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伝説の巨大コウモリ出現! 恐怖の吸血攻撃!!

 サーシャ沼のほとりで突然襲ってきたコウモリ軍団、それをユキオはアイシルの助けで撃退した。

 アイシルが言う。

「ユキオ、たぶん今の攻撃で、あなたはレベルアップしてるわ。ステータスを確認してみて」

 ユキオはうなずき、

「ステータス!」

 と唱えると、ウィンドウがオープンして

〈火炎魔法 レベル2

特殊技能 フレーミングヒート〉 

 の表示が見えた。

「すごいよユキオ、早くも特別スキルを取得するなんて」

 なにがなんだかわからないが、すごい、のか?

「火炎を凝縮させて一瞬にして命中させる技よ。攻撃できる範囲は力を凝縮するぶん狭くなるけど、強烈で超高温な高速攻撃が可能になるわ」

 ロックオンする時間が省略できるぶん、戦いやすくなりそうだ。

 アイシルがこう続ける。

「ここにはもう少し、何かありそうよ。もう少し奥に進んでみましょう」

 2人が歩いていくと、ボロボロになった風車小屋が見えてきた。

「前は村の人たちが出入りしていたみたいだね」

 アイシルが言う。

 ユキオは何か予感を感じた。

「アイシル、小屋のなかを探してみよう。俺がナーゼルだったら、きっとここに隠れる」

 2人で裏に回り小さな入口から中に入っていく。

 中は薄暗い。中央には風車の回転に合わせて動く大きな歯車がある。その動力を使って粉をひいていたのだろう、大きな石臼もある。

 その奥に隠れている、小さな人影が見えた。

「俺たちは敵じゃないよ。冒険者のユキオだ。行方不明の子供を探しているんだ」

 声をかけると、観念したように少年が姿を現した。

 10歳くらいの金髪で青い目の少年だった。

「ナーゼルくん…だね?」

 少年は黙ったままうなずいた。

 ユキオも子どものころ、家出をした記憶がよみがえる。お腹がすいて寒かったっけ…。

 あのときは、外にいる大人たちの目も怖かった。

 ナーゼルにも、まずは落ち着いてもらわなければ、話もしてもらえないだろう。

 ユキオはポケットを探ってみた。中にコンビニのおにぎりとキャンディがある。

「おなか、すいてるだろ?」

 少年がうなずく。

「これ、俺の国の食べ物だ。おいしいから食べてみなよ」

 ユキオはビニールの包みを開けて、シャケおにぎりをナーゼルに渡した。

 不思議そうにそれを見ていたナーゼルだが、おそるおそるその三角の先端を口にした。

 もぐもぐするナーゼル、すぐに目の色が変わった。

 おにぎりに夢中になってかじりつく。

 あっという間に完食してしまった。

「こんなおいしいもの、食べたことないよ」

 ナーゼルが初めてしゃべった。思った以上に幼い声だ。

 ナーゼルは落ち着いたようで、ユキオの肩に座っているアイシルの姿にも気がついた。

「そのちいさなお姉さんは誰なの?」

 ナーゼルが聞いた。

「私は精霊のアイシルよ。ユキオと一緒に冒険の手伝いをしているの。よろしくね」

 アイシルが笑顔で言うと、ナーゼルも

「うん」

 と笑顔になった。

 ユキオは、ナーゼルに行方不明になった経緯を聞いた。

 彼の家族、コスタ家の両親が大きな借金を作り、ナーゼルはその返済のカタに奴隷商に売られそうになっていたという。

 そこで両親はナーゼルを行方不明に仕立てて、姿を隠させていたわけだ。ナーゼルが言う。

「いま僕が帰っても、奴隷商人が捕まえにくるだけだから帰れないんだ」

 なるほど。ひとすじなわにはいかない案件だ。

 ユキオが彼にたずねる。

「ところで両親はなぜそんな大きな借金を背負ったの?」

「もともとパパもママも借金をするような感じではなかったんだ。いつも優しくて、一緒に遊んでくれて、家族の時間を一番だいじにしてくれていたと思う。だけど…」

 ナーゼルの表情が曇っていく。彼が続ける。

「詳しくはわからないけど『騙された』と怒っていた」 

「誰に騙されたか、わかるかい?」

「外で『投資』とかいうお金儲けの話を聞いてきたみたい。最初はいくらで始めるとか、お金の話をしていたんだけど…」

 ナーゼルはますます沈んだ表情になっていく。

「そのうち両親が、お金がないといってケンカをして、お互いを責め合うようになったんだ。しょっちゅうイライラしていて、僕に対しても、何かとどなり散らすようになった。わけがわからないよ」

 ナーゼルの目には涙が浮かび、いまにもあふれそうになっている。

「そのうち借金取りがしょっちゅうきて、ドアを殴りつけるようにノックしたり、すごい声で脅してきたするようになったんだ。そして金がないなら、子どもを奴隷証商に売って金を作れと言うんだ」

 どうやら投資詐欺で騙し、借金を作らせてハメていく手口のようだ。

 時代的には中世としか思えないのに、投資詐欺を仕掛けるヤツがいるなんて驚きだ。

 それにしても気の毒なのはナーゼルである。

 ユキオは彼に言った。

「君を探す依頼だったけど、それでは連れて帰るわけにはいかないな」

 ナーゼルがうなずく。ユキオが続ける。

「しばらくここに隠れていなさい。必ず戻って来るから――」

 ナーゼルは小屋を出るユキオとアイシルを見送ってくれた。

 ユキオはボケットからキャンディーの袋を出して、ナーゼルに渡した。

「お腹が空いたら、これをナメてしのいでくれ。これも俺がいた国のお菓子だ」

「ありがとう、よやユキオ」

 やっと名前で呼んでくれたな、とユキオは思う。

 そのとき、いきなり空が暗くなった。

 稲妻もとどろいている。 

 そして、すごい風が巻き起こった。

 その風の元は、何かの羽ばたきだった。

 ユキオは空を見た。大きな黒い影が上空に見えた。

 アイシルが叫ぶ。

「ユキオ、巨大吸血コウモリだ!」

 接近してくるにつれ、妖しく光る目、鋭い牙、広大な翼、すべてを根こそぎさらっていきそうな爪、その恐ろしさが見る者を圧倒する。

 まずはナーゼルを風車小屋の中に避難させ、アイシルとともに巨大吸血コウモリと対峙する。

 コウモリが襲ってくる。その翼の風圧で体が吹き飛ばされそうだ。

 巨体の割に動きが速く、ユキオの体を鋭い爪で捉えようとする。

 それを全速力で走ってよける。ギリギリでなんとかかわす。

 コウモリは反転して、今度は頭から突っ込んできて鋭い牙でかみつこうとする。

 ユキオの血を狙っているのだ。

 横っ飛びでなんとか逃げる。だが、ユキオの体は倒れたままだ。

 コウモリは上空から急降下してユキオを仕留めにかかる。

 ユキオは体を転がして、なんとか回避した。

 反撃のチャンスがまったく作れない。

「ユキオ、このままでは、みんなやられる!」

 さすがのアイシルにも焦りの色が浮かぶ。

「アイシル、俺に策がある」

 ユキオはさきほどとった薬草の一部を手探りで取り出し、それを火炎魔法の炎でいぶった。

 ハッカのようなすうっとした香りがあたりに広がる。

 すると先程まで高速で飛んでいた吸血コウモリの動きが明らかにおかしくなった。

 速度がにぶり、反応も遅れている。

 アイシルが聞く。

「ユキオ、何をしたの?」

「俺のいた国にもコウモリがいて、あるとき増えすぎたんで地元住民で協力して追い出した。そのとき効いたのが撃退スプレーで、ハッカの匂いがした。今日取った薬草の中にもハッカに似たものがあったから、コウモリの弱点になると思ったんだ」

「ユキオ、すごいよ。今度は火炎弾で反撃だ。意識を私に合わせて」

 アイシルが言う。ユキオも波長を合わせにかかる。 

 しかしアイシルが頭を抱えて苦しみ始めた。

「どうしたんだアイシル!」

「コウモリが強烈な超音波を放ってきた。テレパシーが使えないよ」

 人間には感じられないが、精霊には大きなダメージを与えているのだ。これではアイシルと力を合わせて火炎弾の狙いを定めることができない。

 コウモリが息を吹き返して、ユキオの喉元を狙って突撃してしてくる。コウモリの鋭い爪が、ユキオの服のすそを引き裂いた。

 はずみでアイシルも地面に転げ落ちる。

 次の一撃が来たら、もうもたない。

 アイシルが叫ぶ。

「ユキオ、フレーミングヒートを使うんだ。まずはヤツの耳を狙って!」

 もう猶予はない、ユキオはコウモリの耳の穴に狙いを定めた。

「ヒート!」

 詠唱とともにコウモリの耳に鋭い稲妻が走った。一瞬でその耳を焦がして灰に変える。

 コウモリは痛みを感じるより先に、超音波をとらえるための耳を攻撃されて方向感覚とバランスを失った。

「今しかない、ユキオ、コウモリの目、そして牙を焼いて!」

 ユキオは精神を集中させた。

「ヒート!」

 コウモリの目に火花が走り、

「ギエエエエ」

 この世の終わりのような悲鳴をあげる。

 「ヒート!!」

 連続攻撃、今度は牙を焼くッ。

 鋭い茶色の牙は一瞬で焔に包まれ、黒い炭と化した。

 完全に戦闘力を失ったコウモリはきりもみしながら沼のそばに降下して、ものすごい音を立てて岸部の草原に墜落した。

 フレーミングヒートの威力は凄かった。火炎の威力を凝縮しているから、一瞬でどんなものも焼き尽くす。しかもピンポイントの高速攻撃だから、狙われた者は、まず逃げることができない。

「ユキオ、恐ろしい吸血コウモリがもう復活しないよう、とどめを刺そう」

 アイシルが言う。

 ユキオはうなずいて、コウモリに火炎弾を何度も連続で撃ち込んだ。巨大な体は大きな炎をあげ、あたりは煙に包まれた。

 やがて、その煙が風に流されて消えていくと、巨大吸血コウモリの体は山積みの灰にかわっていた。

 灰の中に、緑色に光る部分があった。そこを掘り返してみると、燃焼しつくして炭となった吸血コウモリの両側の巨大な牙とともに、エメラルドグリーンに光る宝石が見つかった。

「ユキオ、この宝石は転移石だ。巨大吸血コウモリが伝説と言われるほど謎の存在だったのは、この転移石でふだんは姿を隠していたからだろう」

 アイシルが続ける。

「ユキオ、これを持っていれば、いざというとき転移魔法が使えそうだよ」

 ユキオはそれを自分のものにしていいか、ためらっていると、アイシルは、

「倒したのはユキオだから、おさめておきなよ。牙も戦利品だから一緒に持っていったほうがいいわ」

 ユキオはアイシルの勧めにしたがい、両方をアイテムボックスに収納する。

 続いて、風車小屋に隠れていたナーゼルのもとに行って、吸血コウモリを倒したことを告げた。

「ありがとう、これで安心して過ごせるよ」

 今度こそナーゼルとしばしの別れのあいさつをして、ユキオとアイシルはナーヴ村をあとにした。

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