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ハメられた城下町・ミュンスターの秘密

 ユキオとアイシルはカラビア国の首都である城下町・ミュンスターの冒険者ギルドに戻った。

 ギルドの門をくぐる前に、アイシルはセクシーな自分の身体を半透明に変えて、周りから見えないように変身した。

 男だらけの冒険者ギルドに入るには、アイシルのたわわなバストの谷間や、すべすべの白い太ももは悩ましすぎるのだ。

 アイシルが言う。

「またハルミに鼻の下を伸ばしたら許さないからね」

 いやいや、そんなつもりないんだけど、とユキオは思うのだが。

 ギルドに入ると、早くもハルミ・イッチーがユキオに声をかけてくれた。

「今日、戻って来るなんて思いませんでした」

 ハルミが聖母のような笑顔を浮かべる。本当に人を落ち着かせる微笑みだ。

 ユキオの戦いの後の興奮も鎮まり、穏やかな気持ちになった。

 ユキオが言う。

「ハルミさん、依頼の薬草をお持ちしました。オープン!」

 ユキオはアイテムボックスを開けた。

 ハルミが驚く。

「えっ、空間から取り出せるんですか?」

 ユキオが説明する。

「そう。一時的に収納することができるんです」

 ユキオは大量の薬草の束を取り出した。

 痛みを消す薬草2種類をふた束ずつ、咳を鎮める薬草2種類をふた束ずつだ。

 ハルミがはしゃぐ。

「えーっ、こんなにいっぱい採ってきてくれた冒険者は初めて。しかも保存状態も新鮮です。これほどの量を扱うのは初めてなので、ユキオさん、ちょっと待っててくださいね」

 ハルミはいったん、奥のオフィスに入っていった。

 5分ほど待っていると、ハルミが

「ギルドマスターがお話したいと言っています。事務所の中に入ってもらえますか」

 とユキオを招いた。

 奥には「マスタールーム」と表示された部屋があった。

 ユキオがハルミと一緒に入って行くと、初老で髭をたくわえた長身の男性が待っていた。

「私はギルドの支配人をしているガーランドです。あなたがユキオさんですか」

「はい」

 とユキオが答えると、

「単身で一日でこれだけの良質な薬草を採取するなんて前例がない。これまで冒険者として経験を積んできたのですか?」

「いえいえ、駆け出しです」

 とユキオが答えるとガーランドが驚く。

「恐るべき素質のルーキですね。今回の薬草は金貨8枚で買い取らせていただきます」

 アイシルが耳打ちする。

「ものすごいお金だよ。しばらく遊んで暮らせる」

 それを聞いてユキオは、

「ありがとうございます」

 と頭を下げる。支配人が聞く。

「どこで薬草を採取したのですか?」

「サーシャ沼です」

 とユキオが答えると、支配人は、

「あの巨大吸血コウモリ伝説の沼ですか? 何か危ない目には遭いませんでしたか?」 

 とたずねる。ユキオは、

「巨大吸血コウモリなら戦ってきました」

「え〜っ!?」

 今度は本格的に支配人が驚いた。ハルミも叫び声を抑えるように両手で口を抑えている。

「で、平気で戻ってきたのですか?」

「はい。倒してきました。これがコウモリの牙です」

 とユキオは焼き尽くして炭に変えた巨大な牙を取り出して見せた。

 ガーランドはそれを両手で抱えて、触ったり叩いたりしてしばらく確認している。そしてこう言った。

「これは賞金が懸かった巨大吸血コウモリに間違いない。すごいお手柄だ。カラビア国から金貨30枚が支給されますよ。私の方から役人に連絡しておきましょう」

 ガーランドが続ける。

「ユキオさんは今、無印冒険者だが、ギルドはあなたをアイアン級、ブロンズ級を超えて、3階級昇格のシルバー級冒険者に認定します。これからも城下町ミュンスターの冒険者ギルドのメンバーとしてよろしく」

 ガーランドが手を差し出す。

 彼はきっと、この冒険者ギルドの評判を高めたいのだろうな、とユキオは思う。そのために実力のある者は冒険者には報奨を与えることで、もっともっと大きな成果を求めてくる。

 功績は評価してくれるが、きっと冒険者の生き方や人となりには興味ないんだろうな。

 そう思いつつも、顔には出さず、ユキオも右手を伸ばして、

「ぜひ、よろしくお願いします」

 と、がっちりと笑顔で握手を交わした。



 マスタールームを出たところで、ユキオはハルミにこう言った。

「ハルミさんに相談があります。2人だけで話せませんか」

 ハルミはユキオを見つめて、

「わかりました。ではこちらの席へ」

 とギルドの隅のテーブルへ招いた。

「相談ってなんですか?」

 とハルミが真剣な顔で聞く。

 ユキオが、

「行方不明のナーゼルくんの捜索のことなんです…」

 と切り出すと、ハルミは、

「仕事のことですか…」

 とがっかりしたような様子だ。何を想定していたんだろう、とユキオは思いつつも、こう続ける。

 ユキオとしては、ハルミのことを、信頼がおける人だと思い始めていた。

 素直だし、気が利くし、明るいし、仕事もソツがない。

 しっかりとコミュニケーションもとれる。

 そして、なんといっても裏表がないところがいい。

 だからこそ、隠し事の話をしても大丈夫、そうユキオは思ったのだ。

「実は、ナーゼルくん、もう見つかっているんです」

「えっ、そうなんですか。ではなぜ連れてこなかったのですか?」

 というハルミに、ユキオはナーゼルの両親の借金のこと、ナーゼルが奴隷商に売られそうになっていることを打ち明けた。

「わかりました。ナーゼルくんのことは内密にします」

 というハルミは、こう続ける。

「この城下町ミュンスターでも、ナーゼルくんの家庭と同様の話を聞いたことがあります」

「そうなんですか?」

 とユキオが聞くと、ハルミは、

「頭脳的な犯罪グループ集団が暗躍しているという噂があります。お金を持っていそうな家を狙って『投資』というものに誘ってくるそうです」

 ナーゼルのコスタ家がハメられたのと同じだ。ハルミが続ける。

「最初は、王家や貴族も御用達という話をされる。偽造の文書や、ニセ貴族を仕立てたりして

信用させるそうです。で、鉱山や商会に金を貸せば、貸した金はそのままで、利子がついて返ってくる、と誘うんです」

「手がこんでますね」

「最初は、定期的に利子を渡されるそうです。そこで信用しきったところに、今度はケタ違いの大きな投資話をもちかける。自分が借金してでも無理してお金を用意して渡すと、突然、行方をくらまされる。そして無一文で借金だけが残ってしまい、家庭は借金漬けにされてしまうという話です」

「ひどいな……」

「大きな声では言えませんが、家庭崩壊の被害は、城下町ミュンスターでも増えているようです。こんな話をするのも、相手がユキオさんだからですよ」

「俺も、ハルミさんだから、こんな相談をしたんです」

「じゃ、これは2人だけの秘密ですね」

 とハルミさんが、ユキオの手に手のひらを重ねてくる。

 真剣な話をしていたユキオだが、ハルミの突然の行動に心臓が弾けそうに高鳴る。

 自分の顔がみるみる赤くなるのがわかる。

 と同時に、アイシルが思いっきり、ユキオの肩をかかとで蹴りつけて、

「ユキオ、またハルミにチャラチャラして、イライラする男ね!」

 と、テレパシーで怒鳴りつけてくる。

「そんなんじゃないから」

 とテレパシーで応えるユキオだが、説得力なし、というところか。

 そんなことをまったく知らないハルミはすっかりユキオにロックオンだ。

 ユキオの手を握り、

「これからも連絡をとり合って、助け合っていきましょうね。毎日、冒険者ギルドに来てください。それとも、私がユキオさんのお家に行きましょうか?」

 とグイグイくる。

 アイシルは激オコになってユキオの肩を踏みつけ続ける。痛い、痛いよ。

「ハルミさん、俺が毎日ここに来ますよ」

 とユキオは、話を終わらせようと、席を立ち上がる。

 ハルミはユキオの腕に自分の両腕をからめながら、

「絶対ですよ」

 と甘えるような上目使いでユキオを見つめる。

 ハルミのやわらかくてたわわなおっぱいがユキオの腕に当たっている。

 心地よい感触にユキオの顔はますます赤くなっている。

 アイシルは足だけでなく、拳でユキオの顔を殴り始めた。

 アゴが小刻みに揺れ続ける。このままではKOされそうだ。

 それにハルミさんを長い時間独占しているユキオには、いつの間にか冒険者ギルドの男たちの睨むような目線が集まっていた。

「では、また来ます。ありがとうハルミさん」

 ユキオは逃げるように冒険者ギルドをあとにした。

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