第1話:上空一万メートルにて
敵だらけだ。見たこともないほどの数の、敵。上空一万メートルの大気の中で、私は身の丈二十メートルの人型戦闘機械・機兵に乗り、母艦である空中戦艦を背に浮かんでいる。
レーダーには無数の敵性反応があった。ゼタと呼ばれる、神出鬼没の謎の人型戦闘ユニットたちだ。
戦闘はすぐに開始された。圧倒的な数のミサイルが押し寄せ、その直後には無数のエネルギー弾が送り込まれてくる。戦艦の防御フィールドがなければ今ので消し炭になるところだった。だが、戦艦のジェネレータも今の猛攻で悲鳴を上げたはずだ。もう同じことはできないだろう。
「仕方ない」
――前に出て乱戦に持ち込むしかない。
私は機体を前に進ませる。僚機も横一列に並んでくる。
『何体いるんだ、これ』
『ざっくり三百』
『マジかよ……』
同僚間の会話を聞きながら、しかし私は違和感を拭えない。私はこの戦いの行く末を知っている。予感とか直感ではなく、知っているのだ。
にも関わらず、私はその結末に向かって動いている。止められない。
夢……と言ってしまえばそうなのかもしれない。
けど、それにしてはあまりにも生々しい。
私は機体に何事かを命じる。機体の背中に翼が生じる――見えていないのに、私はそうだと知っていた。
それを見た僚機たちが吶喊していく。意図を察したのだ。彼らとの付き合いも長い。
「行くぞ!」
だめだ。行ってはいけない。行ってはならないのだ。
ゼタは無数に湧いた。倒す数より増える数の方が多かった。僚機の反応が刻一刻と消えていく。
その中心に奴がいた。
「大佐、お前の目的は、なんだ!」
毒々しい色合いの機兵――病める薔薇。見間違えるはずもない。あの男の専用機兵だ。
だが私の前に立ち塞がるゼタによって、私は大佐に近付けない。「目的?」――嘲笑するように大佐は言う。
『――この宇宙を終わらせることだ』
「世迷い言を!」
だが私は知っている。この男にはそれができる能力があるということを。そして私にはそれを阻止することができないということを。
そんな私の思いをよそに、状況は進んでいく。私の機体が私に囁く。
『モード・イシュタル、レディ。――スカーレット、一撃を』
「悪いね、付き合わせてしまって」
『これが最期だというのなら、私は幸せです、スカーレット』
エネルギーで生成された長大な刃がゼタを文字通りに薙ぎ倒す。
「大佐ぁッ!」
『メビウスは終わる……』
まだ言うか!
私の機兵が持つ剣が、病める薔薇の刀と激突する。
刃が交錯するたびに時空震が引き起こされ、空域全体が軋んで音を立てた。
『受け容れろ、スカーレット』
大佐の声音には余裕すらあった。相も変わらず、恐るべき実力者だった。
「お前の好きになどさせるものか!」
だけど、ああ、だめだ。そうじゃない。
そうじゃないんだけど、私には正解が見えない。
私はただ、剣を振るうだけだ。私には本当にそれしかできなかったのか。それで良かったのか。
――わからない。
ほぼ10万文字で完結する予定です。
あと第一話はこんなですが、ハイファンタジー作品となります。
第二話以降をご覧いただければ。
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