第五話
モブ市民
「騎士様たちが人探していたみたいだけど、どうしたんだ?」
モブ市民2
「なんか、高価な方を探してたみたいだぞ」
モブ市民
「大変だな。もし、俺がその高貴な方を見つけたら、御礼金とかもらえねぇかな」
モブ市民2
「やめとけ、やめとけ。そんなこといったらお前が犯人だろ、って言われんだよ」
モブ市民
「そんな上手くは金儲け出来なねぇか」
重厚な城の扉を開けると城の豪華絢爛な内装の中に仁王立ちで父様のノアールが立っていた。
「陛下、無事にお連れしました」
「レイ、ご苦労。ゆっくりと休んでくれ」
仁王立ちの父様はレイに労いの言葉をかけると、レイは深々と臣下の礼をとり、下がった。
そして、父様は怒った顔で俺の方を向いた。
「と、父様……た、ただいま帰りました」
「アル、スラム街に行ったそうだな」
父様の声はとんでもなく低く、エントランスに響く。
「これには事情が……」
「ほう、執務室に来なさい。じっくりとその事情と言うものを聞かせてもらおうか」
逆らうことは出来ない父様の声に、おとなしく頷きついていくしかなかった。
しばらく城の中に歩き父様の執務室に向かう。
その道中は全く、父様は会話をしてくれなく、それが余計に気まずさを助長している。
城の家令である、ユライド・ゼシアが流れるような仕草で父様の執務室の扉を開けた。
「入りなさい」
「父様、アルが帰って来たのですかっ!」
部屋の中に入ると兄のルシフェルが勢いよく椅子から立ち上がり父様に聞いていた。
「あぁ。この通りな」
「アル!良かったどこにも怪我はないかい?怖い思いは?」
「この通り無事です。防御結界も展開していましたので」
「そうかい。良かった……」
兄様は胸をホッと撫でおろすような仕草をした。
「良かったではないわ。アル、ちゃんと説明をしてもらおうか」
「…はい。分かりました」
俺は観念して事情説明を始めた。
平民街で食事をしたこと、そこで魔道具が爆発したこと、スラム街に呪いの魔道具の販売元があると知ったことを隠し事なく話した。
「なるほど。まさかスラム街がそこまで荒廃していたとは。早々に手を打っておくべきだったな」
父様は机の椅子に座ると顎に手を当て熟考するように言った。
スラム街の問題は父様が長年頭を悩ませてきた問題だ。
この国は平和だが、スラム街はそうとはいかない。
スラム街の中は国の騎士でさえ入ることを躊躇うほどに荒廃している。
今回、行ってみて分かったがあそこで疫病が流行してしまった対処のしようがない。
疫病は流行ってしまってからは遅いのだ。
流行る前に手を打つことが最善だが、スラム街で流行ってしまったらある程度流行した後に平民街へ感染が拡大するだろう。
今の状態だと俺たちはその時点からしか疫病の存在を認知できないのだ。
「アル、他に分かったことは?」
「呪いの魔道具の販売者の名がタリーズということ、それにその者は黒髪で極東の出身だと言っていたようです」
「極東か…。ユライド」
「何でしょうか、陛下」
「すまないが、フルガリスを呼んできてくれ。あいつのことだ図書館にでもいるだろう」
「承知いたしました」
俺の報告にしばらくぶつぶつと何かを呟いたと、ユライドにフルガリスを呼んでくるように頼んだ。
フルガリスというのはこの国の宰相の名前だ。
本名はフルガリス・アスカマリア。アスカマリア侯爵家の当主だ。
幼いころから父様に仕え、父様が即位した後はそのまま宰相としての職についている。
父様の右腕として様々な手腕を用いて、父様を補佐してきたこの国にならない存在だ。
国内でも随一と呼ばれるほどの読書家で職務があらかた片付くとよく、城の図書館で読書にふけっている。
「さて、アル」
フルガリスのことについて考えていると、父様の低い声が聞こえてきた。
「な、なんですか……父様……」
「フルガリスが来るまでの間、先程の話の続きをしようか。スラム街に行った経緯は分かったが、どうして一人で足を踏み入れた。あれほど危険だと教えたはずだろう。どうしてレイを、騎士を待たなかった」
「それは……真相を突き止めたくて。つい」
恐る恐るそう口にすると、父様は深々とため息を吐くと頭を抱えた。
俺の横に座っていた兄様も同じような仕草をしており、流石、親子だなと感心してしまった。
「お前の行動力を舐めていた。確かに物事の真意を見極めることは悪い事ではない。むしろ必要なものと言ってもいい。だが、そこに危険が孕んでいるのならばもっと慎重に行動すべきだ」
「そうだよ、アル。アルが魔法の才に長けていることは知っている。謎を見つけると解きたくなる癖も。でもね、それでアルが危険な目に遭ったら僕たちが悲しむんだ。だからもう少し考えて行動しようね」
父様と兄様の叱咤しているはずの声がどこか心配するように聞こえた。
「……善処します」
「全く、本当に。お前が行方不明と報告を受けた時、どれだけお前の身を案じたか。そのせいでレイナは気を失ってしまったのだぞ」
「母様がっ!」
父様たちが心配していたことに申し訳なく思っていると、母様のレイナが気を失ってと聞き思わず立ち上がってしまった。
そこまで不安を与えてしまったことに罪悪感が心の中で増え続ける。
「安心しろ。医者の話によれば問題はないそうだ」
俺の表情をくみ取ったのか父様は優しく言う。
その言葉に俺はそっと胸を撫でおろす。
「後ほど母様に会いに行きます」
「そうしてくれ」
父様がそう返事をすると扉がノックされ、入るように父様が指示すると本を手に抱えたフルガリスが入って来た。
「何ですか?アルバート殿下も無事だったのでしょう?一件落着です」
執務室に入るなり、迷惑そうにフルガリスが言う。
国王である父様にこんな物言いが出来るのは恐らくフルガリスだけだろう。
長年を共に過ごしてきたからこそなんだろうな。
「もうちょっと自国の王子を心配しろ」
俺たちの方を見ながら父様が言う。
「貴方様のお子様ですから、そう簡単には死なないでしょう。それもアルバート殿下はとくに貴方様の気質をしっかりと受け継いであられますしね。でもまさかスラム街にまで足を踏み入れるとは思っておりませんでしたが」
「……私のことを何だと思っているんだか」
父様は呆れたように呟く。
「それで、何の御用でしょう。職務は終わったと認識しているのですが」
「残念ながら、職務再開だ。それにこの件そう簡単には落着しそうにないぞ」
「どういう意味でしょう」
「呪いの魔道具が平民街に流れ始めているかもしれん」
フルガリスはその言葉に迷惑そうにしていた顔から一瞬で眉間にしわが寄り険しい顔をしていた。
「本当ですか?」
「嘘なんか吐きはせん、こんな状況で。アルがスラム街で聞いてきたそうだ」
「そうですか。確かにあそこでなら発覚する危険性は少ないでしょうし。しかし、よくもまぁ、聞き出しましたね。スラム街の者から」
呆れたような感心するような声色で俺の方に視線を移しながらフルガリスは言う。
「親切な者がいたからね。助かった」
「そうですか、幸運でしたね。ですが、あまり危険な行動を取られると万が一の場合の対処が面倒くさくなるので出来れば控えていただきたいです」
フルガリスは遠回しに仕事を増やすなと言っているのだろうか。
にしても、王族に対して本当に礼儀をもっていないな、この人。
「それに関しては同意見だ。これ以上、頭が痛い問題をもってこないでくれ。スラム街内での呪いの魔道具の件はこちらで対処する。アルはしばらく街への外出は禁止だ。いいな?」
「父様それはあんまりでは……」
「いいな?」
「分かりました…」
あまりの言葉に反論しようとするが父様の圧に負けてしまった。
兄様は俺のしょげた様子に微笑ましそうに笑っている。
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