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その9 戦闘

ユーグは声を立てて笑った。

「あきれ果てた奴だな。せっかくの復讐のチャンスだろうに。奴らを見返してやればいいじゃないか」

マリオンはきつい瞳でさらにユーグをにらみつけた。

従兄弟たちの顔が次々と脳裏に浮かぶ。やさしいサラやヘンリーの陽気な顔、そしておじい様の顔が・・・・・・。

「そんな形で見返すことなんて、僕はしない。誰にも僕と、同じ思いはさせない」

唇が少し震える。ぎりりとかみしめた奥歯が鳴った。

「絶対にだ」

食いしばった歯の間からしぼり出すようにマリオンが言うと、やれやれというふうにユーグが、肩をすくめた。

「それはまた、ご高潔なことだ。ノーブルマインドと言うやつかね? もったいない。まあ、おれはお前がよければそれでいいがね」

マリオンはゆっくりと目を閉じ、自分に言い聞かせるように強い口調ではっきりと告げた。

「君なんか最初からいないんだ。僕は自分でやったことの始末は自分でつける。君を絶対、ここから出さない」

「やれるものならやってみるがいい。おれの力を甘く見るなよ?」

それはわかっている。

マリオンの結界をたやすく破り、こんなに自由に作り物の身体で表を堂々と出歩ける力を侮るわけにはいかない。

しかも彼の腕には、気を失ったマデリーンがいる。

ユーグの行動には制約がつくだろうが、マリオンにとっても彼女はかせとなる。しかも、ユーグは本当に邪魔になったらマデリーンなど一打ちで殺してしまうだろう。

そのようなことは彼にとって取るに足らないなんでもないこと、なのだ。


マリオンはふいに力の言葉を放った。

周りの空気が急速にざぁっと音を立てて白い結界に変わる。

そこから無条件に出られるのは、彼自身だけだ。ユーグが結界から出るためには、障壁を魔法で破らなければならない。

その隙をユーグにあたえず、マリオンの口から同時に解放の呪文が放たれた。

固定されている人形の部品を解放させ、ばらばらに分解しようというつもりだ。

だがユーグの右手があがり、その掌から黒い光を放つと解放の呪文をはね返した。

マリオンが今度は無言で、もう一度解放の呪文を放ち、ユーグはマデリーンを抱きかかえたまま、優雅な動作で後ろへ飛んでそれを難なくかわした。

マリオンは、そのまま再度、解放の呪文を放った。

「しつこいっ!」

それをよけながらユーグがいらだったような声をあげ、唇に右手の拳を当てマリオンに向かって鋭い息を吐き出した。

拳の間を通ったユーグの呼気は、無数の針のように尖り、空を切り裂きマリオンに襲いかかる。

マリオンは、遮蔽の呪文とともに、右腕を大きくふってその呼気を散らし、散らした端から再度解放の呪文を、今度は範囲を大きく広げて放った。

ユーグは何度か解放の呪文をよけるうちに、マリオンが最初に張った結界に追い詰められていた。

解放の呪文が飛び退ったユーグのつま先をかすったが、範囲を広げたことによって魔力は弱まっていて、ユーグには影響がほとんどない。

ユーグが嘲笑を浮かべ、腕の中のマデリーンをゆすり上げた。

「お前の力はその程度か? 攻撃の呪文はこの娘がいるから使えないわけだな。そんなことでおれと戦えるのか? マリオン」

マリオンは、それに答えるように口の端にかすかな笑みを浮かべた。

「そうかな? 解放の魔法がその身体に効かないというなら、なぜそんなにムキになって避けなければならないんだ? 攻撃魔法でなくても君には十分な効果があるということだろう?」

どうやら、マリオンの言葉が的を射ていたようで、ユーグの表情が一気に険悪なものに変化した。

ちっ、とユーグは舌を鳴らし、腕を振り上げるとマリオンの頭上に黒い光を放った。黒い光はそのまま邪悪な表情の大蛇となってその鎌首をもたげ、毒の滴る牙を彼の白い喉に向けた。

だがその牙が喉に食い込むより一瞬早く、マリオンの右手にはくうからつかみ出した白い光の剣が握られていた。

がきりとくぐもった音が鳴り、喉の代わりに光の剣に毒蛇の牙が食い込む。湿った蛇の口の端からじくじくと黒い毒がにじみ出て、光の刃をぬるぬるとつたってしたたり落ちてきた。

その黒い毒は白い刃をつかのま汚染し、穢し腐敗させていく。

だが、毒が柄まで達しないうちにマリオンが蛇を絡みつかせたまま全身の力をこめて裂帛れっぱくの気合とともに下方へ剣を引き斬ると、毒蛇は縦に真っ二つに裂けていった。

その赤く爛れたような蛇の身体が撒き散らす毒の滴を巧みに避けながら、マリオンは光の剣をくうに投げ戻し、今度も解放の魔法をユーグの足に向かって放った。その呪文の波動を受けたユーグの足が飛び退り損ね、よろよろと芝の上でたたらを踏んだ。

「足は弱いはずだよね。あのとき僕が手を抜いたから」

ユーグの足元はマリオンが指一本一本に包帯を巻く手間を惜しんだために、ただでさえ不安定であった。

さほど可笑しくもなさげに、マリオンが口の片側にだけ小さく笑みを浮かべた。いつのまにか額の金色の髪は後ろへ吹き払われ、大きな緑の右目と普段は見えない魔力に満ちた金色の左目がユーグを見すえている。

「こしゃくな小僧め。ならばこうだ」

そう言い放つユーグの顔はすでに蛇と同じような邪悪な表情に満ちており、その目は凶悪な冷酷さに光っていて、もう美しくも優雅にも魅惑的にも見えない。

ユーグがその長い右腕を下に伸ばし、掌を大地にどんと叩きつけると、その部分からマリオンの足元に向かい無数のひび割れのように芝が立ち上がり、そのすべてが黒い毒蛇に変わった。

鎌首をもたげた蛇たちが赤く大きなその口を開け、黒いさざ波のようにかなりの速度でしゅうしゅうと音を立てながらマリオンに向かってきた。にちゃにちゃとさざめく蛇たちのたてるいやらしい音と生臭い匂いで吐き気がしそうだ。

だが、マリオンはそれにも引かず、すかさず両腕を頭上高く振り上げると、雨と炎の呪文を唱えくうから蒼い炎の雨を呼び出し、足元に迫る蛇たちに叩きつけた。

蒼く美しい細い絹糸のように煌く幾筋もの光の雨に焼かれ、その身を大地に縫いとめられた黒い蛇たちはひたすら苦痛にのたうちまわった。

ひとしきりの蒼い雨がやむと、後には焦げた芝とそれにこびりつく、もはや原型をとどめないどろどろした黒い塊だけが残った。

その間もユーグとマリオンの間には、解放と遮断の呪文が飛び交い、漆黒と白金の絶え間ない攻防が繰り広げられている。

どちらの魔力も互角に見えるが、ユーグの腕の中のマデリーンを意識するマリオンは、純粋な攻撃の魔法を使うことができないことにいらだち始めていた。

解放の呪文も一度でユーグを解体できるとは限らない。固定の魔法を使用した回数分だけ解放も行わなければならない可能性のほうが高い。最初に思っていたよりユーグははるかに手強く、マリオンは焦っていた。

やがて一瞬、空白の時間が訪れた。

向かい合ったユーグの黒い視線とマリオンの金の視線が絡み合い、お互い一歩も引かぬまま、きつく睨み合う。

両者とも少しだけ息は荒いが、とりわけ疲れている様子もなくまだ体力にも魔力にも限界は見えていない。

一方は十代の少年でしかも魔族の血を引いており、一方は純粋種の魔族で頭蓋骨だけで何百年も生き延びられるほどの魔人的体力の持ち主。

だが、どちらかといえば、身体が本物でない分、自分のほうが幾分か不利とユーグは判断したようだった。

実際のところ、先ほど足先にあびた解放の呪文のせいでユーグの足元がだいぶ不安定になりはじめている。

「これでは一向に埒があかないな。どちらかに体力か魔力の限界が来なければ、終わらん」

苦々しげにユーグが吐き捨て、無造作に右手を振ると、その手の中に鋭く凶悪な刃を持った短剣を呼び出した。

「マリオン、結界を開放しろ。しなければこの娘を今ここで殺す」

マリオンは固く唇をかみ締めた。彼は、この瞬間を恐れていた。

今までユーグはマリオンとの戦いを楽しんでいた節がある。それをなんと呼ぶのかわからないが、確かに彼はマデリーンを楯にとることもなく真っ向からマリオンと勝負してきた。

だがここまで長引くと、さすがに焦れてきたということなのだろう。

どうにもならなくなったらユーグは、きっとマデリーンを人質として有効に使うだろう、とは思っていた。

自分にはその要求を撥ね付けることはできない。

しかし、今ここで要求を飲んで逃がしたら、ユーグどころかマデリーン自体も見失いかねない。

「マデリーンを返してくれれば、開放する」

マリオンの言葉にユーグが嘲笑った。

「お前に選択の余地はない。開放するか、この娘が殺されるところを見るのか、そのどちらかだ」

マリオンの奥歯がきしむ。

「彼女を殺したら君も助からない」

マリオンの低く唸るような声に、ユーグが再び笑い声を上げた。

「では最終的にお前の手に入るものは、彼女の血まみれの死体とおれの残骸、それだけだな。それもまたなかなか乙かも知れぬ。お前は一生、血まみれの娘の悪夢を見て過ごせばよい。おれはそれだけでも満足だ」

再びマリオンのかみ締めた奥歯がきしんだ。

ユーグの口調には、半ば本気で言っているようなところがうかがえるが、それはもちろん、はったりなどよりもっと性質たちが悪い。


治癒の魔法は、『死』には効かない。復活の呪文も瀕死にはある程度効果があるが、完全に死亡した状態の者には効き目はない。

また今現在、マリオンが行える最高レベルの治癒、または復活の呪文をもってしても、流れ出た人間の血液を元に戻すことはできない。

つまり皮膚組織や骨などが切られたり折れたりしただけの失われていない状態ならば治癒できるが、流れて失った血液や無くなった身体の一部分などを元に戻すことはできないのだ。もちろん血止めを行うことはできる。

だが、あの大きく鋭い刃にマデリーンの細い首が斬られた場合、失血どころか首ごと落ちてしまう可能性もある。

即死状態だ。

その場合、マデリーンのためにマリオンが行える魔法は、ない。魔術師と言えども万能の神ではないのだ。

悔しげに眉を寄せたまま、マリオンは深く息を吸い込んだ。

「わかった、開放する」

それはある意味、敗北の言葉だった。

今ここでマデリーンが殺されたら、本当に一生、自分を許せない。たとえその後、ユーグを殺して復讐したとしても毎晩、血まみれの彼女の死体を夢に見るだろうというのも間違いない。

ならば、ここはいったん退くしかない。

ユーグの口元に満足そうな笑いが浮かんだ。

「では、開放してもらおうか? 偉大なる魔術師殿」

マリオンの金色の目が怒りにすっと細まった。

ユーグは口元に笑みを浮かべたまま、マリオンのその苦い瞳を覗き込んだ。

緩やかにマリオンの右手が肩のあたりまで上がり、ぱちんとその細い指を鳴らした。

同時にはじけるように白い障壁が崩れ去り、その瞬間を狙ってユーグがマデリーンを抱いたまま風を巻いて勢いよく闇の中へ飛び出した。

「ユーグっ!」

間髪入れずその黒い背を追って走るマリオンの絶叫が、闇の中に悲痛にこだました。

マリオンの足はかなり速い。

しかし、そのマリオンよりさらに速いユーグは、走るというよりは半分飛んでいるといったほうがよいかもしれない。足が地面についている時間よりは、滞空している時間の方がはるかに長い。

軽いがかなり距離をかせぐような跳躍を何度か繰り返しながら、ユーグは人気のない街道のほうへ向かっている。

街道を抜けて深い森の中へでも逃げ込まれたら、捜索はより困難になるだろう。

結界が消えうせた後には遠いざわめきが戻っていたが、あたりに人影は見当たらなかった。

城の裏庭を抜ければ、真っ黒な河のようにゆるやかにカーブを描いた街道が目の前にせまる。

そこを斜めに横断して低い崖から飛び降りれば小さな草原があり、すぐその先から大きな森が始まっているのだ。

だが、その街道へたどり着く前にユーグの黒い影が、ふいに上から降ってきた白い光に行く手を阻まれたようにマリオンには見えた。

ユーグが、その光に思わずのけぞるように足を止めた。明らかにそれは魔法による炎、白い浄化の光であった。

その光はまるで丈高い障壁のようにユーグの前に立ちはだかり、それへ突っ込む前に間一髪のところで立ち止まった彼の髪と白い肌をちりりと焦がしている。

そして、体勢を崩したユーグがよろけた、その刹那、あやまたずマリオンの解放の魔法がユーグの左腕に命中し、分解こそしないものの力を失ったその腕は、抱えていた少女の意識のない身体を地面に滑り落とした。

ちっというユーグの鋭い舌打ちが聞こえたが、もちろん彼にはマデリーンを抱えなおしている暇はない。

光が収まるやいなや、黒い影はそのまま高く伸び上がり跳躍すると、街道を斜めに飛び越し今にも崖を飛び降りて闇の中深く消え失せようとした。

しかし、すかさずマリオンの作り出した蒼い炎の矢がその飛び上がったユーグの胸を貫き、同時にマリオンの後方の高みから放たれた巨大な光球が彼の全身を覆い、白い炎で焼き尽していく。

ユーグの絶叫があたりの闇を震わせた。

蒼と白の二重の炎にその身を焼かれ、のた打ち回る黒い影が怨嗟の言葉を吐きつづけ、炎の中から黒い凶悪な光を帯びた目がマリオンを睨みつけ、かぎ形に曲がった指が突き出された。

「マ・・リ・・・・・・オン、お前には・・・・・・また・・・・・・会うぞ。必ず、だ。よ・・・・・・く・・・・・・覚え・・・・・・ておけ」

マリオンは無表情のまま、その焼け爛れた影に向かって両腕を高く振り上げ、とどめにもう一度、今度はあの頭蓋骨を狙って蒼い炎の矢を叩きつけた。

やがてすべての光が収束し再び静かで穏やかな闇が戻ってきた後、マリオンがさっき光球が降ってきたほうを振り向いて見上げると、ほのかなランタンの灯りの中に城の裏手のバルコニーから身を乗り出している従兄弟、バージルの姿が浮かび上がった。

表情までは見えないが確かにそれはバージルで、彼はマリオンに向かって軽く手を振ると、表階段を下りるために走っていってしまった。

「あの光はバージルだったのか・・・・・・」

安堵のあまり、マリオンはそのままひんやりした草むらにへたり込んだ。

やがて降りてきたバージルに声をかけられるまで、マリオンはそのまま草むらに座り込んだままだった。

「マデリーンは無事か?」

マリオンは座り込みうつむいたまま、のろのろと頭を振った。

それを無事じゃないという意味ではなく、確認していないということだと読み取ったバージルは、静かにマデリーンのほうへ歩いていきかがみこんだ。

「大丈夫そうだな。このまま眠らせておこう」

バージルはマデリーンに軽い治癒魔法と、さらに眠りの魔法を施した。

夜が明けるころには打ち身の傷も回復して、穏やかに目覚めることが出来るだろう。

あの男の記憶がどうなるのか、はマデリーンが目覚めてみなければわからない。

「さて、マリオン。おじい様から一族の歴史の話は聞いたんだけど」

はっ、とマリオンが顔をあげてバージルを見上げた。治療を終えたバージルがマリオンのそばへ戻ってきていた。

「どこまでっ!?」

そのマリオンのあまりの勢いにバージルは一瞬たじろいだが、やがて穏やかな笑みを浮かべた。

「何故、僕たちに黒髪が生まれないか。黒龍は何故復活したのか」

マリオンは少し青ざめた顔で、唇をかんだ。

おじい様はバージルにその話をしたのか。そのためにわざわざ彼をあの時引きとめたんだ。

「だけど僕にはその話自体より、何故、お前がその話を聞いて気を失ったかの方に興味があるよ。それにマデリーンをさらったあの男がいったい何者だったのか」

それは・・・・・・、とマリオンが言葉を失う。

ぽんとバージルの手から白いものが草むらに落とされる。

見るとそれは、あの人形の本体に使った象牙の肋骨と思しきものの一部だった。

まだ綿と白い包帯の切れ端が絡まっている。

浄化の炎は、物理的な火ではない。だからユーグ(とたぶん頭蓋骨)は焼かれてしまったが、人形自体はばらばらになっただけなのだ。

きっとこの草むらのあちこちに同じようなものが大量に落ちているに違いない。

バージルは座り込んでいるマリオンの隣に腰をおろした。

「これはどう見ても作り物だろう? あいつはこういうものでできていたんだよね? はじめから全部説明してもらえるかな?」

バージルの口調は穏やかで問い詰めるようなものではないが、その中に有無を言わせぬ意志の強さを感じてマリオンはため息をついた。

「僕は・・・・・・、こんな大事になんてするつもりはなかったんだ。ただ、マデリーンをからかってやろうと思っただけで」

最初の最初、マデリーンとのけんかからゆっくりとマリオンは話し始めた。

ユーグが本当は何者であったのか、だけを伏せ、事の全容を話し終わるためにはだいたい半刻(1時間)ほどを必要とした。

覚悟を決めたマリオンは、バージルに自分がやろうとしたことを包み隠さずに話している。

話し終わるまでバージルはほとんど口をはさまず、静かに聞き入っていた。

終わると、マリオンは何か重いものを吐き出したように、ふっと息をついた。

そんな従兄弟を横目で見ながら、バージルが小さくつぶやいた。

「まだ、話してないことがあるだろ?」

バージルの静かな指摘にぎくりとマリオンの背がこわばった。

「全部、だよ?」

マリオンが固い表情でバージルを見た。

バージルは、首を振って従兄弟に優しく笑いかけた。

「全部、じゃないだろ?あいつが何者だったのか、お前は話していないじゃないか」

「だって・・・・・・」

かすかにためらって、マリオンはバージルとは目をあわさずに抱えた膝に顔を伏せた。

「だって、わからないんだ」

「なら、僕がいおうか? あいつは、魔族だ」

バージルがあっさりと言い、弾かれたようにマリオンが顔をあげた。

「あいつが魔族でなかったら、ここまでの話に全然納得がいかないよ?」

「魔術師だったかもしれないでしょう? すごく腕のいい」

バージルは首を横に振った。

「魔術師ってのは、一代限りのものさ。遺伝はしない」

「でも・・・・・・」

なおも懸命に言いつのろうとする従兄弟の肩に、バージルは優しく手をかけた。

「僕たちの先祖が魔族だった。それでいいじゃないか。僕は全然気にしない。むしろ、わかったほうがすっきりする」

「バージル・・・・・・」

「誰にも言わないさ。みんながみんな、そういう考えだとは思えないからね」

マリオンの顔が今にも泣き出しそうに歪み、こらえきれず再びひざに顔を伏せた。

「僕は、未熟だ・・・・・・。誰にも言うつもりなんてなかったのに」

くぐもった声が小さくつぶやいた。

ふいにぐしゃぐしゃと乱暴にバージルの手がマリオンの頭をかき回した。

「お前、生意気!」

びっくりしてマリオンが顔をあげると、バージルが微笑んでいた。

「一人で何でも背負い込めるほど、お前はでかくない。まだ十五歳、しかも五フィート四インチしかないんだろ? お前一人が背負い込んで、よろよろ歩いてるのを見るとこっちは気が気じゃないんだよ」

おどけた口調だが、バージルの本気が伝わってきて、マリオンの鼻の奥がつんと痛くなる。

「ごめん、ごめんね、バージル、僕・・・・・・」

バージルは、もう一度泣きそうな従兄弟の頭をぐしゃぐしゃにして

「馬鹿だな、マリオン。そういう時は『ありがとう』って言うんだよ」

と、いつかのサラと同じ事を言ったのだった。


結局マデリーンは熱を出して寝込み、二日目の園遊会には出られなかった。

マリオンも実は同様で、朝起きたら頭が死にそうなほど痛くてベッドから起き上がれなかった。

バージルが二人に治療魔法を施したが、その効き目はほとんどなかった。

「どうやら二人とも精神的なものらしいね」

と、バージルが苦笑した。

精神的なものは、魔法で治療するのが難しい。

「よく寝て自力で治してくれ」

バージルは、にこやかに微笑みながらもきっぱりと二人にこう申し渡した。

とりあえず二人とも園遊会のにぎやかな音楽やざわめきを遠くに聞きながら、おとなしく寝ているしかない。

「あとで何か美味しそうなものを持ってきてあげるからね」

バージルにくっついてきたリチャードとセドリックがそう約束していったが、

「・・・・・・二人とも楽しんできてね」

マリオンには蚊のなくような声でこう答えるのが精一杯だった。

「これは罰なんだ」

マリオンは痛む頭を抱えベッドの中で、マデリーンに謝らなくっちゃ、とずっと呪文のように唱えていた。

あの時、もうちょっとでマデリーンの首が・・・・・・と思うと、今でも少し震えてしまう。

軽い気持ちで始めたほんの悪戯のはずだったのに、こんな重い結末が待っているとは思わなかった。

もしもあの時バージルが来なかったら、自分だけでは始末をつけられなかっただろうと思う。

安堵と深い後悔にベッドの中にもぐりこみ、少しだけ泣いてしまった。

あの後、人形の残骸を二人で拾って歩いたのだが、いくら探してもあの頭蓋骨は欠片すら見あたらなかった。

とどめのマリオンの魔法の矢に四散してしまったのか、それともあの末期の言葉どおり、いつかまたマリオンに会うために逃走したのかそれはわからない。

今度もし、あんなことがあったら今度は絶対逃がさない、とマリオンは固く心に誓っている。


次回「エピローグ」で最終回になります

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