第二部 〈ナーブ市クエスト編〉美しすぎる精霊・アイシル
白い壁にオレンジ色のレンガの建物が並んでいる。例えるとスペインの古い町並みだ。看板には何か文字が記されているが、見たことのない文字である。
街はにぎやかで、普通の人間もいれば、猫の耳を持った亜人や、身長の低いドワーフ、竜の顔をした竜人ともいうべき人も二足歩行で歩いている。
彼らは、聞いたことのない言語で話している。英語やフランス語、ポルトガル語でもなく、もちろん日本語でもない。これまでの世界とは、まったく違った言語で話しているようだ。聞きとろうとしても、まったく意味がつかめない。
わかってはいたものの、明らかに地球上ではなく、まったくの異世界に来ている。
そしてユキオの目の前には、女神・ソフィーが言っていたであろう冒険者ギルドの門らしきものがあり、その横にはお花畑が広がっている。
「らしき」と言ったのは、門の看板が読み取れないため、冒険者ギルドなのかどうか、確証が持てないからだ。
横のお花畑に並ぶ紫色の花に美しいアゲハ蝶が止まっている。
しかし動く気配がない。少し羽根が傷んでいるようだ。右の方の羽根が、すこし曲がって、なおかつ欠けてしまっている。これでは満足に飛べないだろう。
ユキオは昆虫や小動物のことになると、放っておけない。子供の頃からそうで、傷ついていたらできるだけ世話をしてあげて、元気になったら自然に返してあげていた。
今のユキオには、レベルが低いながら、回復魔術がある。
アゲハ蝶に向かって気持ちを集中しながら「ヒール」と詠唱する。
するとアゲハ蝶の傷ついた羽根は柔らかな光りに包まれ、健康な状態に戻っていく。
光が消える頃には、アゲハ蝶はすっかり元気になり、空へと飛び立った。
が、空中を一廻りすると、その姿をユキオの前で変身させた。
羽根は持っているが、その胴体は15センチほどだが、人間の女性の姿になっている。
髪型は長いツインテールで、それが頭の両側で触覚のように揺れている。大きな青い瞳に、くっきりとした赤い唇。きれいだ。そして黒い水着のようなものを身にまとっているが、肌は胸元、肩、太ももが大胆に露出している。膝から下は縦縞のストッキングで長い美脚が引き立っている。全体のスタイルが良く、特におっぱいとお尻はどちらも重力に逆らうように上向きに盛り上がっている。
ユキオの無遠慮な視線に気がつくと、アゲハ蝶は少し恥ずかしそうな顔をしたが、すぐに、
「助けてくれて、ホントありがと!」
とユキオに笑顔を向けた。
ユキオの方は、自分が彼女の胸やお尻を見つめていたことがバレたことに慌てている。
「あ、ごめん。俺、きれいな姿にすっかり見とれてしまって……」
すると彼女は、
「きれいじゃないよぉ」
とクスリと笑う。
ここでユキオは気付いた。
「あれ、言葉が通じる!?」
すると彼女が答える。
「そう、私たちは蝶の姿をしているけど、実体は精霊なの。名前はアイシル」
「俺はユキオ。他の世界から来たばかりの冒険者だ。言葉がわからなくて困っていた」
「私たち精霊は、他種族がいうところのテレバシー能力があるの。音声や文字でなくても、精神で意志を伝え合うことができるんだ」とアイシル。
「それはすごい」
ユキオが答えると、アイシルがさらに続ける。
「だから他種族とも会話が可能なの」
ユキオがアイシルにたずねる。
「では俺は、君以外とはずっと会話できないままなんだろうか」
アイシルが言う。
「それはわかんない。でもユキオ、私、助けてもらったお礼に、しばらくユキオのそばにいて、通訳やってあげるよ。音声の会話はテレパシーで同時通訳してあげるし、ユキオが見た文字の意味もテレパシーで伝えてあげる」
「えっ、そんなこと、頼んでいいのかい?」
ユキオが聞くと、アイシルが穏やかな笑顔で言う。
「うん、私がそうしたいんだ。ユキオのこと気に入ったし、しばらく一緒にいてあげるよ」
「それはありがたい」
「で、ユキオは冒険者ギルドに行くつもりだったんでしょ」
「ああ」
「じゃあ、さっそく行ってみよう!」
飛んでいたアイシルはユキオの肩のそばに来ると、羽根をたたんでゆっくりと降下し、ユキオの肩にそっと腰掛けた。