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探求王子の事件簿  作者: 音詠
2/5

第二話

事件が動き出す‥‥‥。

俺も動き出するとするか!

    by アルバート・ミリアム・シーシリン


お辞めください、アルバート様。

良い加減に自重なさってください。

    by レイ・タデスク

シシーリン王国城下、王都ラシュには東西南北に区域が存在する。

東は学園区域、西は商業区域、南は貴族区域、北は平民区域だ。

北の平民区域の一角にはスラム街と呼ばれる貧困層が暮らす場所がある。

足を踏み入れることなかれ、というのがスラム街における認識だ。

父様に散々、入るなと言われた。

こないだはレイにも注意されてしまった。


「今日はどこに行くの?バート」

街をぶらぶらと歩いているとレイが後ろから聞いてきた。

城下にお忍びで来ているときはアルバートからバートをもらった名前を使っている。

レイにも敬語は辞めてもらっている。最初はかなり渋られたが。

「前に街に来た時に食べた店に行きたいな」

「あぁ、確かに美味しかったね」

「あそこの名前は確か精霊の歌亭だったっけ?」

「はい。精霊の歌亭は商業区域の北側でしたね」

「レイ、口調」

「あ」

ついつい口調が戻ってしまうレイに軽く言うとしまったとばかりに口を押さえながら謝った。

その様子に笑いながら商業区域にある精霊の歌亭に向かった。


「こんにちは」

「あら、いらっしゃい。お久しぶりなお客さんだね」

ドアを開けると、精霊の歌亭の女将が接客をしながら元気な声で言った。

「覚えてらっしゃるんですか?」

「当り前さね。空いている席に座っといてくれ」

「分かりました。空いている席は……」

「アルバート様、こちらに」

女将さんの言葉に俺が空いている席を見つけていると、レイが耳元で本名を呼び店の角を指さしながら案内した。

レイは平民の格好をしている俺に合わせて同じく平民の格好をし、友人のように見えるように無理して口調を変えてくれているが、店内での場所は護衛の顔に戻る。

俺はそれを拒むつもりはない。

俺に付き合ってもらっているんだ、そのくらいしてもいいだろう。


「なに、食べるのか決まったかい?」

席に座りテーブルに置いてあったメニューを見ていると女将さんが聞いてきた。

「では、このサラダボールを。バートは?」

「俺は、う~ん、あ、スライムパスタをお願いします」

「えっ、ちょ、アル、バート?いや、あの」

レイは俺が選んだメニューを聞き、戸惑ったように声を上げるが思うように言葉が紡げないようだった。

「珍しいね。スライムパスタを頼む人を見たのは久しぶりだよ」

「そうなのですか?」

俺が驚いた声を上げると、女将さんは笑った。

「なんせスライムだからね。誰も食べたがらないのさ」

「あぁ~、確かに」

「それにしても利益にならないものをよくメニューとして残していますね」

「まぁ、スライムは安価で、多少仕入れる分には損にはならないしね。稀に注文するお客さんがいるからね、仕入れないわけには行かないのさ」

女将さんはそう言いながら俺の方を向いた。

なんだか変人扱いされているような気がしなくもない。

「女将さ~ん!」

「あら、呼ばれてしまったよ。スライムパスタとサラダボールだったね。待っときな、すぐに持ってきてあげるよ」

そう言って女将さんは別のお客さんの元へ注文を取りにいった。


「アルバート様。本当にお食べになるのですか?」

その様子を見ているとレイが不安そうな顔で聞いてきた。

名前も元に戻ってるし……。

「食べるって、スライムパスタのこと?」

「はい」

「もちろん食べるよ。そんな料理か気になるしね」

「そうですか……。ですが、私が一度、毒見をしますからね」

「分かったよ。あ、それよりレイ、口調」

「あ、すみません」

本当にレイは心配性だ。

あの女将さんが毒なんていれるとは思えないし、過去に何人かスライムパスタを食べているなら安全だろうに。

でも……俺の身の安全を考えてくれるならありがたい気持ちはある。


「それで食事が終わったらどこに行くの?」

口調を戻してくれたレイが聞いてきた。

「そうだなぁ、リンへのお土産でも見に行こうかな」

「へい……お父さんとお母さんへは買わないの?」

「父様は市井の物は人から贈られるよりも自分で好きなものを買われる方だし、母様は遠慮して受けとってくれるか分からないからね」

「そうですか……」

レイは気まずそうに目を泳がせながら目をそらした。

何も気にすることないのに。

そもそも父様は身分には合わず市井の物を好み、ご自分で気に入って買われたものしか収集しない。

失礼ではあるが変わり者と言わざるを得ない。

いや俺も大概なのか?父様の血をしっかり継いでるな、確実に。

母様は、母様で謙虚すぎて贈り物を受け取ってくれるか怪しすぎる。


「気にしないで、レイも欲しいの…え?」

レイに励ましの言葉をかけようとすると、お店の扉の前ら辺から何かが破裂する爆発音と人々の悲鳴が聞こえてきた。

レイは俺をかばうような体制をとり周囲を警戒し始めた。

「アルバート様、防御結界の展開を。私は状況を確認してきます」

「俺も行く」

「アルバート様⁉︎危険です」

「ここで待っている方が危険だと思うけど?俺の身にもしも何かがあったら防御結界を展開しているとはいえ、守るのは厳しいんじゃない?」

「……はぁ、分かりました。ですが、危険な行動はなさらないように」

俺の言葉にレイは諦めたように息を吐き言った。

レイには悪いが正直、何が起こったのか気になってしまう。


近づいていくと女将さんと数名の客が店の前にある台の周りに集まっていた。

確か、あの台には綺麗な意匠の小さな壺のようなものがあったはずだ。

「どうかされましたか?」

「あ、すまないね、驚かせて。この壺が急に破裂してね」

レイが女将さんに聞くと女将さんは困ってように割れた壺を見ながら言った。

その視線を辿るように俺たちも壺の方を向くと台の下の方に割れてしまい、破片が散乱していた。

ん?何か、あの破片、違和感を感じるな。

「………アルバート様」

その破片を見ていると不意に後ろからレイに声を掛けられた。

その声は明らかに警戒を増した声色だ。

「どうした?」

「あの破片、何か感じませんか?」

レイも地面に落ちている破片に違和感を感じているようだが、具体的に何かというのは分からいらしい。

俺はその違和感がなにか、もう一度よくその破片を見ると微量だが魔力の波動を感じた。

「レイ、城下の警備隊に連絡を」

「なにかお気づきになったんですか?」

「魔力の波動を感じるんだ」

「それは……っ!」

「登録の確認をお願い」

レイは厳しい顔つきのまま聞いてきた。

この国では魔力を付与した道具、魔道具を扱う際には王国法、魔道具規定により〝魔道具に分類されるものを所持する際には所持者を示す証明書を発行し、情報を登録しなければならない〟という規定がある。

全ての登録情報は王国の情報省に管理され必要な時に登録があるかを調べる。

登録がない場合、登録を怠った責任として魔道具の危険性に応じて罰金、最悪の場合は懲役刑に処される。

「承知しました。アルバート様、くれぐれも防御結界を解除なさらないでください。それと危険な行動はとらないでください」

「分かってるよ。さ、早く」

「それでは、すぐに戻ってきますので」

それだけ言い残すとレイは心配そうな顔で俺の方を振り返りながら走って行った。


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