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もうひとりの異世界転移者・トムの秘密

 城下町でも、とびきりうまいと評判の、トムさんの食堂。

 このお店、本当はユキオがハルミから、

「今度、連れて行ってくださいね」

 とねだられていたお店だ。

 まあ、ハルミさんの招待は今度にして、先にアイシルとソニアを連れて行くのは許してもらおう、とユキオは思う。


 トムさんのお店はにぎわっていた。しかしユキオたちをそれほど待たせることもなく、快くテーブルに受け入れてくれた。

 料理だけではなく、接客の手ぎわもいいのだ。内装は木造りだが南イタリア風に明るく洗練されており、異世界らしくないオシャレな感じだ。

「素敵なお店ね」

 アイシルが言えば、ソニアも、

「こんなキレイなお店、初めて見たのです」

 と喜んでいる。 

 メイド服の猫耳亜人ウェイトレスが注文をとりにきてくれた。

 ソニアはお望みのニンジンのキッシュ、アイシルははちみつバナナのフレンチトースト妖精サイズをオーダーする。ユキオはトマトの冷製パスタを頼むことにした。

 運ばれてきた料理は素晴らしかった。

「ニンジンさんのキッシュ、ふわふわで、お口の中でトロケますぅ♥」

 と、ソニアが言えば、アイシルも、

「フレンチトースト、甘いだけでなくて絶妙な酸味も効いていて、おいしすぎて止まらない」

 ユキオの冷製パスタもさっぱりした旨味に、ニンニクの風味が食欲をそそりまくって、夢中になって食べまくってしまう。

 話題はお互いに料理の感想ばかり。幸せな気分で食事を楽しむ。

 みんなのお皿が空になったころ、背の高い若者が声をかけてきた。

「冒険者ユキオさん、ようこそトムの店へ。私が店主のトムです」

 ユキオか想像していた店主のイメージは「髭を生やした中年の貫禄ある男」だった。それだけにユキオは思わず、

「お若いのに、こんないいお店をつくられて、すごいですね」

 と口にする。だが、それよりも大きな疑問は、

「なぜ俺のことがわかったんですか?」

 ということだった。

 トムが答える。

「冒険者ギルドマスターのガーランド様から、可愛い兎亜人のお連れ様と一緒に行動されていると聴いていましたから、ひと目でわかりましたよ」

「なるほど」 

 と言いつつユキオは、どちらかといえば、ソニアの方が目立っているのだろうな、と思う。

 トムが言う。

「お料理の方は、お口に合いましたでしょうか?」

「最高でしたよ。いったいどちらでこんなに料理の腕を磨いたんですか?」

 ユキオが聞くと、突然、トムがユキオに、声をひそめて耳打ちしてきた。

「ユキオさん、あなた地球からの転生者でしょ」

 ユキオは驚いてトムの顔をまじまじと見て、言う。

「なぜそれを……」

 トムが耳打ちを続ける。

「私もそうだからわかります。私はアメリカ人でニューヨークのイタリア料理店でシェフをしていたんです」

 ユキオも耳打ちで答える。

「そうでしたか。どうりで異世界ではありえないくらい料理の技術が高いはずだ」

 トムが笑顔を作って応える。ユキオが耳打ちを続ける。

「私は日本で会社勤めをしていました」

「そうですか。これからも地球仲間としてよろしく」

 トムが小声で言ってウィンクする。

「さてユキオさん」

 とトムが通常の声に戻って話を続ける。

「あなたに会いたいという貴族がいらっしゃっているんですが、こちらに呼んでよろしいですか?」

 貴族? 何だろう、かといって断るわけにもいくまい、とユキオは思って、こう返答する。

「かまいませんよ」

「よかった。ではお呼びしますね」

 と言ってひとまず、トムは中央のほうのテーブルに向かった。

 トムが声を掛けたのは、ぱっと見で貴族とわかる派手ないで立ちの人物だった。

 長い髪をオールバックに流し、横に巻き毛で垂らしている。赤いジャケットに金ボタン、中の白いシャツは襟と袖に何重にもフリルの装飾がある。

 トムとともにやってきたその紳士は、ユキオの前に現れると、軽く一礼し、

「私はヘルムート・フリードリヒ・フォン・ジーメンスと申します」

 まさに「ザ・貴族名」だ。長すぎてとても覚えられない。トムが助け舟を出してくれる。

「皆様からはフリードリヒ様と呼ばれていらっしゃします」

 ユキオも作り笑顔で一礼して

「私は冒険者のユキオと申します。フリードリヒさん、よろしくお願いします」

 と言うと、フリードリヒは、

「あいさつは不要ですよ。モンスターを次々に撃退する英雄のユキオさんはもはや有名人です」

 とユキオをほめて、こう続ける。

「時に、今回は、お三方でお食事をされて、新たな冒険へのご準備でいらっしゃいますか?」

 ユキオが答える。

「冒険ではないのですが、この城下町で行方不明の子供たちが増えていると聞いています。何か力になれないかと、皆さんにお話をお聞きしておりまして。フリードリヒさん、もしご存じでしたら教えていただきたいのですが…」

 フリードリヒは悲しそうな顔を浮かべて、こう話す。

「私が治めている城下町で、そのような噂が流れているようですね。私の不徳の致すところです。でもその噂は残念ながらまったく実態がつかめていないのです」

「そうですか……」

 フリードリヒが言う。

「城下町ではいろいろな噂が流れています。実体のあるものもないものも含めて、私たちも日々、対処しようと務めております。ですので、有名な冒険者様とはぜひ協力関係を築けたらと存じております。今後も何かありましたら、何でもお知らせください。できる限りの尽力をさせていただきます」

「ご親切に、ありがとうございます」

 ユキオは礼を言う。フリードリヒはあらためて一礼をして戻っていった。

 アイシルが言う。

「ユキオもすっかりスターよね」

 ユキオが苦笑いする。

「冷やかすなよ。俺はひとりでは何もできない駆け出し冒険者に過ぎないよ」

 ソニアが言う。

「そんなご主人様が大好きなのです」

 ユキオは照れながら頭をかく。でも今の俺は幸せ者だ、とユキオはあらためて思う。

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