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奴隷商人ウォルフガングはカラビア国の秘密と金脈を握る

 翌日、ヤマタノオロの大宴会に付き合って疲れがピークのソニアとアイシルは休養をとらせるべく、朝も寝かしておいた。

 ユキオはひとりで冒険者ギルドを訪れた。中に入ると、さっそくハルミがユキオを見つけて走り寄ってきた。そのまま抱きつきたそうな彼女だが、それは思いとどまったようで、代わりにユキオの両手を握ってきた。

「ユキオさん、ヤマタノオロチを退治してくれてありがとう」

「ハルミさんがボーフムさんに話をつけてくれやたおかげだよ」

「まさかお酒で眠らせることを思い付くなんて、さすがはユキオさんです。なぜそんなすごいアイデアを思い付けるんですか?」

 心のなかで、いや、日本の昔話をマネしただけなんだけどね、と思いつつユキオが黙って苦笑いすると、ハルミは、

「ユキオさん、きっと天才なんですよ!」

 と、うっとりとキラキラしたした潤んだ目でユキオを見つめてくる。

 手も、ずっと握ったままだ。

 買いかぶられ過ぎにもほどなある。これは化けの皮か剥がれてからが怖いな、とユキオは思う。

「ところで…」

 と言って、やっとハルミがユキオの手を放す。顔が真顔になっている。

「ユキオさん、あなたウォルフガングさんに借金してるでしょ!」

 なぜそれを……驚くユキオ。

「金貨21枚ぶん、未払いよね」

 ユキオはたじたじだ。

 さっきまでの甘い雰囲気はなんだったのだろう。

「でね、ユキオさん…」

 ハルミがいたずらっぽく微笑みかける。

「カラビア国から、巨大吸血コウモリ退治のユキオさんの賞金が冒険者ギルドに届きました。そこから天引きでウォルフガングさんに支払っておきましたからね」

 なんとハルミさん、銀行業務のようなことまでしているのか、ユキオはまた驚かされる。

 ハルミが続ける。

「お金、使いすぎちゃダメですよ。ユキオさん」

 まるで夫をたしなめる新妻のような調子で、ハルミはユキオの反応を楽しむように観察している。ユキオはまだ、ひとことも返せていない。

 ハルミが言う。

「でもユキオさん、ヤマタノオロチ退治はすごくいいタイミングでしたよ」

「タイミング?」

「ええ、カラビア国はこの一件、国の一大事だということでいちはやくオロチ退治に賞金を賭けたんです。その額は巨大吸血コウモリと同じ金貨30枚です。失った分、また入ってくることが決まってよかったですね」

「それはラッキーだった……」

 ユキオも素直に喜ぶ。ひとまず、せわしなく稼がなければいけない日々からは解放させそうだ。うさみみやアイシルも、ゆっくりさせてやれる。

「また借金したらすぐわかるんですからね」

 どうやらハルミにはかないそうにない。

「わかったよ。ともあれ、これでしばらくは平和に暮らせそうだね」

 しかしハルミは同意しない。

「……ところが、そうでもないのよ」

「どういうこと?」

「このところ、城下町ミュンスターの行方不明者が増えているの。しかもほとんどが子供たち」

「そうなの?」

 その話が、ユキオさんに聞いたナーゼルくんのケースと、とてもよく似てるの。この前、聞いた時は気がつかなかったけど、あれから似たような話を何度も聞くようになって…」

「もしかして投資の話なんだろうか?」

「ええ、最初はうまい儲け話だと思って飛びつくんだけど、気がついたら借金させられていて、一家離散の悲惨な状態になっているそうよ」

 ナーゼルのような悲しい環境に落とされた子供をこれ以上増やしたくない、とユキオは思う。

「被害者は誰なのか、わかっているのだろうか?」

「それが、どの家庭も被害にあったことを隠すように黙ってしまっているんです」

 これもナーゼルのケースと同じように隠しているか、目立つことでさらにひどい目に遇うことを避けるためだろう。

「でもそんなこと、冒険者のユキオさんに相談してもしかたないですよね」

「いえ、俺も城下町のみなさんには、いろいろよくしてもらっているから、知らない顔はできません。できるだけのことはしてみます」

「さすがはユキオさん。ありがとうございます」 

 ふたたび、ハルミがユキオに抱きついてきた。

「ハルミさん、落ち着いて」

 ユキオがあわてる。ここは冒険者ギルドのなかだ。それにアイシルがもしここにいたら、飛び蹴りどころでは済まなかったであろう。

 

 ユキオは聞き込みのために街に出た。

 市場の露店の主人や、買い物客に聞いてみるが、

「話は聞いたことがあるけど、誰が被害者なのかはわからない」

 と口をそろえる。

 開業前の酒場のマスターにも聞いてみるが、手がかりがない。

 とぼとぼと路地を歩いていると、

「ユキオさん、お困りですか?」

 と声が聞こえた。

 あたりを見回すが、声の主はすぐに見つからない。

「私ですよ、ウォルフガングです」

 後ろの建物の柱の陰にその姿がちらりと見えた。

 ユキオは身をひるがえして人影に向かう。

「私は、お金払いのいいお客さんが大好きですよ」

 と、ウォルフガングが不敵な笑顔を見せた。

「ハルミさんとお知り合いだったんですね」

 ユキオが言うと、ウォルフガングは、

「そうです。私はおいしい商売につながりそうな人の匂いをかぎわけることができる。ハルミさんはかなり美味しそうな香りがする。もちろん、あなたからもね。フフフ」

 まったく、食えない男だ。ユキオも心の中で苦笑いをする。

 ウォルフガングはさらに続けて、

「今回のお支払いで、ユキオさんのローンは金利ゼロにて完済になります。金利の発生前に、あっという間にお金が回収できましたからね。ハハハ」

 と笑う。からかわれているのだろうか。

 いったん、ウォルフガングが真顔になって、

「時にユキオさん、お困りなのではないですか?」

 と聞いてきた。

「なぜ、そう思うのですか?」

 ユキオが聞き返すと、

「城下町の人たちに聞き込みをしてましたからねぇ。投資詐欺のことをお調べになっていたのではないですか?」

「ウォルフガングさん、知っているんですか?」

 ユキオが驚いて聞き返す。

「蛇の道はヘビですからねぇ、フフフ」

「教えてください! 知ってることを」

「私は商売人ですからねぇ……私の商売にプラスになりそうな情報だけをお教えしますよ」

「わかりました。それでいいです」

 ユキオは同意した。ウォルフガングが言う。

「私はまっとうな奴隷商人です。奴隷商が”まっとう”というのもおかしな話ですが…。ですが最近はこの城下町の子供たちを、闇金融で家庭ごと地獄に陥れて、その借金のかたに奴隷化され、それを地下マーケットで売りさばこうとする闇ブローカーが暗躍していて、我々のマーケットも悪い影響を受けているんですよ。これは無視できません、正義の味方にやっつけてもらわないとね。だよね、ユキオさん」

「それで、その悪い奴隷商人たちはどこにいるんですか?」

「さすがは話が早いね、ユキオさん。やつらのアジトをお教えしましょう」

 ウォルフガングさんは地図を書いてくれたが、それはよほどの事情通でなければ、たどり着けないような路地の奥の奥であった。

「アジトに行く時は、ソニアをお供させた方がいいですよ。釈迦に説法ですが…」

 ウォルフガングの忠告は、ユキオにとってありがたかった。ユキオは今にも単身で乗り込もうという勢いだったからである。確かに、まったく知らない敵のところに仲間なしで斬り込むのは無謀すぎる。

 いったん宿に戻って、陣容を整えよう。

「ウォルフガングさん、ありがとう」

 ユキオは礼を言って、宿に向かうことにした。「どう、いたしまして」

 と答えるウォルフガングが、こう続ける。

「お金払いのいい上客様には奉仕させていただきますよ。これからもどうか、ごひいきに」




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