「人狩りエルフ族」の討伐をムチャぶりされたユキオ
待望の救世主・勇者ユキオの登場に熱狂するカラビア国民。
カルロス国王は国民に、彼のすぐれたそのすぐれた力の紹介を続ける。アキラへの彼のすぐれた「いったん、国民を手ぶりで静めさせ、こう続ける。
「それだけではない。剣術攻撃能力、格闘攻撃能力、会話スキル、風の魔術、治癒魔術を操ることができるのだ!」
いったん静まったアキラコールが、今度は倍の大きさで巻き起こる。
圧巻の熱量で続いたコールがひと段落する頃合いを見て、アキラが高らかに宣言した。
「もう大丈夫です。国民の皆さん。皆さんの大切な生活とこのカラビア国は、私が必ず守ります!」
国民が地鳴りのような声でアキラを賞賛する。
アキラがアイシルとうさみみを見ると、2人とも辛そうに耳をふさいでいる。
続いて演説場所に立ったのはカラビア国の財務大臣であるウェルシーだった。
眼鏡にタキシードような正装スタイルである。口調も、カルロス国王の高い熱量とは対照的に、冷静に話を始めた。
「カルロス国王から魔人ネロディウスのお話がありましたが、カラビア国にはもうひとつ問題を抱えております」
アイシルがユキオに耳打ちする。
「ウェルシーはカルロス国王にとって番頭役を務める大臣よ。ウェルシーは国内一の大学を首席で卒業した秀才で、すごく切れ者なの。この国の重要な政策はほとんどあのウェルシーが作っているという噂もあるわ」
なるほど、外見どおりの人物なのだな、とユキオは思う。
ウェルシー大臣が言う。
「カラビア国の南西部、エルフの森付近で行方不明の国民が多数出ています」
心当たりがある者もいるのだろう。国民がまた、ざわざわし始める。
「森に隣接するリエイダ市で、森の近くに行った市民が、拉致されたように次々に姿を消しています。その数は50名以上にのぼるという報告です」
民衆のざわざわが次第に大きく広がっていく。
「ご存じの通りエルフは人間と交流をすることを好まない。文化・価値観・生活スタイルが全く違う上、人間の考え方、やり方をおしつけられることを極端に嫌うからです。しかも人間から見下されていることを問題視して敵意を向ける集団も存在するらしい」
ウェルシー大臣が険しい顔になって続ける。
「いまや、彼らは『人狩りエルフ』と言われています。これまではエルフの森と人間の間には大きな壁が作られいて、問題が起きることもなかった。しかしこの1週間で状況は急変した。多くの市民が拉致された」
ウェルシー大臣は右手で眼鏡の位置を直し、こう続ける。
「したがってわが国はエルフの討伐を開始します」
民衆の歓声があがった。先ほどからの国民の高揚した空気はまだ続いている。
「しかし今、カラビア国の王立騎士団と中央軍隊を向かわせるわけにはいかない。この兵力はいまここにいる皆さんを守るために、動かすわけにはいかないのです」
民衆がまた、しんと静まった。
「ですから我々はエルフ討伐のために冒険者を招きました」
ユキオはびくっとした。悪い予感しかしない。
民衆の間には再び、ざわざわした空気が始まった。
「冒険者に討伐なんて無理だろ?」
「任せるべきは勇者じゃないのか…」
ひそひそ声が行き交っている。
ウェルシーが珍しく語気を強めて言い放つ。
「冒険者ユキオさん、壇上に上がってください」
本当にむちゃぶりが来た、とユキオは青ざめる。
ウェルシー大臣が、無理やりユキオの腕を引っ張って壇上へと連れて行く。アイシルはとっさに姿を消す。ソニアは仕方なくユキオについていく。
観衆のざわめきは広がっていくばかりだ。もちろん歓声など上がるはずもない。
壇上に上がったユキオとソニアの姿は、勇者パーティの一行とは間逆だ。「メイドカフェの店員と客」にしか見えない。
そのとき、
「ちょっと待てよ」
と、横から演説台の方に割り込んで来たのは、勇者アキラだ。
「こんなザコにエルフ討伐なんて、できっこないでしょ。ねえ、カルロス国王さま」
と国王を見る。
「しかしユキオ殿は吸血コウモリ、ヤマタノオロチを次々と倒した腕利きの冒険者だときいておるぞ」
「いやいや、コイツはウソついてるだけですよ」
国王の言葉にかぶせるようにアキラがしゃべる。
「このザコは元いた場所でも、全然役に立たない、できそこないだったんですよ」
なんなんだ、民衆の前で恥をさらす公開処刑かよ、とユキオは思う。
「勇者アキラ様の言うとおりだ!」
また別の声が後からあがった。大臣たちの一角に大きな刀をたずさえた立派な体格の男がこちらに歩いてくる。カルロス国王が、その大男に話しかける。
「王立騎士団の団長にして我が息子、ギュンターよ、意見があるのか?」
「さようです。わが父にして偉大な君主であるカルロス国王」
国王に一礼をしたギュンター騎士団長は、こう話す。
「このユキオという男は、冒険者ギルドで少しばかり名前を売っているようですが、ポッと出の冒険者に、重大任務を任せてよいのですか? 私にはこの者が信用なりません」
身を隠していたアイシルが、ユキオにテレパシーで教えてくれる。
「この男・ギュンターはカラビア国の第一王子で騎士団長だけど、国民たちは影で『鬼のギュンター』と呼んでいるわ。実力は凄くて強いけれど、イヤな男、融通が効かない男として嫌っている国民も多いの」
ギュンター王子がユキオを指さしながら宣言した。
「キサマ、俺と一戦交えてみよ。もし勝てたら実力を認めてやる!」
いや、不戦敗でいいんですけど…とユキオが答えようとする前に、
「それは面白い。城の広場に降りて模擬戦を組もうではないか」
とカルロス国王が言い出した。




