伝説のドワーフ鍛冶職人・ボーフムさんの悩み
ドレスデンは大きく半分に分かれている。
一方は城下町ミュンスターの繁華街からそのまま続く市街地。
もう半分はドワーフたちが暮らしている街並みだ。
ドワーフ地域には彼らの家業である鍛冶屋や家具製作、工芸工房、木材店などが並んでいる。
そのためドレスデンは他の地域に比べると全体的に都会的で洗練された街並みである。
4人は二手に別れて連続殺人事件の犠牲者に関する聞き込みを始める。
ユキオはアイシルと組み、ソニアはルシアと組んだ。
犠牲者2名のうち、最初の一人は働きはじめたばかりの若者だった。城下町の靴屋で働いており、商品の仕入・販売や靴の修理を担当していたという。
もう一人はドワーフの青年だった。カラビア国伝統の工芸品製作を行っており、作品の完成度は高く評判だったそうだ。
2人にぴったり共通していたのは、犠牲者の家族への聞き込みがまったくできなかったことだ。
家族の家の呼び鈴を鳴らしても反応がないし、家の中には人がいるのかいないのかまったくわからない。
そして2人とも城下町商店街交流会の会員だった。ただしこれは多くの商店街の関係者が会員であるから、手がかりとしてはとても弱い。
そしてもうひとつ、周辺への聞き込みから、夜遅くまで出歩き、深夜に家に戻る姿をよく目撃されていたことがわかった。
2人とも若いから、女性に会っていたとも考えられなくはないが、どちらも女性との目撃情報がない。
この深夜外出に手がかりがあるかもしれない。
今度は商店街の店主たちにも話を聞いてみようと思って歩き始めたユキオに、
「あっ、ユキオさんだろ! ちょっと待ってよ!!」
と太い声が背後から飛んできた。
振り返ると、ドワーフのボーフムさんが立っていた。
なにかと縁のある鍛冶職人のボーフムさん。あとから知ったのだが、あまりに腕がいいので騎士たちからは「伝説の鍛冶職人」と呼ばれている。
酒も強くて、以前にはヤマタノオロチを酔っぱらわせるための酒を、ボーフムさんに調達してもらった。あのとき以来の再会だ。
「ごぶさたしてます。その節はありがとうございました」と微笑むユキオ。
でもボーフムさんには笑顔がない。いつも陽気な彼には珍しく、なんだか思いつめたような顔をしている。
「この町でユキオさんが事件の聞き込みをしていると聞いて、飛んできたんだ。急ぎの相談があってな……」
「お聞きしますよ。なんでしょうか?」
「実は、セガレのバップのことなんだ……」
ボーフムには鍛冶を継がせるために仕事を教え始めた若い息子がいる。しかしこのところ仕事が終わると遅くまで帰ってこないことが増えた。悩んでいるような表情も増えたため、ボーフムさんが話を聞こうとするが、事情は話してくれない。何かを隠しているようだ。それどころか、自分に何かあったら、これを開けてほしいと金庫の鍵らしいものを渡されたという。
「このところの事件と共通点がありますね」とユキオ。
「そうなんだ。セガレが次の犠牲者になるんじゃないかと、気が気でなくて」とボーフム。
「ではボーフムさん、今日の夜、バップさんが仕事の後、外出したら尾行してみますよ」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
そして夜、やはりバップはこっそり外出した。
ユキオはアイシルとともに、その後をつける。
バップは商店街に向かっていき、現在は使われていない古びた公民館の地下室に入っていく。そこにはランプの明かりが多数集まっていた。30人ほどの集会が行われている。
その中では、何が行われているのかは、はっきりわからない。しばらくは、声を合わせて何かを唱えているような音が続く。続いて、一人一人が、大きな声で何かを叫び、報告を行っているようだ。アイシルが言う。
「ユキオ、あれ使おうか」
「そうだね」
ユキオはアイテムボックスから転移魔法石を取り出し、
「ネストマージ!」と唱える。瞬間、2人は地下室の廊下に移動する。
廊下の壁から聞こえてきたのは、それぞれの会員の活動報告らしい。
「本日、ジギスムントは新規勧誘1名、お連れいたしました。お布施もお納めいたします!」
会場に拍手が響き渡る。
続いて、仕切り役らしき人物が発言する。
「次は、バップさんの番だね。今日はご両親の勧誘をお願いしていたけど、いらしていないね。どうしたの?」
「両親は勧誘しません」
「なぜ? こんなに素晴らしい教えなのに」
「こんな宗教に親を引きずり込むことなんてできない」
「オマエは間違っている!」仕切り役の口調が突然、厳しい叱責に変わった。彼はこう続ける。
「頭の中を清めなければならない。すぐにこの聖なるドリンクを飲め!」
バップがこう刃向かう。
「そんなものを飲むものか。どうせ危ない薬が入っているんだろう。僕はもう抜けさせてもららう」
「いいのか。そんな発言は、神の教えに背くぞ」
「何を言われても、僕は辞める」
「この教えから逃げた者は、すぐに命を落とす。おとといも、きのうも、一人ずつ、無残な死体に変わってしまっただろう」
「おどしても無駄だ!」
バップはそう捨て台詞を吐いて、地下室から逃げ出した。
場はざわつくが、仕切り役の男が、
「追う必要はない。すぐに天罰が降りる」
というと、すぐに会場は鎮まった。




