黄金に輝く伝説の「草薙(くさなぎ)の剣」
ユキオが待ち合わせをしておたのは町境のトラフ門。
疲れたソニアをおぶってアイシルと一緒にそこに行くと、聞きおぼえのある野太い声が聞こえてきた。
「ユキオ殿、お持ちしたぞ!」
そこにはドワーフのボーフムさんが、馬車で荷台を引いて4つの樽を運んできてくれていた。
「ご注文の品をお持ちしましたぞ。極上の酒・ラミーナを四樽。それと空の酒瓶を32個だったな」
「遠いところを、ありがとうございます。助かりましたよ」
ユキオはボーフムに代金の金貨2枚をわたす。
「こんなにもらっていいのかい」
ユキオが笑顔で言う。
「特急だったし、危険手当も含めれば、安いものですよ」
そのやりとりを見ていたアイシルが呆れる。
「ユキオ、大量に酒なんか運ばせて、宴会でもするつもりか?」
「半分は当たりだね」
ユキオが冗談っぽく笑う。アイシルはなんだかわからず、少しイライラしている。
「ボーフムさん、少し手を貸してください」
そう言ってユキオは再び、ケント町の中に歩いていく。着いたのは、いちばん近くのトラフ神殿だった。
この町はずれの神殿に、今すぐヤマタノオロチが襲撃してくる可能性は少ないだろう。ユキオは酒の瓶を広場に並べ始めた。
夕日が差している。宴会にはいい時間だ。
ボーフムと協力して、瓶に樽詰めのラミーナを順番に注いでいく。
48個の瓶を満たす頃には、日はすっかり暮れていた。
「これで準備は整った」
ボーフムさんには、空になった樽を持って帰ってもらった。
ユキオたちは神殿の周囲に広がる森の中に隠れている。あたりには強烈な強い酒の匂いが漂っている。
20分ほど経過した頃だろうか。遠くの方から地響きが伝わってきた。こちらに向かってやって来る。
その頃には、疲れたソニアも元気を取り戻していた。
「ご主人様、何かやってきたみたいです。迎え撃ちますか?」
とユキオを見る。しかしユキオは首を横に振る。
「このまま見ているだけでいいよ。物音は立てずにね」
ソニアは黙ってうなずく。アイシルは疑わしげに様子をうかがう。
やがて、地響きの正体が姿を現した。
ヤマタノオロチだ。
しかし彼らには先ほど身震いするほど感じた殺気がない。それどころか、あの恐ろしい顔つきが、みんな笑っているように見える。
これほどまでに酒は飲む者を骨抜きにするのか。ともあれ、四体そろってやってきたヤマタノオロチは、酒の瓶を見るや、満面の笑みで幸せそうに首を突っ込んでいく。
キュ〜ッ、キュ〜ッ…。
濃い酒を飲めるだけ思い切りノドの奥に流し込む、酒飲みの至福の瞬間がここにある。
4体✕8つの龍は夢中になって瓶の中に頭を突っ込んでいる。
「今なら、やっちゃえるんじゃない?」
アイシルが言う。
「いや、まあ、急ぐことないんじゃない。しばらくは幸せに浸らせてあげようよ」
ユキオが他人事みたいに言う。
ヤマタノオロチたちの赤い目はさらに赤みを増し、顔まで紅潮してきた。
そのうち、彼らの動きは次第におかしくなってくる。
息をするためいくつかの頭は瓶から首を出すのだが、その頭同士がふらふらと変な動きをして、お互いに激突したりしている。しかし怒るでもなく、首をからめあってじゃれあったりしている。
「酔ってますねぇ〜、ふふふ」
ソニアが笑っている。
そしてまたオロチは酒瓶に頭を突っ込むのだが、間違えて他の頭が飲んでいる酒瓶に頭を突っ込む者もいて、これにはもともと飲んでいた頭が怒り出し、ケンカも始まった。
「あらあら、酔っ払いはタチが悪いわね〜」
アイシルが言う。
とはいえ、酒さえあれば、場は収まる。
全員が、飲めるだけとことん、飲む。
ヤマタノオロチの酒宴が始まて2時間くらい経過しただろうか。
しょーもないオッサンたちの酒宴に見飽きて、アイシルが大きなあくびをする。
そのうち、オロチの頭のひとつが、酒瓶から首を出して、地面に頭をつけて眠り始めた。
赤い顔で酔っ払いまくり幸せそうな表情だ。
時間が経つにつれ、酔って眠るオロチの数は増え始める。
やがて、すべてのオロチが床で眠ってしまった。
32の龍の頭が横たわって眠るさま、なかなか壮観だ。
「さて、始めますか」
ユキオが立ち上がる。
「そうか、こうしてこいつらを退治しようとしたのね」
とアイシルが納得する。
それにしてもヤマタノオロチ、好きな酒を飲めるだけ飲み尽くして、みんなこの世でいちばん幸せそうな表情だ。
〈俺ももし死ぬのなら、こんなときに知らないまま殺されるのが幸せだなぁ〉
とユキオは少しうらやましく思う。
ともあれ、仕事は片付けなきゃいけない。
ユキオはヤマタノオロチたちに狙いを定めて、
「ファイヤーショット!」
と次々に火炎弾を放っていく。とことん酔っているオロチたちはまったく起きる気配なく燃焼していく。
やがて神殿の広場は大きな炎に包まれた。煙を上げて燃焼していき、オロチが灰に変わっていく。
うず高く積もった灰から、光が放たれている。赤色、黄色、紫、おそらく4頭分それぞれの色だろう。
灰のなかかを探ってみると大きな剣が4つ見つかった
それぞれの剣は引き合っているようで、近づき合うにつれてその光と色が混じり合う。
ユキオは先ほどゲットした、もうひとつの剣があることを思い出した。
「オープン!」
アイテムボックスから青の剣を取り出す。
そしてアイシルに言う。
「封印を解いてくれ」
アイシルはうなずいて、
「キャンセレーション!」
と唱えろ。すると剣は光を放ち始める。妖しく美しい蒼の色だ。
その光が、他の4本の剣としだいに混じり始めた。空中にあつまっていく五本の剣。中央でまぶしい光を放った。
そして合体。
そこに現れたのは、2メートルはあろうかという、黄金の剣だった。
これこそがヤマタノオロチ伝説に伝わる剣だろうか、とユキオは思う。
古代の神・ヤマトタケルは敵にあざむかれて炎に囲まれたとき、この剣を振りかざすと風が巻き起こり、燃える草の炎は敵に向かって襲っていった。その奇跡でヤマトタケルは勝利したという。 その剣は日本の歴史の中では「草薙の剣」と呼ばれている。異世界風に言えば風魔法を起こす剣というところか。
アイシルが言う。
「妖気は残っているが、悪い気ばかりではない。使う者によって、その姿を変える刀だともいえるわ。ユキオなら、使いこなせるかも」
確かにユキオもこの金色の刀に少なくない魅力を感じていた。
「ご主人さまにお似合いかも」
うさみみが言う。わ
「そうね、ユキオ、これ、封印せずに持っていなよ」
アイシルも同意する。
「では、この剣、いずれはみんなが危機にあったときに救ってくれる草薙の剣だと思って、だいじにとっておくよ」
とユキオは黄金の剣を、ていねいにアイテムボックスにしまった。




