「地下の秘密部屋」で暗躍する凶悪グループの黒幕の正体!
翌日の朝から、ユキオたちは被害を受けた子供たちの家庭を回っていった。
中には鍵をかけて閉じこもる家もあったが、ほとんどの家庭は子供が帰った喜びで明るさを取り戻しつつあった。国の騎士団が動いていることもあって、投資詐欺の被害状況についても安心して話してくれる。
問題なのは被害者たちがそろって、高金利の借金の借用契約書はサインさせられているが、元本を保証する書面の契約は誰も交わしていないことだった。
だから持っているものは奪われるだけ奪われ、背負わせられるものはとんでもなく膨らんでいく。
聞き込みの最後は地下牢から解放した少年カールの家庭だった。
各家庭に話を聞く中で違和感があった。途中までは詳細に話しててくれるのだが、最後の部分、大きな借金の借用書にサインをする段階になると、とたんにみんな、記憶があいまいになるのだ。いつ、どこで、誰の前で…それが誰も出てこない。
カールの父親も同様に、
「あれは暖かい時期だったと思うんだけど、とこだったかなぁ。でも間違いなくサインしてしまったんだよなぁ」
と核心をつかめない。
「契約書をどこで書いたか、どうしても思いたせませんか? とても重要なことなんです」
ユキオは訴にょろえるが、
「う〜ん、なんともなぁ」
と繰り返すばかりだ。
「……では、ありがとうございました」
カールの両親に見送られ、家をあとにしようとするユキオたちに、後ろから追いかけるような少年の声が聞こえてきた。
「ユキオさん、待って」
カールだった。
「僕、知ってるんだ。お父さんが契約書にサインした場所を……」
ユキオは立ち止まり、カールに歩み寄る。カールは顔をこわばらせ、緊張した様子だ。
ユキオは優しく笑って、両手をカールの肩にかけて言う。
「ぜひ教えてくれ。俺たちはダマされた人々をなんとしても助けたいんだ」
カールは目をうるませながら、うなずく。
投資詐欺で家庭崩壊するさなか、カールは投資にのめりこんで人格が変わっていく父親が心配でたまらなくなっていた。
ある日、家の大切な印章を持ち出した父親を、カールはこっそり尾行した。
父親の行き先は貴族・フリードリヒの邸宅だった。
大きな門から入っていく父親、それを壁をよじ登り、乗り越えて転げ落ちながら追いかけていくカール。
屋敷の中に迎え入れられた父親、壁に耳をあてて必死に声を聞いていると、どうやら、
「もっと大きな投資をしましょう。資金はお貸ししますよ」
と持ちかけられているようだ。
しばらくフリードリヒの話を聞いた後、彼に連れ垂れて、屋敷を出て歩いていく。
その父親の様子がおかしい。カールが思い返す。
「歩き方にいつもの力がなくて、目もピントがあっていないんだ。口もともだらしなく半開きになっているし……」
アイシルが言う。
「それは薬草の忘却草を飲まされた可能性があるわ。きっと飲み物に混ぜられたのよ」
アイシルが言うには、この忘却草は一時的に心身を喪失させ、記憶を失わせてしまう効果があるらしい。それはお酒の酔いのようなもので、数時間もすると、もとに戻るのだという。
カールが言う。
「父さんはフリードリヒさんに連れられて、屋敷の裏に向かったんだ。庭の一部に、地下につながる通路が隠されていた。芝生の一部がフタみたいな入口になっていて、そこを上に押し上げて開けると、地下通路につながるんだ。
契約書のサインは地下の秘密部屋で行われたらしい。契約書もおそらくそこに保管されているのだろう。
ユキオはカールにたずねる。
「その日はいつだったか、覚えているかい?」
カールは少し思い出して、こう答える。
「休みの日の前日でした。で、月の最後のほうだったと思います」
ユキオは、
「ちょうど今日と同じだね」
と気づいて言った。カールが言う。
「フリードリヒさんはそれを『契約の日』と呼んでいた気がします。いつも、その日にまとめて投資希望者とサインを交わし、結果をボスに報告していると」
「ボスって誰なんだろう」
ユキオがつぶやく。
「一度も名前では呼んでなかったから、もしかしてフリードリヒさんも誰なのかわかってないのかも」
とカールが言う。
「貴重な情報だ。ありがとう、カール」
とユキオがねぎらう。カールはうれしそうなかおをして、
「こちらこそ、助けてくれてありがとう、ユキオさん。あなたは私たちのヒーローです」
この子たちを安心させるためにも、詐欺にあった家庭を救ってあげなくてはならない、とユキオは、あらためて思う。
そしてそのチャンスはまさに今日、訪れている。




