奴隷商人・ウォルフガング登場「金払いのいいお客様は大好きです」
美尻の女騎士・アマーリアさんに鼻の下をのばしたばかりに、相棒のアイシルの必殺飛び蹴りを食らったユキオ。
ヒリヒリする顔をさすっていると、黒いジャケットに黒いネクタイ、店の中なのにサングラスの男が近づいてきた。
また、ユキオに不満を持つ者がからみに来たのか? その怪しい身なりにユキオの緊張が高まる。
「そう身構えないでくださいよ」
男が言う。
「私は奴隷商人のウォルフガングです。銀級冒険者のユキオさん、どうぞごひいいきに」
ユキオがこう言い返す。
「しかし奴隷なんて。私は自分が持とうとも思わないし、買おうとも思わない」
ウォルフガングが落ち着いた調子で言う。
「しかし思い出してください。巨大吸血コウモリと戦った時、あなたは偶然のラッキーなしで勝てましたか?」
ユキオはドキリとして振り返った。
戦いの前に偶然レベルが上がり「フレーミングヒート」を習得していたこと。
前世の経験で偶然、コウモリの弱点がハッカの香りだと知っていたこと。
この2つの偶然がなければ、俺はきっと巨大吸血コウモリの犠牲になっていた――。
「ユキオさん、あなたには絶対的に攻撃力が足りない」
ウォルフガングの指摘がユキオの腑に落ちてくる。ウォルフガングがたたみかけるように続ける。
「ユキオさんは攻撃力のある誰かとパーティを組む必要があります。そのためのパートナーとして奴隷を選択するのが、最も確実で失敗の少ない方法ですね。銀級冒険者とはいえ、あなたはこのままでは冒険の中で犠牲になる可能性は高いですよ。どうです、奴隷をパートナーにして攻撃を任せてみては」
「……見せてもらえますか」
ユキオはウォルフガングに言う。
「あなたが扱っている奴隷を見せてください――」
ユキオとアイシルは、奴隷商人・ウォルフガングと一緒に酒場を出て、彼の後について歩いていった。
ウォルフガングは盛り場を抜けて、商店街を抜けて、細い路地の中に入っていく。
しばらく歩くと、路地に面した建物の玄関に、大きな鉄板があった。
鉄板には鍵が掛けられてあった。
ウォルフガングは鍵を空けてその鉄板を上に開いた。下には地下に続く階段が作られている。ウォルフガングは階段を降りながら2人を手招きする。
地下室には不気味な唸り声が響いていた。
それぞれの部屋は頑丈な檻になっており、それぞれの奴隷が入れられている。まるで地下牢のようだ。暗い照明の中、眼だけが光を放つ、異様な光景が広がっている。
「ウォルフガングさんはなぜ俺に声をかけたのですか?」とユキオ。
「金払いがよさそうだからですよ」とウォルフガング。
「なぜそう思うんですか?」
「あなたはお金の奴隷になってないでしょう」
「お金は好きですが……」
「でもあなたにとってお金は手段にしか過ぎないでしょう。目的にはなっていない」
「そうなんですかね……」
「雑談はこれくらいにしておいて、商売の話をさせていただきましょうか」
「ウォルフガングさんは人間の奴隷も扱っているのですか?」
「いえ、私が扱うのは亜人か獣人の奴隷のみです」
「なぜです?」
ユキオが聞くと、ウォルフガングは、
「人間の奴隷は使用人と能力が似通っているため、仕事のパートナーとしては効率が悪いですし、モラルの問題もある」
と説明する。なるほど。ウォルフガングがさらにこう続ける。
「人間の奴隷はどちらかと言えば実験用や愛玩用で使われる、悲惨な運命をたどることが多い。主に闇市場で扱われることが多いです。私は正規市場での取引きをモットーにしております」
「よくわかりました。説明いただきありがとう」
ユキオは礼を言う。
ウォルフガングはひとつの檻の前で立ち止まった。
「こちらは鬼族のアシュラです。戦闘力はすべて最強に近く、最強の奴隷ですよ。命令を冷静沈着に執行します。電撃技を使えます。対価は金貨70枚になります」
精悍そうな青年だった。口には牙が生え、頭には鋭い角がある。筋骨たくましく運動能力が抜群なのは見て取れる。しかし、いかんせん、高価すぎる。
続いてウォルフガングは女奴隷の檻の前で立ち止まった。
「これは狼族の亜人・マンゾネです。攻撃はスピーディで威力抜群、ほとんどのモンスターを寄せ付けません。性格もメンタルが強くて戦闘向きです。音波攻撃を使えます。対価は金貨35枚です」
金髪の長い髪に白い肌、青い目の美しい女性亜人だった。戦いの女神のような亜人だ。容姿も申し分ない。金額も無理すれば、なんとかなりそうだ。
しかし彼女でいいのだろうか?
ウォルフガングはもう一人、紹介してくれる。
「これはウサギ族の亜人・ソニアです。攻撃の初期値はアマゾネに劣りますが、スピードも威力も、これからの経験値次第で伸びてくるでしょう。性格は穏やかで愛情豊か。ハンマー爆撃が使えます。対価は金貨25枚です」
檻の前に行くと、ソニアは笑顔を見せた。人懐っこい性格で、笑うと白いほっぺにエクボができる。八重歯も可愛い。髪型はショートボブで耳はうさぎ、まさにウサギ族の象徴のようなルックスだ。
笑顔に気をとられて、身体能力にまで想像は及ばない。戦闘力はそこそこだが、どう考えてもバトル専門の奴隷ではない。
さあ、どうするーー。