第六話
タイアン
「よっ、レイくん」
レイ
「あ、タイアンさん。お疲れ様です」
タイアン
「お疲れ、アルバート殿下の行動には困ったものだな」
レイ
「はい。まさかスラム街から出でくるとは思いませんでした。本当にご自身の行動を省みて欲しいですよ」
タイアン
「確かに。でも街を自由にかける殿下が好きなんだろ」
レイ
「‥‥はい。街にいる時のアルバート様はとても楽しそうで」
タイアン
「愛されてるねぇ。アルバート殿下は」
「だったら、しばらくは僕と過ごせるのかな」
そんな兄様は嬉しそうに俺の方を見て微笑む。
「うぅ~。兄様ぁ」
「どうしたんだい?」
「兄様は優しいです」
「よしよし」
兄様にそう言うと、仕方ない子を見るように目を細めながらいつ振りかの頭を撫でてくれた。
正直なところを言えば気恥ずかしさもあるけど、それ以上に嬉しかった。
「ルシフェル、アルを頼んだぞ」
「分かっています。久しぶりに一緒に過ごせますし、僕としてはありがたいというか」
「そうか、それならば良い」
何でだろう、父様と兄様の会話が不穏な会話にしか聞こえないのは俺だけなのだろうか。
「では、僕たちはそろそろ退出いたします。この件についてお話をされるのでしょう?」
そう言って兄様はソファから立ち上がり、俺も兄様に続いて立ち上がった。
話し合いにとても参加したいのだけど、どうせ父様に追い出されそうだしなぁ。
「あぁ。フルガリスも良いな」
「はぁ、承知いたしました。その代わりこの件が片付いたなら纏まった休暇をください」
「考えておこう。そうだ、アル」
どうにかしてここで行われる話し合いを盗み聞きできるかと考えていると、父様が俺の名前を呼んだ。
「何ですか?」
「くれぐれも、盗み聞きなどという馬鹿なことをするんじゃないぞ」
「……はい」
釘をさすように語尾を強めながら父様は言う。
何故かフルガリスも頷いているし……。
流石は父様、俺が考えていることはお見通しらしい……。
……でも、人は時に諦められない瞬間というものはあるのだ!
「アル?行くよ」
「はい!兄様」
可能性がないわけじゃないと考えなおし意気揚々と俺は父様の書斎から出た。
「アルバート様」
「ルシフェル様」
部屋の外に出ると俺や兄様、それぞれの護衛が待機していた。
「レイ、部屋に戻っていたんじゃなかったの?」
「何をおっしゃいますか。私は貴方様の護衛です。その職務を放棄して、休むことなどありえません」
レイはそう、力強よく言った。
「いい護衛を持ったね」
「ルシフェル様、俺も同じ思いですけど?」
「そうだね。タイアン」
兄様の護衛は兄様に対して軽口をたたく。
そう、フルガリスと同類だ。
だけどそんな関係がうらやましくて、レイとそんな関係性になりたくて街へいっていたのかもしれない。
ただ単に、行きたかっただけなのかもしれないけど。
たとえ俺の心だとしても分からないことが不思議でならないな。
「アルバート様?」
考え込んでいるとレイが心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫。兄様」
「うん?」
「レイは護衛ではありません……友人です」
ふり絞ったその言葉は思ったよりも城の中に声が響いた。
「アルバート様ぁ……」
「そうかいっ。良かったね、レイ」
兄様は感動しているレイに笑いながら肩に手を置く。
急に肩に手を置かれたレイは恐れ多いというように恐縮して、カタカタと小刻みに震えている。
「兄様、レイが限界のようです」
「あ、ごめん」
「いえ……」
レイは絞り出すように言う。
「ルシフェル様、そろそろ」
「うん、そうだね。部屋へ移動しようか」
「そうですね」
タイアンの声掛けでその場から部屋へ、俺たちは移動し始めた。
それから、お互いに部屋に着くと軽く挨拶を交わして、眠りについた。
♢♢♢♢
眠りに就いていた頭に微かに扉をノックする音が聞こえてきた。
微睡のなかその音を聞いているとリンが部屋に入って来た。
「アルバート様、朝ですよ。お寝坊さんはいけませんね」
「リン……お寝坊さんじゃないよ。昨晩は寝るのが遅かっただけだし」
「そうですか。ですが、もう起きてくださいね」
そう言いながらリンは部屋のカーテンを開ける。
日光が眩しく俺の目に差し込み、眠かった頭が一気に冷める。
「兄様は?」
「ルシフェル様ですか?ルシフェル様でしたら、今朝早く図書館でお見掛けしましたよ」
リンは不思議そうに首を傾げながら、質問に答えてくれた。
されるがままに着替えさせられ、身支度を整えられると俺は早速、兄様の元へ向かうことにした。
もしかしたらもういないかもしれないけど行くだけ行ってみよう。
「リン、図書館に行ってくるよ」
「はい。ルシフェル様が見つかるといいですね」
「うん」
リンに見送られながら兄様がいたという図書館に向かう。
途中レイとばったり合い、一人だとまた変な行動をとるかもしれませんから、と一緒に図書館行く事になった。
全く、レイに信用されてないな。
「あれ、アル?それにレイもどうかしたのかい?」
図書館の手前で手に本を抱えた兄様が驚いた顔をして立っていた。
レイはさっと、兄様に礼をすると俺の横から半歩下がった。
「兄様。おはようございます」
「アル、その挨拶の時間はとうに過ぎていると思っていたのだけど」
「そうですか?」
正確な時刻を見ずに図書館まで来ていたから時間の感覚が今、ないんだよな。
リンに起こされて身支度を整えられたのはついさっきのことだったし。
やる事ないと暇でしかないし。
「まぁ、大方さっき起きたのだろう。全くいつもは行動力に溢れているのにそれを奪われたら途端に無気力になるのだから。本当にアルは見ていて飽きないな」
「やる事がないと無気力になるのは当然です」
「ふふ、そうかい。ところでアルとレイはこんなところで何をしていたんだい?」
「兄様を探していたのです」
「僕を?」
「はい。呪いの魔道具についてもっと知りたくて。あと、王国の犯罪の取り締まりの履歴も」
俺の言葉に兄様は今までの優しい笑顔を消し、目が笑っていない、怒っているときの笑顔になった。
助けを求めようと後ろに立っているレイを見ると反省してくださいとでも言いたそうな顔で見てきた。
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