ユキオ致命傷! 漆黒の暗殺者の猛毒攻撃!!
どう考えても今夜、バップの身が危ない。
ユキオはアイシルに、うさみみへの援軍を依頼するとともに、バップのあとを追った。
さっきは勇ましいことを言ったバップだが、もちろん内心は連日の惨殺事件が気になっていて、周りを警戒しながら歩いている。
商店街を抜けると明かりは極端に少なくなる。光は小さな手に持ったランプと、建物から漏れるわずかな光のみになってしまう。
先を歩くバップの方に、地を這うように忍び寄る影が現れた。
「フレーミングヒート!」
ユキオはその影に向かって火炎魔法を発射した。
暗すぎて狙いがはっきりしていない。
火炎魔法は地面を直撃していた。
その熱で怪しい影はバップから少し遠ざかった。
影の正体は巨大なクモのようだ。
全長で2メートル近くあり、毒グモのタランチュラのような形状をしている。
2夜連続殺人の被害者は毒を注入されていた。
こいつはきっと猛毒を持っている。
「バップさん、俺の後ろに隠れて」
「あなたは誰ですか?」と驚くバップ。
「父上から護衛を頼まれた、冒険者のユキオだ」
「ありがとう。でも相手は何? 殺し屋?」
「毒グモのモンスターだ」
とユキオは言うものの、その姿は暗すぎて、目で追い切れていない。
しかもここは街中だ。
フレーミングヒートを発射して外してしまったら、市民に被害を与える可能性がある。
毒グモはいきなり地面からジャンプしてとびかかってきた。
ユキオはバップをかばいながらかがんで、間一髪かわした。
ハルミから聞いた犠牲者の遺体の情報のとおり、首への攻撃を狙っている。
これを先に聞いていたから、なんとかかわせた。
しかし巨大タランチュラもユキオの動きはこれで見切っただろう。
しかもユキオもバップも倒れたままの姿勢だ。
もう1回食らったら、かわせそうにない。
巨大タランチュラは暗闇のなかで素早く動き、再びとびかかってきた。
ユキオはバップを横に転がしながら自分もよけようとする
しかし、一瞬、遅れた。
巨大タランチュラが毒牙をむき出し、ユキオに噛みつく。
激痛が脇腹に走る。
しまった。猛毒を食らった。ユキオは悔やんだが、もう遅い。
「ユキオさん、ユキオさん!」
と泣きながら叫ぶバップの声が、次第に聞こえなくなるユキオ。
死を覚悟した、そのとき、
「ユキオ、遅れてごめん、ソニアと、一緒にルシアも呼んできた」
とアイシルの声。
ソニアが叫ぶ。
「よくもご主人様を! 覚悟するのだ!!」
ソニアは大きく跳躍して、毒グモモンスターに向かう。
「ソニアハンマー!」
その一撃は、モンスターに正確にヒットした。
ウサギ族のソニアは、闇の中でもしっかり目が見える。
しかも人間より視界が広く、周囲を広く見渡せるのだ。
一方、ルシアは瀕死のユキオを救うために、ユキオの傍らに駆け寄って、
「エスナケアル!」
と呪文を唱えた。ユキオの体が大きな光に包まれる。
アイシルが「すごい」と驚く。
「毒グモの黒魔術による猛毒が、ルシアの強大な白魔術で分解されて消え始めた」とアイシル。
ユキオが意識を回復して起き上がり、
「クモは、毒グモはどこだ?」と言うや、ソニアが、
「ご主人様、お任せくださ~い!」
と2回目のハンマー攻撃で巨大タランチュラにとどめを刺した。
ルシアはぐったりしている。力を使い果たしてしまったのだろう。
ユキオはルシアを背負いながら、みんなと一緒にボーフムさんのもとに息子を送り届けた。ボーフムは跳びあがって喜び、息子を抱きしめた。
ボーフムの家でユキオは、バップから、地下で集会を行っていた集団の正体を聞いた。
バップが話すには、城下町商店街交流会に参加したら、やがて若手を中心とした勉強会に誘われるようになったという。
そこには、おとといと昨日殺された2人の若者もいた。やがてわかったのは、勉強会というのは名ばかりで、実際はカルトな宗教団体だということだった。
集団に入ったとたん、家族・親族への勧誘はもちろん、新規勧誘のノルマを課せられる。そして教団への寄付も義務付けられ、馬車馬のように働かされる。
入口はソフトで健全なコミュニティを装って、誰もを癒してくれるように装っているが、内部に入り込んだとたん、理不尽なルールで縛り付け、罵倒して、搾り取るだけ搾り取る。従順でない者は麻薬漬けにされて、精神を破壊され、廃人同様に追い込まれるのだ。
「恐ろしい宗教団体からセガレを救ってくれてありがとう。心から礼を言う」
ボーフムさんが深く頭を下げる。
「よしてください。らしくないですよ」とユキオ。
「このボーフム、恩義は一生忘れない。ユキオさんのために、生涯最高の剣をこしらえるよ」
「わかりました。楽しみにしてます」とユキオ。
「ここ一番の戦いに間に合うように、ユキオさんのもとに持っていく。待っててくれ」
ユキオはうなずき、一行はボーフム家をあとにした。




