歳なんです。だからあんまり難しいことはまだ習っていなくて」


 ん?どういうことだ?

 まだ32歳?

 それは、ほぼ見た目通りというか、むしろ思ったより年齢がいってるなっていう感じなのだが。


「すいません、32歳というのは子供なのですか?その、皆さんの中では。リテさんは子供には見えませんが…」


「あ、種族が違うと成人年齢や寿命が違うんですよね。学校で習いました。私たちはエルフ族で、60歳で成人で、寿命はだいたい1000歳くらいの種族なんです」


 おお、やっぱりエルフなのか!

 しかも、60歳成人で、寿命が1000歳!

 それなら確かに32歳は子供ってことか。


 だとすると、俺が34歳だって言ったら何て思われるかな。


「なるほど。皆さんエルフなんですね。ちなみに僕は34歳で、人間、ヒトと言っていいのかな?寿命が80~100歳くらいなんですが…」


「ええ!?寿命がたったの100歳?そんな短い寿命の種族は聞いたことがありません。そうなんですか…」

 なんか、めちゃくちゃ哀れみの目で見られている気がする。

 寿命100歳って、この世界ではそんなに短いのか…。

 人間は100歳でも長生きなくらいなのだが…。


 それに、そんな短い寿命の種族は聞いたことがないって、この世界には、俺の様な「人間」はいないのだろうか。


「すいません、ちょっと驚いてしまって。トーキ様、34歳というのはトーキ様の種族では成人されているのでしょうか?」


 この年になって、成人してるか、なんて聞かれることがあるとは思わなかった。

「私たちの中ではとっくに成人です。なんなら中年と言ってもいいんですけど。ちなみに、お父さんやトリスタンさんは若く見えますけど、何歳くらいですか?」


「父は今年で830歳です。トリスタンさんは、はっきり分かりませんけど500歳くらいだったかな…」

「830歳!見えませんね…」

「そうですか?他の種族の方からだとそうなのですね。私たちエルフは60歳で成人してから800歳くらいまでは外見は変わりませんので」


 60歳から800歳まで外見が変わらない?それって、若いままの状態が800年近く続くってこと?

「えっと、それは60歳から800歳までの、740年間くらい…ですか、その間は全く老けることがない、ということですか?」

「ええ。そういうことです」


 マジか。うらやましいな。さすがエルフ。

「あれ、じゃあリテさんは…」


 父親のギムセックが830歳で、20代後半くらいの見た目だ。なるほど、800歳くらいまで成人したままの外見で、そこから少しだけ老けた、という感じだ。


 しかし、リテはまだ子供の32歳なのに、外見はギムセックと同じくらいの年に見える。


 俺が疑問に思って彼女を見た時、彼女はうつむいて視線を外し、暗い目をしていた。

 しまった。何か触れてはいけない部分に触れてしまったのか?


「そうですよね。不思議に思われますよね。私、まだ32なのに…。あの、実は、私は病気なのです。エルフ族が極まれに罹るらしいのですけど…。生まれつき、成長がとても早いのです。それ以外にもいろんな症状があって…」

 そう言って彼女は黙り込んだ。


 これは、やってしまった。完全に余計なことを言ってしまった。

 俺は、何と言っていいか分からなくなって、その場に固まった。

 こういう時に、うまくフォローするような、そんなコミュ力はありはしなかった。


「すいません。いずれご説明すべきことですので、トーキ様はお気になさらないでください」

 リテは頭を下げて、足早に部屋から出ていった。



 …………………………………



 そうか。エルフでも早く成長してしまう病気か。

 成人が60歳の世界で、その半分ほどの32歳。

 それなのに、もう大人の見た目じゃあ、いろいろ悩むよな。


 人間に例えると、10歳くらいでもう見た目が大人ってことだ。それはキツイかも。それに、他にも症状があるとか言ってたし。


 異世界で、誰でも魔法が使えて、楽しそうだと思ったけど、病気もあるっていうのはやるせない。楽しいばかりの世界は無いってことか。


 俺は考えながらベッドに寝転がる。

 ランプの明かりが眩しい。

 魔法の生み出す光は、何の揺らぎも無く、一定の光量で光り続けている。

 俺は寝たまま手を伸ばしてランプに触れる。熱は全く感じない。


「ネストリヒ」

 あっという間にランプは消える。

 そのまま目を閉じ、寝転がっているうちに俺は眠りに落ちていた。


次回、第3話は2/4(水)朝6:00 更新です。

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