第三話
壺、割れちまったね。
結構気に入ってたんだけどね‥‥‥‥。
by 精霊の歌亭、女将
そうなんですか?
う〜ん、あ、すぐに新しいのお送りしますよ?
by バート(アルバート)
正体バラす気ですか‥‥‥。
by レイ
「おや、お友達はどこかにいったのかい?」
「はい。それより女将さん、この壺はどこで手に入れられたのですか?」
女将さんが不思議そうな顔でレイのことを聞いてきたのに、軽く返事をすると壺についての情報を聞き出すことにした。
レイに危険な行動はするなと言われたが、これは情報収集であって危険な行動ではない。
「極東の国から来たらしい行商人さね。このお店の食事にえらく感動したらしくてね、譲ってくれたんだよ」
「極東……そうなんですか。その行商人の名前とかお分かりになりますか?」
「さぁ?ただ、この辺では珍しい黒髪だったね。極東には黒髪が多いって聞くから気にしてはいなかったけど」
質問に女将さんも少し考えこむような仕草を見せると、そう答えた。
確かに極東の国には黒髪の者が多いと聞くが、それでもこの国には黒髪がいないわけではない。
「この壺はなんと説明を受けたのですか?」
「確か、商売繁盛の効果がある壺だと聞いたね」
「つかぬ事を聞きますが、魔道具の登録については知ってますか?」
「…?あ、あぁ、勿論知っているさね。登録しなければ罰則を受けてしまうからね」
「そうですか」
「何でそんなことを聞くんだい?」
「あ、いや、ちょっとした興味本位ですよ。それよりその行商人が今どこにいるか分かりますか?」
俺の質問に言いにくそうな顔をして女将さんは口を開いた。
「………スラム街だと言っていたね」
「スラム街………」
「お金がないらしいんだ」
「でもここで食事をとったと言っていましたが?」
「実はこの壺を料理の料金代わりにと、貰ったんだよ」
壺を指しながら女将さんが言った。
スラム街か、入るなと、父様やレイに言われたが気になって仕方がない。
まぁ一応?俺、この国の王子だし、国に不穏なことが起きる前兆かもしれないのなら未然に排除するくらいしなければいけないよな。うんうん。
「あの、女将さん」
「なんだい?」
「もし俺の連れが戻ってきたら俺が聞いたことを話してください」
「ボクはどうするんだい?」
「……少しその行商人の方に会ってみようと思います」
「まさか!スラム街に行く気じゃないだろうね⁉︎」
吃驚したように少し語尾を強め女将さんが言った。
「さぁ?どうでしょうね」
「はぁ~、行く気なら止めないが気を付けな。スラム街は知っていると思うが、凶暴な奴らが多くいる。飢えた者たちが沢山いるんだ。覚悟して行きなよ」
「分かっています」
言葉を濁した俺に女将さんは諦めたようにため息を吐くと俺をしっかり見て、真剣な表情で警告をした。
そして俺は精霊の歌亭を後にして北の平民区域のスラム街に向かった。
女将さんにレイへの説明を託して……。
♢♢♢♢
しばらく歩きを進めると、街の中とは違う荒んだ空気が路地裏から溢れていた。
「ここか」
「坊主、そこは入らない方が良いぞ。そんな綺麗な身なりで入るもんなら……」
路地裏に歩を進めようとすると後ろから親切なおじさんが声を掛けてきた。
「ご忠告ありがとうございます」
「分かればいい。じゃあ気を付けて帰れよ」
「はい」
俺の返事に満足気に笑うと手を挙げ、振りながら歩いて行った。
親切な方ではあるが今の俺には聞けない忠告だ。
入ると決めたからには、歩を進めるしかない。
改めて覚悟を決めると、路地裏に入った。
入るとそこは濁った空気が流れていた。
「空気が悪い。こんなんじゃ、疫病が広まったらひとたまりもない」
口を押えて奥に入って行くと壁に座る人々の目は怒りや憎しみが含まれている。
「おいガキ、こんなところに何の用だ。お前みたいな奴が来るとこじゃない。出ていけ」
「それは出来ない相談ですね。俺は少し用がありますので」
「あぁ?こんなとこにか?馬鹿言え、良いから出ていけ!」
ぶっきらぼうだが心配してくれている様にしか聞こえない。
抑えなければその親切心に笑みがこぼれそうだ。
「貴方、名前は?」
「急になんだ?」
「いえ、少し気になっただけです。教えていただけませんか?」
「ちっ、はぁ。フォレスだ。これで良いか?良いから去れ」
「えぇ、ありがとうございます」
少し驚いてしまった。
若干冗談半分で名前を聞いてみたが答えていると思わなったけど。
さっきも思ったがこの人何気に優しいみたいだ。
「でも、去ることは出来ないですけど」
「くそっ、望みを聞いてやるから早くいえ」
諦めたのか路地裏の男は吐き捨てるように言った。
「ではこの辺に黒髪の行商人が住んでいる様なのですが、知りませんか?」
「あぁ、極東のか。知っているぞ」
「名前と居場所を教えていただけませんか?」
「名前はタリーズだったな。スラム街のこの道を奥に行けばタリーズの店がある」
顎に手を当て考え込むようにしながら言う。
「ありがとうございます」
「行く気なんだな」
「えぇ、まぁ。用があるので」
俺がそう言うと、フォレスは徐に立ち上がりため息を吐きながらどこかへ去って行った。
本当に最初に出会ったスラム街の住人がフォレスで良かったな。
そう思いながら俺はスラム街の奥に足を進めた。
スラム街の奥はフォレスと出会った場所よりも空気が悪く人だけでなく雰囲気までも憎悪に満ちていた。
歩く俺を見る視線は今にも俺を殺してしまいそうなほどにひどい憎悪が混じっている。
正直、怖くないと言ったら噓になるだろう。
だがそれよりも興奮が勝ってしまっている。俺の悪い性格だな。
「へへへ、そこの坊ちゃん、こんなところに迷い込んでどうしたんだ?俺が外に連れて行くぞ」
極東の黒髪の人物、タリーズの店を探していると、下品な笑みを浮かべた男が俺にゴマをするように話しかけてきた。
ここまでくると思惑が見えすぎて逆に気持ちが悪い。
「結構です。俺は迷い込んだわけではなく、自らの意思で来たのですから」
「はぁ?………クハッハッハ、馬鹿なのかお貴族サマ?自ら襲われに来たのか?」
怒りを募らせるように、彼の声はどんどん低くなっていく。
それにしても俺のこと貴族だと思っているのか。まぁ、あながち間違っていないから訂正はしないし、面倒くさい。
けど、平民服着ているのに貴族だと思われたからな、もう少し服装を考えないと。
「いいえ、タリーズと言う人の店を探しているのですが」
「タリーズ?あぁ、あのいけ好かない極東か。なんだ、あいつの知り合いか?」
「いいえ、面識はありませんよ。ですが、彼に用がありまして」
「物好きの貴族の小僧ってわけか」
今までの憎悪に満ちた表情から一転、スラム街の住人の彼は呆れた人間を見るような、奇異の目で見るような顔で俺も見ながら言った。
「まぁ、そうですね。それで、知っていますか?」
「知ってはいるが……ただで情報を教えるわけには行かないな」
彼は挑戦的な目で俺を見てきた。
「何か対価が欲しいと?」
「あぁ。話が早くて助かるぜ」
「何を望みますか?」
「そうだな。お前の身柄とかどうだ?」
「ご冗談を。それでは対価として釣り合っていませんよ」
「ここまで来て、命乞いか?」
「いいえ。俺は貴方の持っている情報に比べたら何の価値もない人間ですから」
俺のその返答に、スラム街の住人は顔をゆがめた。
大体、俺のどこを見て価値があると判断したのだろうか。
俺についている付加価値は肩書ぐらいなものだ。
まぁ、その肩書もたまたま王家に生まれただけに過ぎないのだから、俺自身についている価値というものは存在しないのかもしれない。
前回から前書きで登場人物達の一言会話を書いて見ているんですが、これが中々に難しい‥‥‥。
あと、早くもネタが尽きそう‥‥。
こんな場面見たい!などのご意見がありましたら教えていただけると嬉しいです!
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