涙する女神ソフィ。でもユキオが感動したのはソフィのおっぱいの感触だった
勇者アキラが去った後も、ソフィーの愚痴が止まらない。
「あのアキラさん、超ハイスペックなんだけど、超めんどくさいわ」
ソフィーの言動は、もう面接の体をなしていない。
もはや形式的な感じで、投げやりにこう言う。
「ではユキオさん、こんどはあなたの前世を見ます」
ソフィーはユキオのこれまでの半生をスクリーンに映し出した。
まったく見どころのない学生時代、そして社会に出たらイビられ放題…。
つらすぎる人生だ。ソフィーは沈黙したまま、反応はまったくない。
よく見ると、ソフィーは小さな寝息をたてていた。
ユキオのプロフィールを見ているうちに眠ってしまったのだ。
いったいどの場面で眠ったのか、気になるところではあるが…。
ともあれ、このままでは話が進まない。ユキオはソフィーに声をかける。
「もしもし、女神さま、もしもし、もしも〜し!」
「えっ!?」
とソフィーが飛び起きて、
「ここはどこ?」
とユキオにたずねる。
知らんがな、ここに連れてきたのはあんただろ、とユキオは思うが、口にはしない。女神の唇からはよだれが垂れているが、もちろんそれも指摘はしない。美人のよだれは初めて見た。しかも女神様なのだから余計レアである。まあ、どうでもいい。
ユキオはただ、
「面接会場です」
と無難に答えておく。凡人はとにかく相手を怒らせないに限る。ただただ生き残るためだけの知恵だ。ソフィーはユキオに答える。
「そうだったわね、続けましょう」
ソフィーは気を取り直し、眠気を吹き飛ばそうとするように目をこすって続ける。
「ユキオさんの前世をまた映してもいいけど、すぐ寝てしまいそうだから、先程の映像を自動採点した結果を参考にします。え〜と、100点中の17点、えっ、17点なんてどうやったら出せるの? どんなに低くても20点より下は出ないのに…」
ユキオの前世は逆の意味でレアだったらしい。
「あんた、S級どころかA級もB級にも引っかからない。最低ランクのF級の中でもかなり低いスペックなのよ」
本音でしか話せないソフィーのキャラクターは、もうわかった。その毒舌の直球は、ユキオの胸に、グサリ、グサリと突き刺さる。
しかし不思議と、前世で味わってきた吊し上げのような苦しい気分ではない。
むしろ、その胸の痛みが心地よくなってくるから不思議だ。俺はMなのだろうか、とユキオは思う。
ユキオはソフィーにたずねる。
「女神様、あなたの面接はいつもこんな感じなんですか?」
ソフィーの表情が一瞬でふくれっ面に変わる。
「『こんな感じ』って、どういう意味よ?」
責めるような口調。きもちがそのまま顔に出る女神様だ。ユキオはこう答えぬくる。
「女神様は僕らの評価をそのまま伝えてくれましたよね。でも、僕が受けてきた面接って、試験の中で評価を教えてくれることはなかったんですよ」
「それは、なぜなんでしょう?」
女神様が不思議そうな顔で言う。ユキオはこう答えた。
「採点傾向がわかれば受験者が途中から自分をいつわってでも合わせようとするからではないでしょうか。それに面と向かって悪い評価を伝えた場合は受験者の逆恨みを買うかもしれない。ですから、面接は試験後、結果だけ後で伝えるっていうスタイルがほとんどでした」
ソフィーは、
「なるほど、納得ですわ」
と真顔になる。いまさらですが……。
「でもね…」
ソフィーは僕に哀れみの表情を浮かべながら言う。
「やっばり、あなたはカラビア国の国王にとても紹介できないわ。勇者候補として期待しているところに、こんな低スペックの転移者を送ったら激怒されてしまいそう」
さっき面接についてご忠告申し上げたばかりだが、それでもユキオへの容赦ない言葉責めは続く。
もっともユキオも女神さまに恐れ多くも説法したのだから、おあいこといえばおあいこか。
しばらく考えてこんでいたソフィーだが、何かを思いついたのか、口を開いた。
「ひとつくらい、チート能力をあげるから、カラビナ国の冒険者として頑張ってみて」
ユキオは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。ソフィーはこう続ける。
「冒険者として大きな成果を上げることができたら、ご褒美として勇者になるためのサポートをしてあげます」
いやいや、適当に追い出そうとしているでしょ、ソフィーさん。それだけで投げ出されたら、絶対に前世と変わらない「どん底男」のままだ。
そう思ったユキオはソフィーにこう訴えた。
「俺の前世、見たでしょう。女神様は途中で寝ちゃったから、ちょっとしか見てないかもしれないけど。あまりにミジメすぎる人生でした。それなのにチート能力をちょっとで放り出すなんて冷たすぎます。お願いですから、アキラさんと同じ5つくださいよ」
ソフィーが少し焦った表情を浮かべて、こう答える。
「いえ…、Cクラス以下の素材については2つまでって決まりがあるんですよ」
また自分の手の内をさらしてしまっている、脇の甘い女神様だとユキオは思う。そこにつけ込まない手はない。なにしろここは自分が生きるか死ぬかの勝負どころだ。
「ぼくは世の中から切り捨てられてしまった人間です。見放された人間です。助けていただかないと、野たれ死ぬだけなんです。助けてください。僕のこと、かわいそうだと思うでしょ?」
「まあ、そうね……」
「お願いします!」
ユキオは床に頭をすりつけて、土下座の姿勢をとった。
「何のまねですか?」
ソフィーが聞く。ユキオが言う。
「これは私がいた国、日本で昔から伝わる『土下座』の姿勢です。どうしてもお願いを聞いていただきたいとき、その一生懸命な思いを伝えるときの姿勢です」
「変わった挨拶ですね。で、お願いってなんですか?」
「能力、2つは必ずください。僕のことかわいそうだと思っているでしょ」
「……わかりました」
ソフィーが渋々答える。
ユキオは満面の笑顔になって、
「ありがとうございます。さすが女神様、素晴らしい慈愛の心です。このご恩は必ずや形にしてお返しして見せます」
するとソフィーも機嫌を直したようで、
「では希望の能力を言ってみてください」
すかさずユキオが答える。
「火炎魔術、治癒魔術でお願いします」
「いいでしょう」
ソフィーが了承した。彼女がこう続ける。
「ただし初期設定はあなたの能力に左右されるから、アキラくんとは比べものにならないほど低いと思います。その点は気をつけてください」
「わかりました。ありがとうございます。……で、女神様……慈愛の美しい神様」
「まだ何か?」
ソフィーが怪訝な顔で言う。
「最後にひとつ、お願いしますお願いします。アイテムボックスも付けてください。私のような出来損ないは、もうひとつ支えがないと、とてもまともにやってはいけないのです。どうかお恵みくださいませ」
ソフィは少し考えたが、すぐに、
「アイテムボックスはチート能力規定に数えられていないから、まあいいでしょう。”ドゲザ”も見せていただきましたしね」
ユキオは両手を上げて飛び上がって、
「女神様、ありがとうございます。このダブルのご恩、絶対に忘れることはございません」
と喜んだ。その様子を見てソフィも思わず笑ってしまっている。
「あなたはプライドというものが全くないのね。これまでの勇者たちとは正反対だわ。きっとこの先も誇りなんてものとは無縁に生きていくのでしょう」
かなりディスられているようだが、ソフィーはどうやら、ほめているらしい。ソフィーが真顔になって、ユキオを見つめる。
「この世界はもう救えないかもと思っていたけど、あなたみたいに肩の力が抜けすぎてグダグダな人は初めて。もしかして世界を変える力があるかもしれない」
ソフィーはユキオに近づいてきて、ユキオの肩を抱きしめた。
彼女は目を閉じ、ユキオをしっかりハグする。
女神さまの魅惑的な甘い香りがユキオの鼻をくすぐる。
女神さまのまつ毛から涙がしたたり落ちた。
ユキオはソフィーが愛おしくなる。
でもそれだけではない、ソフィーのたわわなおっぱいの柔らかすぎる感触が、ユキオのおなかあたりと腕の内側から吸いついてくるように感じられる。暖かくて、生々しくて、なまめかしいセクシーな感触。相手が女神様だけに、より感動的だ。すべてを忘れて、ユキオはその感触に全神経を集中させる。
「ではユキオさん、ご武運をお祈りします。あなたは冒険者ギルドの門の前に送ってあげますね」
えーっ、と心の中で叫んだユキオは慌てて、最後の質問をしようとする。
「あ、あと、スマホの募集要項に書いてあった〈魂消滅のリスクあり〉って、どういう…」
しかし、女神様が振り下ろす杖のほうが早かった。
ユキオの体が光に包まれて転送に入った。ユキオがつぶやく。
「ああせっかちなソフィー様……でもあの感触は最高だったから、まあいいや」