エルフの驚きの情報ネットワーク、そして王女ルシアが秘めた白魔術
エルフ族のウィルランド国王の前に、一人の伝令エルフが駆け込んできた。
慌てた表情だ。
「国王様、緊急の連絡が入りました」
「皆の前でもかまわない。伝えてみなさい」と国王。
「魔人・ネロディウスの件です。カラビア国の国王指令で本日、勇者アキラとパーティがラインラント市入りました。ところがネロディウスの虐殺に合いパーティの仲間は全滅。勇者アキラも重傷を負って敗走したとのことです」
「うむ、ご苦労であった。ありがとう」
ウィンランド国王は伝令のエルフを下がらせた。
「私たちは各国に『エルフの森』を持っている。その間で情報交換が行われているのです」
すごい情報ネットワークが作られ、重要情報はすぐに伝わっていくようだ。
だからこそ、ユキオが討伐を命じられていたことも、最初から知れ渡っていたのである。
国王がユキオに言う。
「カラビア国も大変ですな」
「魔人ネロディウスの脅威は、いずれ国全体に及んでくると思います」とユキオ。
「そうなると我々エルフ族も標的にされるだろう」と国王。
ユキオが言う。
「勇者ユキオはカラビア国の切り札でした。これを破られたことのショックは大きい。私自身もネロディウスに対抗する手段が見つかりません。今の私では戦っても敗れるでしょう」
ウィンランド国王が言う。
「おそらく魔人ネロディウスが使っている魔法は圧倒的な力の『黒魔法』だろう。これは冒険者や勇者が使う『火』『風』『水』など通常属性の魔法を完全に打ち破ってくる。勇者アキラが通用しなかったのも、おそらく通常魔法で対抗したからだ。いくら勇者の能力が高くても相性が悪すぎる」
「何か打開策はないものでしょうか」とユキオ。
「黒魔法に打ち勝つ可能性があるのは白魔法だ」
とウィンランド国王が答え、こう続ける。
「わが娘、ルシアが白魔法のとてつもない才能を持っている。まだ修行中の身だが、これから”愛”と”神への献身”を身に着けていけば、偉大な魔法師になる可能性がある」
ユキオが言う。
「ルシアさんに期待したいです。私も白魔法の”回復魔術”だけは使えますが、それだけですから。ルシアさんの才能は全世界を救う可能性がありますね」
「そうなのだ……」
と言ってウィンランド国王は少し考え込む。そしてこう言った。
「どうだろう、ユキオさん。ルシアをしばらく預かってはいただけないだろうか」
「えっ⁉」
ユキオは、あまりに意外な提案に驚く。ウィンランド国王が言う。
「もちろん、まともじゃない提案だということはわかっている。隣にいる母親のエステラも不安だろう。昨日まで見ず知らずだった男に娘を預ける。しかもそいつは、わが国を征伐しに来ている敵なのだから。しかし実際に話してみてわかるのは、ユキオさんが、所属している国の方針や、世論や常識に左右されて物事を判断していないことだ。すべて自分自身の頭で考えて行動を決断している」
「それはほめられたことじゃないかもしれませんよ。私はいま、とことんわがままに生きているだけですから」
ウィンランド国王は首を振る。そしてこう続ける。
「ユキオさんはこれまでとことん辛い経験をした。それが私にはわかる。だから周りに振り回されない。なおかつ自分の頭でしっかり考えて判断する。そこに価値があるのだ。貴殿のこれからの冒険にルシアをお供させてほしい」
「でも、ルシアさんは故郷を離れるのはイヤでしょう」とユキオ。
するとルシアが口を開く。
「私も外の世界、広い世界を見てみたいです。ユキオさん、お願いします」
アイシルが鬼のような顔をして、
「スケベ男! また新しい女をタラシこんだわね!!」
とテレパシーを送ってくる。
いや、まったくお誘いしたりはしてないんだけど、とユキオは思うが、結果的にはそうなってしまったのだから仕方ない。
「私でよければ、大切にお預かりさせていただきます」とユキオ。
ルシアは嬉しそうに大きな瞳を輝かせている。白いほおはかすかに紅潮している。こんなステキな娘の期待を裏切る訳にはいかない。しっかりしなきゃ、とユキオはあらためて思う。
ユキオはウィンランド国王に言う。
「今回はお願いばかり申し上げて申し訳ありません。私どももギブ&テイクで何ができるかを持ってきたいと思っております」
国王が答える。
「かまわんよ。いきなり攻撃されるかと思っていたから、話し合いから入ってもらって本当に良かった。私はカラビア国はあまり信用していないが、ユキオさんとの話はとても楽しく興味深かった。リエイダ国への食料は、これからすぐに森にお願いをしてみよう。そして今日、リエイダ国での炊き出しも行おう。ただし50人の行方不明者については、これから確認のうえ交渉して、身柄をどうするか決めよう。そしてルシア、今日からユキオさんにお供するかい?」
ルシアはすぐに、
「はい! これから準備いたします」
とログハウスの中に駆け足で戻っていく。
日の光りがピークを過ぎたころ、すべての準備が整って、ユキオたち一行はリエイダ市に向かった。エルフ族の炊き出し要員もお借りしている。
リエイダの市街地に着くと炊き出しを開始した。ソニアも、得意のパスタを作る。新メンバーのルシアも得意料理のボルシチを作ってくれた。美味しそうな匂いにたまらず、みるみる集まってくる市民。エルフの森の恵みが満載のパスタや鍋料理を、夢中で味わう。男も女も、老いも若きも子供も、だれもが感謝の思いでいっぱいだ。おなかいっぱいになったのは何日ぶりだろう。幸せに涙がこぼれる者もいる。
ソニアとルシアは早くも意気投合した様子だ。
「私、ユキオさんに付いて行って良かったです」
とルシアが言えば、
「ご主人様は最高なのだ」
と笑顔で答えて、手をつないで喜ぶ。
アイシルは少し複雑そうな表情だが…すぐに打ち解けるだろう。
炊き出し終了後は、リエイダ市民がエルフの森に向かって大きな「エルフ」コールを送った。森のエルフ族にもウィンラント国王たちにも、きっと届いていることだろう。
(第三部終了 第四部〈悪魔の侵略国家編〉に続く)




