防御不可能! 8つの頭の大蛇・ヤマタノオロチの超絶攻撃!!
ケント町は城下町からそれほど離れていない。
そこで起きたパニックに、町は騒然としている。ケント町の町民たちは城下町に続々、避難を行っている。城下町の公共施設は解放され、避難民を受け入れているが、受け入れきれない住民の叫び声があちこちで飛び交っている。
混乱の中、ケント町に足を踏み入れる。
ケント町は城下町に物資を供給する、工業、商業の起点となっている町で、派手さはないが、人口は城下町に次ぐ規模を誇っている。
町民が逃げ去って無人となった工場に足を踏み入れたところに、先客の冒険者パーティがいた。
「おや、ザコじゃないか? 何しに来たんだ? 見物か?」
とユキオに声をかけてきたのは能力S級の勇者候補・早乙女アキラだった。
女神ソフィーの面接で彼は絶賛され、国王のもとに勇者候補として召喚された。
いっぽうのユキオはアキラに馬鹿にされ、女神にも最低の烙印を押されて、厄介払いされるように冒険者ギルドに飛ばされたのだ。
アキラがユキオにたたみかける。
「コウモリふぜいを倒したそうだが、オマエはしょせんザコだ。俺たちの勇者パーティの
足を引っ張らないよう、おとなしく物陰で見物でもしていることだな」
女神ソフィーが面接の後にグチったとおりだ、とユキオは思う。アキラはスペックは一流だが、とにかく面倒臭いヤツだ。
とりあえず争っても仕方ない。静観することにする。
彼らのパーティは、勇者アキラを中心に、騎士、弓使い、魔法使い、僧侶の5人で組まれている。いかにも強力な布陣そうだ。
「あんなこといわせておいていいの、ユキオ」
とアイシルが真っ赤になって怒っているが、
「まあ、落ち着いて。怒れば怒るだけ、相手のペースに巻き込まれるだけだから」
とユキオはなだめる。
うさみみは
「ユニークなお方ですわね」
といつもの笑顔でマイペースに反応している。ある意味、頼もしい存在かもしれない、とユキオは思う。
と、そのとき、大きな物音が、はるか向こうから響いてきた。
ヤマタノオロチの一体がこちらに近づいてくる。人間の気配を感じて捕食に来たのだろう。
「よっしゃ、今日はあいつが獲物だ。いくぞ!」
アキラがパーティの仲間に呼びかける。
メンバーもその声に応えて立ち上がる。
ヤマタノオロチの8つの頭は、ヘビというより龍に近かった。頭の両側に鋭く大きなツノを持っている。目は血のように赤い色だ。大きな口と凶悪なキバは、人どころかゾウさえも一口でとらえ、粉々にして飲み込んでしまいそうだ。
しかし勇者パーティも勇ましい。騎士がまず先頭に立って、オロチの頭に斬り込んでいく。そして光り輝く大きな刀で、あっと言う間に、オロチの3つの頭を斬り落としてしまった。
「どうだ、見たか」
血を吹き出し、
「グオォォ~」
と悲鳴を上げて苦しむオロチ。
弓使いも残るオロチの二つの頭部の赤い目をめがけて、光り輝く矢を連射していく。
矢は正確にターゲットをとらえ、オロチの目が次々と潰れされていく。
2体の両目には矢が突き刺さり、目からは大量の血を吹き出て、激痛に苦悶してのたうちまわっている。
「これでとどめだ!」
勇者候補のアキラが空中に高く跳躍し、大ナタを両手に、残る3つの頭に向かっていく。
「ムーンサルトフェル!」
アキラは空中回転しながら華麗な舞いで大ナタを高速回転で振る。オロチの3つの頭が次々に斬り飛ばされ、落下していく。
「これで決まりだ!」
アキラは着地する。
パーティのメンバーは、動きが止まったオロチの近くにゆっくりと歩いていく。
「ヤマタノオロチ、討ち取ったり!」
パーティが勝ち名乗りを上げた。
圧巻の攻撃を息を飲んで見つめていたユキオに、アイシルが言う。
「どうやらあいつら、ヤバいことになりそうだよ、ユキオ」
オロチの尾は、頭と同じ8つある。
攻撃で頭部を破壊され、その尾は体と同様に動きが止まっていたのだが、なぜかそのうちの3つの尾が再びゆっくりと、うごめき始めている。
最初に斬り落とされた首の切り口から、何かが顔を出し始めている。
鋭いツノだ。そう、それは龍の頭なのだ。オロチの頭が再生している!
アキラのパーティの騎士は勝利を確信して完全に油断しきっている状態だ。
オロチの頭が3つ、一気に再生した。大きく開いた口が、争うように騎士に向かう。
そのひとつが騎士を一気に飲み込んだ。騎士は断末魔の悲鳴を上げる間もなく、オロチの口に飲み込まれてしまった。
「態勢を建て直せ!」
アキラが叫ぶが、もう遅い。
弓矢を射られた頭2頭の目からは、すでに矢が抜けて、地面に落下している。潰れたはずの目は、鋭い赤色の光を放ち復活し、高速の動きで弓使いを襲う。大きな牙がその体をとらえてへし折って飲み込んだ。
僧侶と魔法使いも、最初に復活した頭部に食われてしまった。
そして、アキラに大ナタで斬り落とされた頭も復活を始めている。
能力S級のアキラだけに、この状況を理解して、すでに身構えていた。
しかしオロチの再生能力は抜群で、斬られた3頭の頭はすぐに復活完了し、アキラに襲い掛かる。アキラが応戦する。
「ムーンサルトフェル!」
先ほどと同じの空中技をアキラは繰り出すが、オロチの頭はそれをスレスレで交わしていく。敵の技を学習し、同じ手は食わないらしい。
オロチの3つの頭が、次々にアキラに襲い掛かっていく。
アキラもなんとかこの攻撃をかわしていく。さすがS級能力の男だ。
しかし残りの5つの頭も、アキラを食らおうと、これに加わってきた。
アキラのスピードが次第に鈍っていく。
高みの見物を決め込むアイシルが他人事のようにつぶやく。
「あ~あ、これは、やられちゃうね」
アキラがおろちの噛みつき攻撃に肩をかすられ、バランスを崩して倒れた。
8つの頭が一斉に襲い掛かる。絶体絶命だ。
「アキラよ、安からに眠れ……」
ユキオはアキラの成仏を祈った――。