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その8 正体

 にぎやかに楽団が音楽を奏でている。

 中庭の真中に設えられた特設舞台では、派手な化粧をした道化師が二人で飛び跳ねながら自分たちの身体の二倍もありそうな大きな鞠を投げあう演技をしている。

 周りには大人も子供もたくさん並んでいて、音楽に合わせて拍手を送ったり、野次を飛ばしたり、大声で笑ったりしながらその芸を楽しんでいるようだ。

 舞台脇に設置させた松明の灯りのほかに樹木にはたくさんのランタンがとりつけられ、誰か町の魔術師にでもつけさせたのか、魔法の灯りが煌々と庭を照らしている。

 真昼とまではいかないが充分に明るく、庭の向こう端にいる人の顔すらもかろうじて見分けられそうだった。

「どこだろう?」

 それにしてもあまりに人が多すぎる。

 質素ななりの村の人々の中であの綺麗な色のドレスはめだつだろうと思ったのだが、人垣に阻まれてなかなか見つからない。

 はたして、こんなに混雑しているところにあんなドレスでおめかしをした女の子たちがいるのだろうか?

 もしかしたら、下ではなく室内にいてどこかの窓かバルコニーから眺めているのかもしれない。

 実際、上を見上げてみたら、ヘンリー叔父とどこかのご令嬢が葡萄酒のグラスを手に仲良く二階のバルコニーから身を乗り出しているのが目に入った。

 向こうもマリオンを認めたらしく、笑って大きく手を振ってきた。

 いとこたちはどこかと訊きたかったが、音楽がにぎやかなので声をあげても聞こえるはずはない。

 あきらめてマリオンは叔父に同じように手を振り返すと、再び人垣の外側からマデリーンのピンクのドレスを探すことに専念した。

 舞台が斜めに見える中庭のすぐそばの中二階のバルコニーに、明るい色の一団が見えた。

 あれかもしれない。

 マリオンは、華奢な体躯を生かして人ごみをすり抜け、外階段を駆け上った。

 あがって中二階の入り口からのぞいてみると、やはりその華やかな一団はいとこ達だった。

 リックとセディはいないが、女の子たちはみんないるようだ。

 いや、ミレーユとジャニーンの顔は見えるが、マデリーンの姿は見えない。

 あのピンク色のドレスはどこにもいなかった。

 マリオンはあがり口の一番近くにいた青いドレスのケイトリンをつついて振り向かせた。

「マデリーンはどこ?」

 サーカスに気をとられていたケイトリンは、マリオンに気がつくとにっこり笑った。

「あら?マリオン。もっとこっちで見たら? バージルは一緒じゃないの?」

「彼はおじい様とまだお話してるよ。ね、マデリーンはどこか知らない?」

「さあ? どうして? 珍しいじゃない、彼女に用事があるなんて」

 こころなしか少し険しくなったケイトリンの表情に、疑問を持っている暇はなかった。

「マデリーンにどうしてもたずねたいことがあるんだ」

「マデリーンならね」

 奥からマリオンの声を聞きつけたミレーユが振り向いて答えてくれた。

「さっき図書室へ行ったみたいだわ」

「図書室?」

 マリオンとケイトリンが同時に疑問符つきの声をあげた。あまりにも意外な答えだった。

 ミレーユがくいっと肩をすくめて見せた。

「なんだか私にもよくわからないのよ。ケーキを取りに行ったはずなのに、何も持たずに戻ってきて。それからしばらくぼうぅっとしてたと思ったら、今度はいきなり『あれは黒衣の王子様だわ』って叫んで、図書室行ってくるって走っていってしまったの」

「なんで黒衣の王子様とやらが図書室と関係あるの?」

 マリオンが困惑して首をかしげた。

「ほら前に」

 ミレーユが人差し指を唇に当てて、考え込むような仕草をみせた。

「いつかの雨の日に私たち、図書室から画集を持ってきたでしょう? あの時、見たのよ。黒衣の王子様」

「黒衣の王子様って画集の絵、なの?」

「正確に言うと違うわ。画集になっていたわけではなくて、中に一枚絵が挟み込まれていたの。すごく綺麗な男の人」

 ああ、とケイトリンが唇をゆがめた。

「あなたたち、しばらく素敵ね、素敵ねって騒いでいたわね」

「ええ、とっても素敵だったわ。ちょっと物憂げなとても雰囲気のある人で・・・・・・。でも、マデリーンがそれを今になって見に行きたかったのか、私にはわからないわ」

「その黒衣の王子様って、もしかして黒髪じゃなかったかい?」

 勢い込んでマリオンが尋ねると、その勢いに押されたようにミレーユがのけぞり、大きく目を見開いた。

「ええ、確かそうだったかしら?蒼に近い黒髪、だったわ」

 やっぱり、とマリオンが唇をかんだ。

「まぁ、てっきり私、マデリーンは金髪が好きなんだとばかり思ってたわ」

 ケイトリンがくいっと眉を上げて皮肉っぽい口調でつぶやくのを、ミレーユが聞きとがめた。

「あらケイトリン、あなたもね」

 ケイトリンが挑むようにミレーユを見た。

 なぜか女の子たちの間に険悪な雰囲気が生まれたが、マリオンはそんなことを気に止めていられない。

 絵の確認をしに図書室へ行ったほうがいいのかもしれない。

 もしかしたら、マデリーンがひとりでふらふらとあの絵の男を捜しに歩いているかもしれない。

 危険だ。もしかしたら、自分が考えていた以上に危険なことかもしれない。

「ありがとう、ミレーユ」

 階段を下りるのももどかしく、マリオンは中二階の結構な高さから窓を超えて飛び出した。

 後ろできゃーっといとこたちの悲鳴が上がったが、それすらも気にしてはいられない。

 身軽く敷石の上に着地するやいなや、彼は全速力で北棟へ向かって走りだしていた。



 図書室は、北棟の一番はずれ、西棟の端が交差するところにある。

 一番奥の北棟のそのあたりにはテントがない。

 人影はもちろんない。

 裏を通る公道のために、庭木に申し訳程度にランタンがいくつかぶら下がっているだけだ。

 あたりはほとんど夜の色に染まっている。

 中へ入れば、廊下には壁掛けの燭台が灯っているが、外は闇が深い。

 いくら慣れている城だと言っても、夜はやはり特別だ。

 昼間とはまるで違う顔を見せてくれる。

 人気のない庭園は、樹木の作る濃い影と月明かりの淡い光に作られたチェス板のようだ。

「よくこんなところに女の子が一人で来たよね」

 女の子はとかく群れたがるものだ、とマリオンは承知している。

 怖がりのはずのマデリーンが、ミレーユどころかジャニーンすら連れずにこんなところへこんな時間帯にやって来るということがすでに異常事態といえるかもしれない。

 少し緊張しながら図書室へ通じる扉を開けようと扉に手をかけたとき、どこからか低く女の子の声がすることに気がついた。

 誰かと話をしているのだろうか。だが、相手の声は低すぎて聞き取れない。

 マリオンは足音を殺し、その声がするほうへ慎重に歩き出した。

 声は図書室ではなく、西棟に交差している渡り廊下のほうから聞こえている。

 大きく迂回しながら声のするほうを庭木の陰から覗き込む。

 ピンク色のドレスが、まるで夜の庭園の薔薇の花のように夜目にもくっきりと浮き上がっている。

 相手は庭木が邪魔で、マリオンが今いる位置からは見えない。

 少女の鼻にかかった甘えるようなくすくす笑いが聞こえる。

 それはやはり、マデリーンの声だった。

 相手は誰だ。

 マリオンは庭木をよけて回り込み、伸び上がるようにして覗き込んだ。

 相手の男にぴったりと寄り添っているマデリーンの後姿が見える。

 ピンクのドレスの腰に無造作にまわされた袖は黒で、折り返しに金の刺繍が施されている。

 そして、彼女の首筋にかがみこむようにしている黒い影は黒髪。

「やあ、マリオン」

 低いトーン、独特の甘さを持った深い背筋に響く声が、いきなりマリオンに声をかけてきた。

 口元に皮肉な笑みを浮かべた黒髪と黒瞳が、マデリーンの首筋から顔をあげマリオンを覗き込むようにして手をふっていた。

 上気した顔のマデリーンが振り返り従兄弟の顔を認めると、怪訝そうな顔をした。

「ユーグ、あなた、マリオンをご存知だったの?」

 ユーグと呼ばれた男が、唇の端を軽くあげて極上の微笑みの形を作った。

 あの時、何度やってもうまくいかなかった微笑みの形を。

「世話になったんだ。いろいろとね」

 マデリーンは、その笑顔と深い声にうっとりと彼の顔を見つめている。

 ユーグ? 僕のつけた名前ではない。人形が勝手に名前を名乗っているのか?

 やはり人形が一人で歩いていたのか? 目の前に現実としてその顔を見ていても、マリオンには信じられない。

 疑ってはいたものの、頭のどこかでずっと否定していたのだ。

 彼は確かにあの人形そのもの。その顔も着ている洋服もマリオンには見覚えがあるものだ。

 だが、その精神は? その魂は? そしてその身にまとった妖しい雰囲気は?

 別のものだ。それは作られたものではなかった。

「君はいったい何者だ」

 食いしばった歯の間から吐き出すようにマリオンが問うた。

「おや、ご挨拶だな、マリオン。おれの名前は、ユーグ。お前の知ってる名前とは違っているだろうが、こっちが正しい」

 背筋に響く深い声に、マリオンの身体の内側のどこかがひきつれるように反応した。

 自然に呼吸が浅くなる。

「・・・・・・ユーグ・・・・・・。君は何者だ」

 息を整えてから、マリオンが繰り返した。

「マリオン、あなた失礼だわ。せっかく私たち、楽しくお話していたのに」

 彼の代わりに唇を尖らして抗議するように答えたのは、マデリーンだった。

 だが言葉はそうでも、いつものあの見下すようなきつい調子はすっかり影をひそめている。

 甘い聞きなれないマデリーンの声の調子に、マリオンは逆に戦慄を覚えた。

 まだ彼女はこの男に会って間もないだろう。

 それなのにすでにすっかり骨抜きになっている。 こんな、こんなことはあるはずがない。

 いや、あってはいけないんだ。

 含み笑いが男の口から漏れた。

「ちょっと邪魔だな、お嬢さんは」

 言うが早いか、ドレスの腰にまわされていた男の手がマデリーンの首に手刀となって食い込んだ。

「何をするんだ!」

 ユーグは気を失ってぐったりとしたマデリーンをぐいっと持ち上げるように左腕で抱えなおし、皮肉な笑みを浮かべた。

「お前さんとゆっくり話そうかと思ってね。別に死んじゃいないさ。気にするな」

 ねっとりと絡みつくような甘い響きを持った声。

 ぼうっとしそうな頭をマリオンは軽く振った。

「何をたくらんでいるんだ、君は」

 男はふっと低く声をあげて笑い、首をかしげて見せた。

「たくらむ?おいおい、たくらんだのはおれじゃないぜ」

 マリオンは唇をかむ。

「たくらんでいたのは、お前さんだろう?この娘をおれに誘惑して欲しかったんだろう、違うのか?」

 マリオンには返す言葉もない。その言葉が真実ではないと、言いきれないからだ。

 だが、自分はここまで望んでいたわけではない。

「もういい。僕の望みはかなったよ。君は人形に戻るべきなんだ」

 マリオンの口調は苦い。

 それを聞くとユーグと名乗る男は、軽く頭を振りながら微笑んだ。

「お前の望みがかなったと言うなら、次はおれの望みだ」

「君の、望み?」

「そう、おれの望みだ」

 マリオンは無意識にこぶしを握り締めた。

「人形に望みなんかあるはずがない。君の、いや、お前の主人は僕だ!」

 ユーグは頭を軽くのけぞらせて、大声で笑った。

「はっはっはーだな。なかなか笑わせてくれる。お前の主人は僕だ、か? それならいいことを教えてやろうか?」

「いいこと?」

 首をかしげて聞き返しながら、マリオンは慎重に一歩前に踏み出した。

 男もそれに合わせてゆっくりと一歩下がる。

「お前の魔法は確かにすごいものだ。だが、おれが動けたのはお前の魔法のせいだけではないんだ。この」

 と、言ってユーグは自分の頭を指差した。

「頭蓋骨には、最初からおれの意思が宿っていた」

 ユーグは唇を笑みの形に吊り上げるが、目はまるで笑っていない。

「おれは、お前のご先祖様だ」


 その答えは、予想していた。

 いったいどうやって城に戻ってこれたのかはわからないのだが、やはりあの頭蓋骨はあの男、ローセングレーン家の禁忌、黒いはみ出し者のものだったのだろう。

 マリオンはきつい瞳で彼をにらみつけた。

「そんなことは、もうとうにわかっているよ。君はローセングレーン家に生まれた異分子だ。黒龍を蘇らせるためにフリーディア・クロスを生贄にささげた最低のご先祖様だ」

 吐き捨てるようなマリオンの言葉に、ユーグが再び、心底おかしそうに笑った。

「お前は何か勘違いをしているな、マリオン」

 勘違い?

 不審そうに眉をしかめたマリオンに、男はやれやれといったように肩をすくめてみせた。

「おれの血は確かにお前たちの中に色濃く残っているようだが、それはわが息子、セブランのおかげだろう」

「セブラン? わが息子?」

「そう、セブランはおれとメリッサ・ローセングレーンの間に生まれた息子の名前だ」

「何、だって?」

「ほうら、お前は勘違いしていただろう? 黒龍を生かすためになんとかいう町の娘を誘惑したのはおれではないぞ。あれは息子のセブランがやったことさ」

『その娘が一人の男と恋に落ちた。やがて二人は結婚し、娘は一人の男の子を産んだ。父親である男は、やがてひっそりと姿を消した。娘は実家のローセングレーン本家へ戻り、その子供を育てた。その子供は長じると父親に似た黒髪のえらく見目のよい青年に育ったそうだ』

 おじい様の声がマリオンの頭によみがえる。

 マリオンの目が大きく見開かれた。

「では君は、君はローセングレーン家の娘が結婚したという行方不明の父親なのか・・・・・・」

 男の眉があがり、唇の端に皮肉な微笑が刻まれる。

「ご名答! あの絵の顔は息子のものだがね。そしてもうひとつ、教えてやろう」

 ユーグはその切れ長の黒い瞳を細め、ちろりと赤く長い舌を出して唇をなめた。

「おれは魔族だ」

 呼吸が止まりそうだった。 うまく呼吸ができない。

 マリオンは、両手で自分ののどを押さえた。 いや、わかっていた。どこかでそうかもしれない、と思っていた。信じたくなかっただけだ。

「気がついていなかったのかい? いまさらそんなに驚かなくてもよかろう? むしろ喜んでもらいたいくらいのものだな」

 ユーグがそんなマリオンの様子をながめて、にやにやと笑った。

 確かにそうだ。この尋常でない雰囲気は、普通の人間では持ち得ない。

「セブランはお前と同じさ。魔族の父親と人間の娘との間に生まれた混血だ」

 マリオンは言葉を失ったまま、否定するように首を左右に振った。 ユーグは面白そうにその様子を眺めながら話を続けていく。

「あの子が生まれてすぐ、メリッサはローセングレーン家へ戻ってきた。おれはセブランを取り返そうとメリッサのところへやってきた。だが、気の利いた魔法を使える者がいてね」

 ユーグは自嘲の笑いを浮かべた。

「おれは首をはねられた」

 それがあの頭蓋骨か。

「だが、おれは死ななかった。やっと城の地下へ逃げ込み、おれの首はずっと地下室で眠っていたよ。息子が大きくなったころ、おれは奴に自分の胴体を探させたよ。だが、見つからなかった。セブランにはお前と違って強い魔法は使えない。魔族といってもお前の父親とは種族が異なるからな」

 マリオンの目に涙がにじんできた。悔しいのか哀しいのか自分でもよくわからない。

 それを振り払うように咳ばらいをしてから、やっとひとつの疑問を口にした。

「では、黒龍を、よみがえらせようとした、理由は・・・・・・」

 声がすっかりかすれていたが、ユーグはちゃんと聞き取ったようだ。

「セブランがおれにためにやろうとしたことさ。黒龍の力を借りておれをよみがえらせようとしたんだろうな。だが、奴にはお前ほどの魔力も根性もなかったようだな。それきりだ。しかたなくおれは地下室で何百年も待ちぼうけさ」

 くっくっとユーグは意味ありげな含み笑いをしながら、マリオンに向かってゆっくりとウィンクをして見せた。

「というわけで、お前さんよりもずっと以前からローセングレーンの貴族の血筋とやらには、魔族の血が混じっていたんだ。大笑いだろう?」

 聞きたくなかった。

 マリオンは自分の耳を両手で押さえた。

 だが、あの低いトーンの甘い誘惑の声は、容赦なくマリオンの頭の中に入り込む。

 これが彼の力なのか。

 魔族に超越した美貌の者は確かにいる。

 それも人間では考えられないような美しさを持っているものだ。

 しかし、魔族の美しさというものは、人間のそれとは少し質が異なっている。

 それは姿かたちの美しさ、というよりも、にじみ出る魔の魅力とでも言うべきものかもしれない。

 そもそも美というものは、各個人によって感じる度合いが異なるものだ。

 ある者にとっては美であっても、ある者にとっては醜である、ということもよくあること。

 だとすれば、男も女もどんな趣味の者も一目で惹きつける者というのは、普通の美しさを持っているのではないと言える。

 視覚に加えて本能的な部分に深く働きかける魔族特有の「魅惑の魔力」というものが彼らの『美』であり、『魅力』であった。

 それは人を喰らい、日々の糧とする魔族の一部によく見られる力だった。

 マリオンの父親は魔族ではあったが、そのような遺伝子は今のところ息子には現れていない。

 同じ魔族でも種族によって微妙に性質が異なるのだろう。

 セブランの父親であるユーグは、その「魅惑の魔力」を持つ魔族の典型的な者であるらしい。

 まるで昆虫をその香りによって誘惑して、自らの栄養とするために喰らう食虫花のごとく、ユーグの深い闇のような黒瞳こくどうと低いトーンの背筋に響くような甘い声は、人間の理性を奪っていく。

 セブランは、そんな父親の魔族の性質を色濃く受け継いだ遺伝子を持っていたに違いない。

 だからこそ男も女も例外なく、その遺伝子にとらわれ喰らい尽くされる。

 さらにその忌まわしい遺伝子は、ローセングレーン家に深く食い入り、そして根を張った。

「貴族だ、平民だとごたいそうな御託を並べてみても、大笑いだな。ようは魔族の一員なんだ。お前とおんなじさ。奴らには、お前やお前の母親のことをとやかく言う資格などこれっぽちもありはしないのさ」


 マリオンの足が力を失い、ひざがかくりと芝の上に落ちた。

 そのまま芝の上に突っ伏して、大声をあげて泣き出したかった。

 こんなことになるなんて・・・・・・。こんな事実を知るなんて・・・・・・。

「仲間が増えてよかったな。これからお前は一人ぼっちじゃないんだぞ? 素直に喜べばいいじゃないか」

 ユーグの声が、闇の中へ引きずり込もうとする執拗な手のようにマリオンに絡みつく。

 低いトーンの甘く、しかし底なしの悪意に満ちた声が、マリオンの心に無数の傷をつけている。

 うちのめされた少年の姿にユーグは喉をそらし、いかにも楽しそうに笑った。

「では、これからおれの望みをかなえることにしよう。この娘の血を使ってな。おれの身体を本格的によみがえらせるのだ」

 だが、ユーグの笑い声が、一瞬でマリオンに理性を引き戻し、瞳にユーグに対抗する気力を溢れさせた。

「そんなこと、絶対に許さない!」

 ユーグが首をかしげてにやりと笑った。

「この娘が憎いのではないのか? 大丈夫、彼女にはちゃんと殺す前に教えてやるよ。自分の血筋がいったいなんだったのか、をね」

 マリオンは、ユーグをにらみつけたまま、ゆっくりと立ち上がった。

 そうだ、泣いている暇などない。やるべきことがあるんだ。

「絶対に誰にも、そのことは告げさせはしない。そして二度と君に大地に立つ力など与えない」

 ほう? と言った風にユーグの眉が上がった。

「誰にも告げぬ気なのか? お前たちは魔族の末裔だと」

 マリオンは深く息を吸い込んだ。

「そんなことは絶対させない」


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