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『プレイヤー』と『波動光線』

「キミはなかなかにひどい男だね。」

ベントマは言う。

「だからかな、ソゲスの性格をよく理解している。コイツ、いや、もう消滅しちゃったからアイツ?は、普段は分体でしか矢面に立たないビビり野郎だけど、たとえば弱い奴を見せしめにしたいとか、浮かれた君達に絶望を与えたいとか、そこらのお嬢サマを片っ端から汚したいとか、クソな趣味が出た時だけは本人が出る。勿論ビビり野郎だからやられない為の備えは万全にしてるつもりだったんだろうけど、相手が悪かったっていうかまんまと騙されたっていうか···。ま、いいよ、こんな奴。居たら居たで便利だけど、クソ野郎だからね。」

そのカリットへの言葉にステファニーは、圧倒的強者にも怯む事無く進み出て、凛々しくこう反論した。

「彼とアレを一括りにする言い方は止して貰おう。たとえ彼がお前の言うように味方を利用する策を打っていたとしても、お前の言うクソ野郎ならここまで自らを犠牲にする事はない。そして結果、彼はお前の言うビビリ野郎を討ち取った。お前が何を言おうとも、私は彼と並んで戦えた事を誇りに思う。」

分体をいくら仕留めても本体を仕留めなくては意味がない。

ベントマはカリットが、たとえば不利な環境で戦う別の勇者一行をあえて見捨てる事でソゲスが彼等を見せしめに使いたくなるよう誘導するなどして、本体が矢面に来たくなるよう仕向けたと考えているようだ。

さらに言えばそれ以前に最初の猛烈な破壊によってビビリ野郎にカリットを警戒、つまり注目させる事に成功し、敗走する部下から報告された、彼の消耗を心配する執事や周りの本物の反応、逆手に取れそうな甘い性格などの隙、下衆野郎をイラ付かせ雰囲気をブチ壊したくさせる女性陣との謎のイチャ付き、等々をクソ野郎にあえて把握させ、その情報の全てが握らされたもの、つまり罠だったと考えれば、弱くもなく非常に仕留め辛い性質を持つ『アレ』のあっけない最期にも納得が行く、と。

ステファニーからしても『クッコロ隊が狙われる』とか『このままでは死を超える地獄に落ちる』等カリットの発言を思い返せば未来が見える彼が結末を取捨選択していた事は明白だと考えているが、それは『それが正しいのだからそうするしかない』故に辿り着いた判断としか思えない。

出会って僅かではあるが既に彼女は彼を心から信頼している。実際は単なる偶然なのだけれど。

何にせよ、わざわざ守護を買って出る理由はわからないが六大魔王の守護者として不足無き強さを持つとされる魔王ケイ・ベントマとの対峙。

どうにもならないのはわかっているがせめて女性陣だけでも逃がせればと考え、カリットは立ち上がろうとする。

製作サイドの強過ぎる愛と気合が伺えるベントマのクソゲーらしからぬ造形。

その美しさだけですら、ソゲスなどとは全く格が違う狂った強さが伝わって来る。

脚は使い物にならないので、自分でも何故出せるのか、これ自体が何なのかもわからない、闇で出来た触手を影から無数に出して身体を支え、自分で自分を半ば操り人形のように操作し、カリットは負けイベントに向き合った。

生きたまま魂ごと貪られるような反動は全く消えず、意識も入ったり消えたりで、それ以前に手負いでなかったとしても敵う気は全くしない。

それでも何とかしなくては。

一方ステファニーからするとここでカリットを失う事は人類勢力にとって甚大過ぎる損失。

自分に出来る全てを擲ってでも彼を撤退させなくてはならない。

しかし、どう逃がす?

性質上勝利は出来ても討ち取る事は難しいと考えていたソゲスを仕留めた大戦果は素晴らしいが、その代償として彼は最早後ろで虚栄を張るのが精一杯。

移動魔法も消される。使えないのではなく発動しようとする度に上から消され続けている。

遊ばれているかのように。

「(何なんだコイツは···。撃破など到底不可能だが、それでも逃げるには、一瞬でも出し抜けなさそうなこの化け物を何度上回る必要が···)」

その時散り散りに残っていた人間爆弾が、術者が消えて解放されるのではなく時間差で一斉に爆発する。

最後まで後味の悪いソゲスのやり口だが、戦いの火蓋はそこで切られた。

と言っても、

「逃げるぞ!!」

始まったのは撤退戦。

まるで球技、ボールはカリット。

夫を抱えたステファニーの叫びを聞くまでもなくベーコン夫妻隊は連動する。

「フッハァッ!」

炎の塊のような人間が単独で魔王に斬りかかった。

だが、

「···なんだお前か、老けたものだなアツクセイ。あの生意気で可愛かった子供が。」

ウザイヤツの炎剣を指2本で挟み止めるベントマ。

つい一瞬前とはどこか雰囲気が違う。

そんな敵の『中身の内の1人』がウザイヤツはわかっているらしく、

「悪ぃな師匠、俺だけ老けちまってよ。そんな事より、死んでくれや!!」

ここで事前に詠唱していた炎熱大魔法を発動。

広範囲でなく剣先に出力を集中させ、

「おっと。」

最上級の魔王であっても回避を選択しざるを得ない極大魔法級の斬れ味を実現した。

しかしそれでも何の焦りも見せず魔王は呆れ、

「何を言ってる。死ねだと?わかってるだろうがケイを殺しても私は死なんしコイツもコイツで分体だ。そもそも──」

ここまで喋ってウザイヤツの目論見に気付く。

「そういう事か、口が上手くなったなクソガキ。」

このやりとりで勇者らの眼前の個体が本体ではない事が露見した。

分体は性質上本体よりも強さが大きく劣る。

元の強さが図抜けているので意味は無いかも知れないが逃げるだけなら望みはあるのかも知れない。

その間にも、聞こえている者からすれば何故互いに見知っているのかわからないし師匠というワードも気になるが、ボールを持つ側はとにかくウザイヤツが時間を稼ぐ事を期待し全力で逃げている。

それにちらりと目をやり、ベントマが、

「しかしまあ、分体だろうが遠隔だろうが、お前一人で『私達』を止められるものか。」

そう言った途端魔法が発動し逃げる者達の動きが遅れ、まるで不可視な水飴の中で動いているような感覚になった。

たがその遅延魔法、ステファニーには効きが悪い。

何故ならベーコン夫人隊は当人にも鎧にも過剰に高い魔法耐性が備わっているからで、特にステフは実力の高さからさらにそれが大きいが、それでも思う。

「(まずいぞ!これは!!)」

ただ逃げ辛くなるだけではない、敵はまだ城内に無数に居るのだ。

多少動けようがこの状態で襲撃を受ければ全滅しかねない。

その時、

「チィッ!」

フォタスクが味方全体に守護魔法を無詠唱で発動し、それを見てウザイヤツは空中戦を行いながら、逃走に関係しない内容でも消す気があるのかを確かめるように攻撃魔法を連続発動しつつ魔王を回り込ませないよう斬り結び続けている。

カリットとは違い完全に制御されたものだがベーコン家執事も力を解放して化物と化し、同時にガラスを打ち破るように自身を纏う遅延と拘束の魔法を破壊した。

「へーえ!なかなか強い子いんじゃん!いいね、ボク達魔王連合はキミ達を歓迎するよ?降伏しなよ?」

魔王ケイ・ベントマの一人称が私になったりボクになったりしている?

そして、

「ちょっ、待っ、もったいないって!」

何故か一人騒いで自問自答をしている?

すると次の瞬間ウザイヤツは急に強くなった魔王の攻撃をいなし切れず魔力を限界まで纏わせ強化した筈の剣が崩壊、そこに回避不可能な速過ぎる追撃。

だが、

「気に入らない男だが、カリット様の為に命を擲った気概は買ってやる。」

見せしめ目的であろう狂った威力の攻撃にフォタスクが割り入り戦友の命を守った。過剰に展開した筈の魔法障壁を全て破られ二人して瀕死になるほどの紙一重で。

「(ニコエッグ様ならこれを止めたのだろうが、平穏で鈍った私には荷が重い···か···)」

敵は分体だというのにどうしようもなく強い。

そして他の魔法は通っても、どんなに工夫しても、主を逃がす為の魔法だけは絶対に消されてしまう。

それでも逃がさなくては。

「(ソゲスと取り巻きだけなら私とこの男だけで敗死だけは無かったというのに、運がない。)」

自分の命はここで終わるだろう。だが後悔は無い。

「ニコエッグ様、私はあなた様の元へ参ります。カリット様は必ず守ります故、どうか···成長を見届けず死ぬ事をお許し下さい!!」


一方逃げる側も手を尽くしている。

だがクソ下衆野郎ソゲス・ヤロークがただ殺されるだけな訳もなかった。

どうやらカリットの方が大幅に上位の存在であったらしい為に効きの効率が悪いとはいえ、通常では考えられないほどの強い呪いが魔王を仕留めた彼を蝕み、苦しめ、それは彼を抱え逃げるステファニーにも染み出している。

ただしそれは呪い自体が強過ぎる為に無関係なところにも染み出ているだけで、幸いにもステファニーはその類いの耐性も過剰な事から、その影響は通常の人間なら容易に発狂する程度の激痛と精神撹乱だけで済んでいた。

つまり呪いの対象そのものであるカリットが受けている苦痛はその比ではない。

さらに敵にはソゲスが使う機会が無かった切り札がそのまま残っていた。

たとえば捕らえた人間の女性を改造し本来は難しい筈の繁殖を強引に可能にするなどして産ませたクソ下衆野郎の子供達。

その多くは母体の命を食って生まれ、すぐに育つがすぐに死ぬ、言わば使い捨ての存在。

けれどその力は混血かつ紛い物の如き命ながらも魔王の子。

それが逃走者らの前に数体現れたのである。

さらにその数倍にも及ぶ、来たるべき時の為に冷凍睡眠や封印で眠らせていた個体が地下で目覚め始めた気配までもがあった。

しかもそれすらおそらくまだ一部で、目覚めていない個体がどれほど居るか、最早想像もつかない。

さらに言えば拠点だった場所はこの城だけではなく、個の力では六大魔王や守護者に全く太刀打ち出来なくとも、虎視眈々と、劣化だろうが擬似だろうが準魔王級戦力を蓄積し続け、いずれ総合力で上位の存在を上回る事でクソゲス野郎は世界を支配するつもりだったのだろうが、少なくとも奴の野望はカリットにより潰えた。

とはいえ遺児の中には普通に繁殖可能な対象との間に生まれるなど寿命に問題の無い者も居る。

それが野望を引き継がないとも限らないのだ。

しかしある種の火事場の馬鹿力かこの刹那だけで全てを察したカリットは、むしろこの状況の利用を思い立つ。

これまでソゲスが生存していた、つまり見逃されていた事からして六大魔王はクソ下衆野郎がいつでもどうにでもなる程度の戦力しか持っていないと見ていた事が予測出来るが、実は裏で力を蓄えていた事が露見すればどうなるか。

この場合別に六大魔王撃破の戦力として遺児らの総合力が足りているかどうかは問題ではなく、ここで彼等に『自分達は六大魔王に駆除される』と考えさせられたなら、生きたいという気持ちを利用し、誘導し、その力をケイ・ベントマに差し向ける事も不可能ではない。

なお遅延魔法耐性の差と位置関係的にベーコン夫人およびベーコン隊の多くの面々は現在丁度カリットを抱えるステファニーとの合流状態。

ソゲスへの忠誠心の無さからか幸い残存戦力の戦意は遺児を含め全く無く、攻撃して来る気配が無いどころかむしろこの場を離れたがっているように見えるので戦闘はせず、呪いの影響でほぼ効かないが使える者が総出でカリットに回復や解呪をかけ、同時に相手の手落ちを期待して移動魔法らも使って使って使いまくる。

そんな中でカリットからの密かな策謀提案。

それを受けてステファニーは思った。

「(何だこの男は···。いくら未来が見えているといってもこの絶望的な状況で諦めず、想像し難い地獄の苦しみの中でどうして起死回生の一手を打ち続ける事が出来る···?!)」

もう頼りにならないだろうと思っていたのに、足先と翼が崩れ落ちるほどの状態でも彼はその目に強い意志を宿している。

その覚悟に自分は並ぶ事が出来るだろうか?

いや、出来なくても構わない。

今やるべきは自らの全力を尽くす事。

もしかしたらこれも未来を見ての発言なのだろうかと思いながらステファニーは息を一度深く吐いて整え、言う。

「ここだけの話だが、クッコロ隊、いや、我が隊の数名は個人的には反吐の出る心酔の秘術を修めている。女が隊長の場合必修なので私も身に付けてはいるが、効果が通るかもわからんし本当に嫌だ。それでも、我儘は言っていられまい···」

この世界の公用語は日本語ではないが、それは日本語の技名で、その意味と何となく漂うバカバカしさを彼女らも理解しているその秘術。

「使うぞ、『お色気波動光線』を。」

聞いた瞬間カリットは思った。この状況でなんてクソゲーネーミングを出して来るんだと。

もしや先刻カリットの事を手駒にしたいと言っていたのはこれを使うつもりだったのだろうか?

あの時はむしろ嬉しそうに見えたがまあ相手によるのだろう。

そもそも波動なのか光線なのか、雰囲気重視で雑に付けた感が半端ない名前だが、それでもここでヤロークジュニアとでも呼ぶべき彼等を取り込めたなら状況は大きく好転するかも知れない。

だがカリットは、

「その前に、その技のリスクを、教えてくれ。」

呼吸もままならず死にかけているというのにまずステファニーの心配をした。

身体は崩れ落ち続け逃げ場の無い苦しみの中ですらも全てを意固地による気力で制御している。

「もしひどい内容なら、そうまでして助けるな。俺の事はいい、逃げろ。俺の命の使いどころはここだ。君達の為に、男の本懐を全うさせてくれ。」

自分の命については既に諦めており生き残る気は無い。

フォタスクやウザイヤツにも逃げて欲しいが彼等にも意地があってそれを理解し、逃がす対象の違いはあれど共に命を捨てる仲間だと考えている。

しかし同じく命を捨ててでもカリットを守りたい事は理解出来ても女性陣が自らを犠牲にする事は絶対に認めない。

たとえ男女差別に捉えられようと、指揮下全て彼を最優先に考えている事を理解していても、それでも自分は自分の信念の為に命の全てを燃やし尽くす。

だが、

「黙れ。我儘を言うな。身勝手に、美しい死に逃げるんじゃない。」

ステファニーは認めない。

「そして評価しろ。私は、私達は、今から生き恥を晒す。命を捨てるよりも強い覚悟を評価しろ。そうでなければ我々は報われない。」

それを聞き、『それが正しいのだからそうするしかない』事を察したカリットは絶望が芽吹く。

「嫌だ···」

それでも認めたくない。

「生きて···生きて帰るから!それだけは···君達が辛くなる事だけはやめてくれ!!」

嘘をついた。生きて帰れるとは思っていない。それでもやめて欲しかった。安心を偽装したかった。

だがそんな虚栄は通じる筈もなく、ステファニーは、強い口調ではなくあえて優しく言う。

「護るべき対象と思っていた我々に護られる気持ちはどうだ?大勇者カリット・ベーコン。お前もさぞ辛かろう、お前の心はもう折れた。心がそれでは最早助けたところで今後役に立たんかも知れん。それでも、護られてくれ。」

そして少し弾んだ声でこう続けた。

「どうやら私は浮かれているらしい。幼少期から勇者候補であると同時に政略結婚をさせる為に育てられた。中でも上の者は昔からお前を意識していたよ、だから自然と、私もな。だが自分の相手は自分で選ぶと決めていた。そして、呪詛の対策だろうと、この場だけの上辺でも、最期にこうしてお前の妻となれて、私は良かったと考えている。本当に私に相応しいかは知らないが、お前はちゃんと、私が選んだ男だよ。」

『最期』という言葉からして彼女もこの後を生きるつもりはない。

「未婚で世を去った者の慰霊として形式的に婚姻を行う文化があるが、良き相手を得れば、その者はこういう気持ちなのだろうな。もっとも、手を尽くしても生き残れん可能性の方が高い訳だが。だから二人してあの世へ行ったら、まずはどこか景色の良い所を散策し、その後食事をしよう。互いの理解と親睦を深め、先の事を考えるんだ。だがもしお前が生き残れたなら、お前は、私のようないい女と幸せになれ。いいな?カリット。私の素敵な旦那様。」

それを聞いてカリットは、内に秘められた記憶がまたも戻って涙が溢れて来る。

はっきりはしない。だがおそらくは、初対面ではないのだ。

朧気な思い出の中の女の子。

彼女はもしかしたらその子なのかも知れない。

顔すら思い出せないのに胸を締め付けられる。

雨上がりに手を取り合って遊んで、厚い雲間から差す急な日差しと足元の泥で滑った彼女を受け止めて、お互い照れたと思ったら「油断大敵」と投げ飛ばされ泥だらけになり、「なんでだよ」と笑った思い出。

確信はないけれど何ともこれはステフっぽい。

好きだったのだろう。初恋だろうか?

思い出せなくても、鎧などまだ無い素顔で、物凄く可愛い女の子だったという事はわかる。

「(何だよカリット、お前、いいなあ、青春じゃねぇか。)」

自分は今カリットになっているが本当のカリットではない故の客観視点。

無我夢中過ぎて気付けなかったがここでようやく自らの状態に考えが及んだ。

もしかしたら自分は幽霊のようにカリット本人に取り憑いているのかも知れないと。

もしそうなら自分の行動は最悪だ。何故なら自分ではない肉体を勝手に操りその命を勝手に捨てようとしている。

「(だったら、死なせられねぇ···!)」

どうにか自分とカリットを切り離し、奮戦してでも相手を騙してでも何でもいい、彼ら夫妻を逃がせないだろうか。

そうだった名残こそあれこの世界はもうゲームではない。

生き残らせる事が出来ればゲームクリアなど無く彼等の人生は続いて行く。

この戦場に立った短い間にもう何度やれるかわからない事に挑んでやり遂げて来たか。

分離だってきっと出来る。出来てくれ。

ダメージも呪いも悪いものは全部俺が持って行く。

その時自分は名前も思い出せない中でどういう存在になるのか、でもどうせここで消える命だ、どうでもいい。

魔力も体力も何もかもが尽きたように思えても、まだ今この瞬間生きているのなら、その命は今燃やせる筈だ。

何にしても苦し過ぎる結末。

望んで来た異世界は甘くなかった。

でも、美しい死に逃げて何が悪い。

護られてくれだと?お断りだね。

君達は幸せになりなさい。俺はその為に、ここで死んでやる。

カリット、もとい、プレイヤーがそう覚悟を決め、命の力を振り絞った直後、それによる何かを悪寒として感じ取ったベントマの中身達が、既に奮戦の末虫の息であるウザイヤツとフォタスクを操り人形に殺させる前に叫んだ。

「(ケイ!!カリット・ベーコンを殺せ!!!)」

『今すぐ』を付け加えなくともそれがわかる、とんでもない焦りよう。

その強い感情を反映すべくとんでもない速度で即座に距離を詰めるベントマだが、この時勇者とプレイヤーとの分離も既に始まっていた。

そして同じタイミングでお色気波動光線の予備動作に入っていたステファニー達はベントマが起死回生のそれを潰しに来たと考え、儀式に関係しないステファニー指揮下が渾身の防御障壁を、カリット隊も網のような緩衝法術を用いつつ陣を展開。

ベントマの中身達はお色気波動光線に対し起死回生の手というほどには警戒していないが邪魔になる事は確か。

カリットの闇の触手などもそうだがそれはベントマの消失魔法では消せない類いのもの。

そもそもこの操り人形の消失魔法は万能ではなく、移動や転送、回復の無効化など敵を逃がさない事に特化しており、他の大抵の魔法も消せなくはないのだが作業負担と魔力の効率が悪いために必要な時のみ技量と豊富な魔力によるゴリ押しで消している。

そして移動でもウザイヤツの爆炎移動術のようなものは攻撃魔法の応用であるため消しにくい。

「トドメくらい刺してくれや!」

虫の息の筈のウザイヤツがベントマの背後を追えている?!

血塗れの魔王化フォタスクもそれに続いてほんの刹那防衛陣形との挟撃の様相になったが、

「あぁウザってぇッ!!」

またも口調が違うベントマが放った強烈な衝撃と光の波動が防衛線と背後の両者を共に弾き飛ばし、結果、退かずにそれを受けたステファニーらの鎧の大半が破損。

だが、

「脱ぐ手間が省けたぞ。」

ベントマの追撃を受け止めたことで剣をも砕かれながら美しく鋭い目でそう言い、何故発動の阻害が間に合わなかったのかに気付いた操り人形少女悪魔を対象から避けて、カリットからは見えないが素顔の女達が切り札を発動する。

「お色気···波動光線!!」

間に合わなかった理由、左腕のみ魔王と化したプレイヤーが巨大なそれでベントマを押し止める中、波動光線がヤロークジュニアに向け拡散。

「させるか!」

予めベントマが光の波動を使って突撃して来た理由は攻撃だけでなく波動光線の撹乱を意図しており、さらに出力を上げてそれを行おうとする。

だがそれは、新たに被さるプレイヤーの右手が許さない。

「ふ、ふざけやがッ···!!」

なりふり構わない魔力消費でプレイヤーの両手を吹き飛ばしたものの妨害は間に合わず、直後ベントマは退かざるを得なかった。

なぜなら、半ばカリットのままという不完全な状態だが化物の口から異質なまでに収束された電熱魔法が回避不能な速さで追尾を伴い発射されたからである。

分体とはいえ最上級魔王ですらも、目論見全てを擲って防御してなお負傷は免れない狂い切った威力で一気に城外近くまで吹き飛ばされ、その命中の衝撃波だけで敵味方問わず周辺のほとんどの者の耳が一時使い物にならなくなった。

ダメージの性質から魔王達は確信する。

今し方ソゲスを殺した経験がもう反映されているというか、この化物は既にそれを遥かに上回る再生阻害力を手に入れ、それは最早自分達をも殺し得る領域にある、と。

「(何だこいつ何だこいつ何だこいつ何だこいつ何だこいつ何だこいつ!!何だこいつはッッ!!!)」

ベントマの中身の一人、六大魔王ウンド・タントーサは戦慄していた。

「ふざけんなよッ!何でこんな設定にしやがったザメイン!それともリオラかッ?!」

この主人公は完全におかしい。

強過ぎるとかいう以前に話が違う。

たとえばこの戦いの最初も、降下時の極大魔法からして既にシナリオには無い展開。

とはいえ六大魔王らも本来のストーリー通りに進めば自らの身が滅びるため以前から事前に可能な限り改変を進めて来ており、それによって逆に勇者側のソゲス討伐シナリオの決行がいつになるのかも、本当にそれが起こるのかすらも見通せなくなっていたが、起こるのならばそこで勇者側を潰しておきたいと考えベントマら守護者にローテーションで警戒に当たらせていた。

中でもベントマは六大魔王全ての力を借りられる特性から事実上自分達をも上回る最強の札であるのに、今、分体とはいえ想定外の苦戦を強いられている。

そもそもがそれ以前に勇者を直接潰せれば良かったのだが、それが出来ない事情がなければ今こんな状況になってはいない。

それについてはいずれ触れるが六大魔王側にも懸念要素は少なからずあるのだ。

何にせよシナリオとは違う。

「設定な訳ないだろ。もうこの世界でレベルの仕様は無いとはいえ、カリット・ベーコンの初期レベルは確か11かそこらだった筈だ。多少鍛えたとしてもこんなバグみたいな強さはあり得ない。なら、マーメイン、コレはキミの失態じゃないのか?」

この会話は操り人形を介さない通信魔法での会話。

六大魔王はそれぞれ違う場所に居り、それぞれが事の動向を見ている。

リオラのその発言にマーメインは反論した。

「殺すべき相手を気紛れに弟子にする奴に言われたくないね。失態?お前らが思ってるほど俺は万能じゃねーんだよ、お前らだってそうだ。この世界はもう俺達の手を離れてる。変えたくても変え切れなかったからこういう事になってんだよ。能力的に干渉しやすいからってすぐ俺のせいにすんなよな。」

その口論はベントマにも聞こえており、言う。

「今は内輪揉めしてる場合じゃない。あと、一番ヤバいのはカリット・ベーコンじゃなくて、そこから分離しかけてるアレ。多分、他は逃がしてもいい、絶対殺せるから。でも、アレはここで仕留めないと多分困った事になる。多分アレは前に聞いた、別世界の魔王か勇者、もしくは···」

波動光線により次々集まるジュニア達には目もくれず、最強を自負する自分をも負傷させ遠く弾き飛ばした垂涎の獲物をその目に再び捉え、戦闘狂の本性を露わにした少女悪魔は再び戦場へと羽ばたき、満面の笑顔で核心に至った。

「『プレイヤー』自身···だ!!」

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